大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
IgG4関連疾患(IgG4-related disease)は、腫瘤や隆起性病変部で、IgG4陽性の形質細胞の浸潤を認め、血清IgG4高値(135mg/dl以上)を特徴とする。多彩な部位で様々な症状を呈する。歴史的に、自己免疫性膵炎とMikulicz病の観察から提唱された疾患概念で、本邦から重要な報告がなされてきた。
1991年、都立駒込病院のKawaguchi Kらは、膵癌の診断にて切除された検体に、異形細胞ではなく形質細胞の浸潤と著しい線維性硬化を特徴とする像を報告し、Lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitisと呼称した。1995年、東京女子医大のYoshida Kらは、膵炎の中でステロイドの著効する自己免疫性膵炎の概念を発表した。2001年、信州大のHamano Hらは、自己免疫性膵炎患者での高IgG4血症を指摘し、IgG4との関連を報告した。これら自己免疫性膵炎とIgG4との関連の経緯は、Hamano Hの文献(信州医誌2010)に詳しい。
一方、Mikulicz病は、1892年、Mikulicz Jが報告した対称性に涙腺や唾液腺が無痛性に腫脹する症例が初めであった。しかし、1930年、Sjögren Hが、関節リウマチ、乾燥性角結膜炎、耳下腺腫脹を伴った症例を報告し、Sjögren症候群と呼ばれるようになり、1953年、病理学者のMorgan WSとCastleman BがMikulicz病はSjögren症候群と同一であるとし、欧米ではMikulicz病は一時忘れ去られたようである。
しかし、2004年、札幌医大のYamamoto Mらは、Mikulicz病患者で高IgG4血症を指摘し、Mikulicz病はIgG4の関連する全身疾患であると報告し、再び注目されるようになった。自己免疫性膵炎とMikulicz病をともにIgG4に関連する疾患と捕らえられたことより、IgG4を中心とした疾患範囲は大きく広がり、涙腺、唾液腺、甲状腺、リンパ節、髄膜、大動脈、肺、心膜、胆管、腎臓、前立腺、皮膚など殆どすべての臓器に生じうる疾患と考えられるようになった。
2011年には、本邦よりIgG4関連疾患包括診断基準が提唱された。国際的にもIgG4-related diseaseの名称が認められている。現在では以下にあげられる多くの既存疾患あるいはその一部がIgG4関連疾患に含まれると考えられている。
IgG4関連疾患 | |
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自己免疫性下垂体炎 | Autoimmune hypophysitis |
眼窩偽腫瘍 | Orbital pseudotumor |
ミクリッツ病 | Mikulicz's disease |
Küttner腫瘍:慢性硬化性唾液腺炎 | Küttner's tumor |
橋本甲状腺炎 | Hashimoto's thyroiditis |
Riedel甲状腺炎*1 | Riedel's thyroiditis |
間質性肺炎 | Interstitial pneumonia |
自己免疫性膵炎 | Autoimmune pancreatitis |
硬化性胆管炎 | Sclerosing cholangitis |
尿細管間質性腎炎 | Tubulointerstitial nephritis |
リンパ形質細胞性大動脈炎 | Lymphoplasmacytic aortitis |
炎症性動脈瘤 | Inflammatory aneurysm |
好酸球性血管中心性線維症*2 | Eosinophilic angiocentric fibrosis |
炎症性偽腫瘍 | Inflammatory pseudotumor |
前立腺炎 | Prostatitis |
皮膚偽リンパ腫*3 | Cutaneous pseudolymphoma |
Rosai-Dorfman病 | Rosai-Dorfam disease |
IgG4は、健常人では全IgGの5%以下で、IgG1~G3と比べると最も少ない。その濃度は、1-140mg/dlと個人差がある。IgG4のFc領域は、補体(C1q)やFcγ受容体への結合が弱く、免疫活性化における役割は少ないと考えられている。興味深いことにIgG4は、形質細胞より分泌された後、他のIgGと異なり、Fab領域が他のFabと交換され、1分子で異なった2つの抗原を認識(bispecific Ab)できるようになることである。こうしたできたBispecific抗体は抗原を架橋せず、免疫複合体形成能の低下によって抗炎症作用を示すと考えられている。
