免疫内科講義

授業の目的と概要

講義を通じて、免疫疾患は全身病であると理解し、単に知識の整理、吸収にとどまらず、内科学の基本的な考え方を学び、問題解決能力を育むとともに、新たな臨床免疫学の創造への意欲を持って頂きたい。大阪大学が世界に誇る研究のひとつが免疫学である。古くは適塾における種痘所に始まった大阪大学の免疫学であるが、その後近代免疫学として結核病態の研究が行われ、さらに分子生物学の応用によりトップリーダーとして現代免疫学を発展させてきた。現在はこれらの知見を臨床面に応用するとともに、更なる免疫学の進歩に貢献している。一人でも多くの学生諸君に基礎・臨床免疫学の魅力を感じてもらいたい。

学習目標

免疫疾患は全身に多彩な症状・病変を有することを理解した上で、各疾患の特徴と他疾患との鑑別点を把握して正しく診断でき、各疾患に対する治療の概要を知ることを目標とする。

教科書・教材

一般内科教科書

臨床免疫学教科書

臨床免疫総論

この数十年における基礎免疫学の進歩に伴い、関節リウマチやアレルギー疾患の病態が明らかとなり、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤の適切な導入により、患者さんの生活の質は明らかに向上してきている。しかしながら、多くの自己免疫疾患の病因は不明であり、治療においては臓器障害の重症度に応じる非特異的免疫抑制療法が現状であり、病因解明と根本的な治療法の開発が望まれている。本講義では、免疫の破綻による各種疾患の概説、治療の概要とともに、新しい免疫学の知見を基にした将来の展望を紹介する。

大阪大学における免疫学研究の展開と臨床免疫学の発展を振り返り、将来の臨床免疫学の展望を語る。

関節リウマチ

「リウマチ」の「リウマ」とはギリシャ語で「流れる」という意味である。リウマチ性疾患の代表は関節リウマチ(Rheumatoid arthritis;RA)である。RAは関節破壊性の滑膜炎を主体とする炎症性疾患で、関節以外の臓器も傷害される全身性疾患でもある。現在、病態の分子機構に基づいた治療法によって予後が大きく改善している。2010年には新しいRAの診断基準が提唱され、早期診断早期治療が勧められている。RAの病理病態および新たな治療法、治療概念(treat to target、window of opportunity)について概説する。世界で初めて当教室で臨床導入されたヒト型化抗IL-6受容体抗体(tocilizumab)は点滴あるいは皮下注製剤として関節リウマチに対して世界中で使われており、その治療成績を紹介する。

リウマチ類縁疾患

関節リウマチ以外にも「リウマチ」の名がつく疾患や、臨床像が「リウマチ」様の疾患があり、いずれも関節や関節周囲の痛みが多発することを特徴とする。リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎など、関節機能障害をきたす以前に内科で早期診断し、適切な治療を行なうことが大切である。多関節痛をきたすリウマチ性疾患の臨床像、鑑別点、治療法について概説する。

全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)は、多彩な自己抗体が産生され、多臓器障害を呈する自己免疫疾患である。臓器障害は、皮膚粘膜、腎臓、神経、関節、心血管、肺、消化器、血液と多岐にわたり、全身を診察するため、内科学の幅広い知識と経験を必要とする。診断基準を中心にその病態を解説する。抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid syndrome;APS)は、SLEにしばしば合併する易血栓形成性の病態であり、SLEにあわせて解説する。

多発性筋炎と皮膚筋炎

多発性筋炎(Polymyositis;PM)と皮膚筋炎(Dermatomyositis;DM)は、筋組織に細胞浸潤を伴う特発性の炎症性筋疾患であり、DMにおいては、皮膚にもヘリオトロープ疹やGottron兆候などの典型的皮疹を伴う。病態および診断について概説した後、近年有効性が明らかとなった免疫抑制療法について説明する。

全身性強皮症

全身性強皮症(Scleroderma,Systemic sclerosis;SSc)は、進行性の皮膚硬化とレイノー現象を主徴とする慢性疾患であり、原因はいまだ解明されていないが、その発症に自己免疫の関与が示唆されている。講義では、臨床像、検査、診断、治療を概説し、現在考えられている病因についても言及したい。また、強皮症の皮膚病変と薬剤効果を判定するためには皮膚硬化度を客観的に定量する必要がある。当教室で開発した装置(Vesmeter)を紹介する。

