免疫内科専門医研修

免疫は疫病を免れるために自己と非自己を識別し、病原微生物などの有害な非自己を排除する生体防御機構です。「免疫内科」は免疫システムが自己組織を攻撃する「自己免疫疾患」、免疫が炎症を持続させる「慢性炎症性疾患」、免疫が非自己成分に過剰反応する「アレルギー疾患」、免疫機能が低下する「免疫不全症」など、免疫が関与するなさまざまな疾患を専門に診療している内科です。市中病院や他大学では「リウマチ科」、「膠原病科」、「アレルギー科」などの名称で診療されている疾患領域ですが、いずれの疾患も免疫が関与していることから私達は「免役内科」と標榜して診療にあたっています。

リウマチ性疾患は生涯に女性8%、男性5% が罹患するといわれており、また、我が国では人口の3分の1が何らかのアレルギー疾患を持っているといわれています。免疫疾患によって冒される臓器は肺、血液、腎臓、関節、皮膚、筋肉、神経など多岐にわたります。常にからだ全体に深く注意を払い、問診、診察、血液・画像検査、治療経過において「全身をしっかり診る」ことを意識し、まず内科専門医の取得過程で内科医としての基礎的診療能力をしっかり身につけることが重要です。その後に免疫疾患の専門診療の研修に進みます。また、生体防御機構である免疫と感染症は表裏一体であり、感染症に関しても学ぶことになります。関節レントゲン読影、関節エコーや関節穿刺などの手技も取得します。免疫疾患は大阪大学医学部附属病院に加えて大阪府内、兵庫県東部を中心とした関連病院で専門性の高い研修が可能です。研修過程で内科専門医、日本リウマチ学会専門医、日本アレルギー学会専門医を取得し、標準的な免疫疾患の診療を他科とも協力しながら一人で行えるようになることを目標とします。基礎免疫学から免疫疾患の病因まで含めた免疫学に明るくなり、免疫制御蛋白質を標的とする生物学的製剤(抗体医薬)を用いた治療に習熟し先導する医師を養成します。様々な疾患や臓器障害において免疫学の専門的立場に立脚し、広い視野を持つ臨床医を目指します。他の専門医研修を受けられた後、免疫内科専門医研修に移ることも可能です。専門医としてではなく、免疫疾患を含む総合内科的な診療を行う部門をもつ関連病院もあります。

主な診療対象疾患

(1) 関節リウマチと類縁疾患:関節リウマチ、悪性関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、SAPHO症候群、反応性関節炎、痛風、偽痛風など。
(2) 自己免疫疾患:全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、オーバーラップ症候群、抗リン脂質抗体症候群など。
(3) 炎症性疾患:各種血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、ベーチェット病、成人スティル病、キャッスルマン氏病など。
(4) アレルギー性疾患:気管支喘息、好酸球性血管性浮腫、好酸球増多症、花粉症、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、IgG4関連疾患など。
(5) 免疫不全症候群:先天性、後天性、続発性、血管性浮腫など。

「近代免疫学の父」エドワード・ジェンナーによって発見された天然痘予防のための種痘法は日本では大阪の緒方洪庵が主催する適塾に除痘館として引き継がれ、適塾は当時ワクチンセンターの役割を担っていました。適塾は日本における近代免疫学発祥の地ともいえるでしょう。適塾は大阪大学の源流です。20世紀から21世紀にかけて、大阪大学ではサイトカインとその受容体の発見、免疫担当細胞の分化制御機構、微生物に対する初期応答機構、セマフォリンなど新しい免疫制御分子群の発見など免疫の仕組みが分子生物学の手法を用いて精力的に研究されてきました。大阪大学の免疫学研究は世界の主要研究機関の中ではトップクラス(Thomson Reuters Essential Science Indicators)の評価を受けています。こうした免疫学の成果を臨床現場に導入することが臨床教室である大阪大学免疫内科の役割でもあります。例えば、大阪大学のIL-6研究から生まれた国産初の抗体医薬である抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)は免疫内科で臨床導入され、現在は世界約100カ国に広まり、関節リウマチ、若年性特発性関節炎などの炎症性疾患を劇的に改善させています。数年間医師として診療に携わっていると現在の標準的医療では十分に満足する結果が得られない病態に出会い、「先生、なんとか治して下さい」と話しかけられることがあるでしょう。なぜこうした病態が生じるのかと疑問を抱いた時、解決する糸口となるのが研究活動です。新しい領域を開拓する研究者に憧れを抱いたことのある医師には、是非、研究にも挑戦して頂きたいと思います。大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学教室や、当科OBが主催する大阪大学各免疫学教室での大学院進学を紹介します。

専門医取得条件(詳細は学会ホームページを参照下さい)

学会等名 日本リウマチ学会
資格名 リウマチ専門医
資格要件 学会会員歴 5 年以上。基本領域学会認定医であること。認定教育施設にて5年以上のリウマチ学の臨床研修を行なったこと。30単位以上の研修単位。10症例の病歴要約。専門医試験に合格すること。
【学会の連携等の概要】 2017年時点の認定施設:大阪大学医学部附属病院、国立病院機構大阪南医療センター、NTT西日本大阪病院、大阪急性期・総合医療センター、公立学校共済近畿中央病院、堺市立総合医療センター、大阪はびきの医療センター、大阪府結核予防会大阪病院、日本生命済生会附属日生病院、市立東大阪医療センター、宝塚市立病院
学会等名 日本アレルギー学会
資格名 アレルギー専門医
資格要件 学会会員歴 5 年以上。基本領域学会認定医であること。6年以上の臨床研修歴(認定教育施設にて3年以上)。40名以上の診療実績(最近5年)と2症例の報告書。50単位以上の研修単位(学会3回以上参加)。専門医試験に合格すること
【学会の連携等の概要】 2017年時点の認定施設と科名:大阪大学医学部附属病院/免疫内科、国立病院機構大阪南医療センター/リウマチ・膠原病・アレルギー科、NTT西日本大阪病院/内科、大阪急性期・総合医療センター/免疫リウマチ科、公立学校共済近畿中央病院/免疫内科、堺市立総合医療センター/内科、大阪はびきの医療センター/アレルギー内科、大阪府結核予防会大阪病院/内科、日本生命済生会附属日生病院/総合内科