IgG4産生は、抗原刺激下で、主にアレルギー反応に関与するTh2タイプのサイトカインであるIL4、IL-13によって産生誘導される。IgEもTh2タイプのサイトカインで産生誘導を受けるが、IL-10、IL-12、IL-21が存在すると、産生はIgEよりIgG4の方に傾く。Th2優位な状態において、さらにregulatory T細胞(IL-10を産生する)が活性化された状況のときに、IgG4が産生誘導されると考えられている。Th2サイトカインは、IgEや好酸球浸潤を誘導し、またregulatory T細胞はTGFβを産生して線維化を促進する。これらのサイトカインがIgG4関連疾患で見られるIgE高値、好酸球浸潤、病変の線維化に関与すると考えられる。
IgG4関連疾患において産生されるIgG4の役割についてはよく解っていない。自己免疫として組織障害をおこす自己抗体として産生される、あるいは、炎症性の刺激に反応して産生される、との2つの考えがある。確かに、尋常性天疱瘡や落葉状天疱瘡での抗デスモグレイン抗体、血栓性血小板減少性紫斑病での抗ADAMTS13抗体として、IgG4クラスの自己抗体が報告されている。一方、上記したようなIgG4関連疾患では、確立した自己抗体が見つかっていないことや、IgG4は抗炎症作用を持つとの考えから、炎症性の刺激に対する反応として、IgG4が産生されるとの考えがある。
病変部にリンパ球とIgG4陽性の形質細胞の著しい浸潤と線維化をきたし、腫大や結節による圧迫や閉塞症状をきたす。細胞浸潤や線維化による臓器機能不全などは、時に重篤である。浸潤は全身のあらゆる臓器に複数生じることがあり、臓器によって症状が多彩である。Matsui SらによるIgG4-Mikulicz病25例の解析では、44%にアレルギー症状が見られ、鼻炎(36%)、気管支喘息(28%)、両者(20%)であった。両側性の涙腺、耳下腺、顎下腺の腫脹、腫瘤が見られる場合は、IgG4関連疾患としてミクリッツ病を疑う。従来、自己免疫性膵炎、炎症性偽腫瘍、後腹膜線維症、Castleman氏病とされていたものも、IgG4関連疾患を疑う。間質性腎炎、間質性肺炎などの中にもIgG4関連疾患が含まれていることがある。
血清IgG4高値(135mg/dl以上)は特徴的であるが、その他に、高IgE血症・好酸球増加は、40%に見られる。高IgG血症、補体低下、免疫複合体の存在、なども時にみられる。
画像検査では、CTやMRIによって、涙腺・耳下腺・顎下腺の腫脹(IgG4関連疾患-ミクリッツ病)、びまん性・分節状巣状の膵腫大(自己免疫性膵炎)、後腹膜線維症や腫瘍による尿管狭窄、腎実質の多発造影不良域・びまん性腎腫大・hypovascularな単発性腎腫瘤・腎盂壁肥厚病変(IgG4関連腎症)などがみられる。ガリウムシンチやFDG-PETにて、集積を伴う場合がある。
病理検査(組織所見)が、確定診断には必要である。IgG4/IgG陽性細胞比が40%以上、かつ、強拡大視野で10個以上のIgG4陽性細胞を認めることが典型像である。IgG4陽性細胞はびまん性に浸潤する。様々な炎症性疾患や悪性腫瘍でも、IgG4陽性細胞がみられることがあり、陽性細胞の比率が診断に重要である。軽度から中等度の好酸球浸潤もしばしば認められる。
膵臓や下顎腺ではしばしば閉塞性静脈炎を伴うが、涙腺では少ない。病期がすすむと、形質細胞の浸潤が減少し、線維化が主になる。膵・後腹膜・脳下垂体などの生検が難しい場所では、ステロイド投与による治療的診断にて、本疾患の可能性が示唆されるが、時に悪性リンパ腫や腫瘍随伴病変でもステロイドで一時改善することがあるため、確からしい病理診断に努めることが重要である。
Wallace ZS et al. Ann Rheum Dis. 79(1):77-87. 2020
IgG4関連疾患はほぼすべての臓器において線維性炎症性病変を起こしうる疾患であり、診断には臨床、血清、画像、病理組織像の間で関連性が必要である。本邦からも含め、米国(ACR)、欧州(EULAR)の国際的専門家グループによりIgG4-RD分類基準が作成提唱された。
エントリー基準 | ||
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典型的臓器(膵臓、唾液腺、胆管、眼窩、腎臓、肺、大動脈、後腹膜、硬膜、甲状腺(リーデル甲状腺炎))で臨床や画像の特徴的所見、または、これらの臓器のいずれかに病因不明な形質細胞浸潤を伴う炎症過程の病理組織像。 | ||
除外基準 | ||
発熱 | ステロイドに客観的に反応しない。 | |
血清学的 | 原因不明の白血球減少と血小板減少。末梢好酸球増多。(PR3やMPO)ANCA、SSA抗体、SSB抗体、dsDNA抗体、RNP抗体、Sm抗体、その他疾患特異的自己抗体が陽性。クリオグロブリン血症。 | |