混合性結合組織病

混合性結合組織病(Mixed connective tissue disease;MCTD)は、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発/皮膚筋炎の症状が混合した膠原病である。UIRNPに対する自己抗体の単独高値を特徴とする。講義では、臨床像、検査、診断、治療を概説し、現在考えられている病因についても言及したい。

シェーグレン症候群

シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome;SjS)は、眼球および口腔乾燥症状を主訴とする症候群で、外分泌腺、とくに涙腺や唾液腺の機能が障害されるが、多彩な腺外病変をも合併する自己免疫疾患である。その病態、検査法について説明する。また、治療法に関しても説明を加える。

血管炎

血管炎は血管の慢性炎症であり、早期に診断し適切な治療が行なわれないと虚血症状、臓器梗塞、肺・腎・神経障害など重篤な合併症をきたす。血管炎は主に侵される血管、臓器の違いにより分類される。大血管を侵す高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、中血管を侵す結節性多発動脈炎、小血管を侵すANCA関連血管炎として顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症性、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などがある。血管は全身に分布するため、全身を診察する事が重要である。血管炎の臨床像、鑑別点、治療法などを述べる。

自己炎症症候群

自己炎症症候群は1999年提唱された概念で、もともとは自己免疫、アレルギー、免疫不全など従来言われてきた免疫病に合わない疾患群として提唱された。自己炎症は、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、好中球など自然免疫担当細胞の異常により、皮膚、眼、関節、漿膜、消化管などに病変が起こりやすい。自己炎症症候群は、狭義には遺伝性周期熱症候群を指すが、広義にはベーチェット病、成人スティル病、痛風、偽痛風などの自然免疫系を介した疾患を含みます。自己炎症症候群の概念を解説するとともに、いくつかの代表的疾患(ベーチェット病など)の臨床像,検査,診断,治療を概説し,現在考えられている病因についても言及する。

アレルギー疾患総論

「アレルギー」の語源はギリシャ語のallos(異なった)+ergon(活動) に由来し「異なった反応」という意味である。アレルギーの発症機構を、Coombs and Gellによるアレルギー反応の分類とともに概説する。その後、即時型アレルギー疾患に焦点を絞り、診断、現在の重症度別段階的治療に関して講義を進め、最後に最近のトピックスとして、アレルギー疾患の発症率の増加の要因に関しての現在の仮説とその予防対策、今後の新しい治療戦略を紹介する。

腫瘍免疫総論

腫瘍関連抗原と呼ばれるある種のタンパク質を標的として、そのタンパク質を高発現する腫瘍細胞を特異的に攻撃するリンパ球を生体内で誘導できることが明らかとなっている。この原理に従えば、癌細胞のみに障害を与え、正常細胞には障害を与えない癌特異的な免疫療法の開発が可能となる。自験例(WT1を標的とした癌ワクチン療法)も含めて、癌免疫療法の基礎研究および、最新の臨床応用について概説する。

免疫調整分子(IL-6)の発見から抗体医薬の開発へ

大阪大学でB細胞分化因子として発見されたIL-6は肝臓や免疫細胞などに多彩な作用を有し、様々な炎症性疾患や免疫疾患の病態に関わる分子であることが明らかとなった。IL-6の作用を遮断するヒト型化抗IL-6受容体抗体(tocilizumab)は、キャッスルマン氏病や関節リウマチ、若年性特発性関節炎の治療薬として承認され世界で広く使用されている。最近、様々な免疫疾患に対する有効性も示唆され、IL-6は多くの疾患で鍵分子と考えられている。しかし、こうした疾患で「何故IL-6が過剰産生されるのか」という問いが次に解決するべき課題である。本講義では、大阪大学で研究展開されたIL-6を通して、基礎から臨床へ、臨床から基礎研究へとフィードバックする研究の大切さ、面白さを知ってもらうため、世界的免疫学者である岸本忠三特任教授(大阪大学元総長)に講義をして頂き、今年度の免疫内科の全講義を終える。