画像検査 | 十分精査されてない悪性腫瘍や感染症の疑いがある既知の画像所見(画像検査上急速な進行、Erdheim-Chester病と一致する長管骨異常、脾腫) | |
病理組織 | 十分精査されてない悪性腫瘍を示唆する細胞浸潤。炎症性筋線維芽細胞腫と一致する所見。顕著な好中球性炎症(壊死性血管炎、顕著な壊死、肉芽腫性炎症、マクロファージ/組織球性疾患の病理学的特徴) | |
既知の診断 | 多中心性キャッスルマン病、クローン病や潰瘍性大腸炎(膵胆管疾患のみの場合)、橋本甲状腺炎(甲状腺疾患のみの場合) | |
採点基準 | ||
病理組織 0~13点 |
0点 | 特徴なし |
4点 | 高密度なリンパ球浸潤 | |
6点 | 高密度なリンパ球浸潤および閉塞性静脈炎 | |
13点 | 閉塞性静脈炎の有無にかかわらず高密度なリンパ球浸潤および花むしろ状線維症 | |
免疫組織染色 0~16点 |
0点 | IgG4/IgG陽性細胞比0~40%か未定でIgG4+細胞/hpfが0~9 |
7点 | IgG4/IgG陽性細胞比41%以上でIgG4陽性細胞/hpfが0-9 か未定 | |
7点 | IgG4/IgG陽性細胞比0~40%か未定でIgG4陽性細胞/hpfが10以上か未定 | |
14点 | IgG4/IgG陽性細胞比41~70%でIgG4陽性細胞/ hpfが10以上 | |
14点 | IgG4/IgG陽性細胞比71%以上でIgG4陽性細胞/ hpfが10~50 | |
16点 | IgG4/IgG陽性細胞比71%以上でIgG4陽性細胞数/ hpfが51以上 | |
血清IgG4 0~11点 |
0点 | 正常または未検 |
4点 | 正常をこえるが正常上限の2倍未満 | |
6点 | 正常上限の2~5倍 | |
11点 | 正常上限の5倍以上 | |
涙・唾液腺病変 0~14点 |
0点 | 涙腺、耳下腺、舌下腺、顎下腺に病変認めず |
6点 | ひとつの腺に病変 | |
14点 | 2つ以上の腺に病変 | |
胸部 0~10点 |
0点 | 未検あるいは以下のいずれも認めない |
4点 | 気管支血管周囲および隔壁肥厚 | |
10点 | 胸部の傍脊椎帯状軟部組織 | |
膵臓と胆道 0~19点 |
0点 | 未検あるいは以下のいずれも認めない |
8点 | びまん性膵臓肥大(小葉の消失) | |
11点 | びまん性膵臓肥大および造影効果の低下したカプセル状の縁 | |
19点 | 上記のいずれかの膵病変および胆道系病変 | |
腎臓 0~10点 |
0点 | 未検あるいは以下のいずれも認めない |
6点 | 低補体血症 | |
8点 | 腎盂の肥厚/軟部組織 | |
10点 | 両側腎皮質低密度領域 | |
後腹膜 0~8点 |
0点 | 未検あるいは以下のいずれも認めない |
4点 | 腹部大動脈壁のびまん性肥厚 | |
8点 | 腎下部大動脈や腸骨動脈の周囲または前外側軟部組織 | |
エントリー基準があり、除外基準が存在せず、8項目の採点合計が20点以上であればIgG4-RD分類基準を満たす。 |
包括診断基準と臓器特異的診断基準を併用して診断する。
項目 | |
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1. | 臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変 |
2. | 血液学的に高IgG4血症(135mg/dl以上) |
3. | 病理組織学的に以下の2つ ①著明なリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化 ②IgG4陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG陽性細胞比40%以上、かつIgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える |
できる限り組織診断を加えて、各臓器の悪性腫瘍(癌、悪性リンパ腫など)や類似疾患(Sjögren症候群、原発性硬化性胆管炎、Castleman氏病、二次性後腹膜線維症、肉芽腫性多発血管炎、サルコイドーシス、好酸球性肉芽腫性多発血管炎など)と鑑別することが重要である。
本基準により確診できない場合にも、各臓器の診断基準によっても診断が可能である。また、包括診断基準で準確診、疑診の場合には、臓器特異的IgG4関連疾患診断基準を併用する。現在「IgG4関連涙腺唾液腺炎(IgG4-Mikulicz病)診断基準」、「IgG4-自己免疫膵炎診断基準」、「IgG4関連腎症診断基準」、「IgG4関連大動脈周囲炎/動脈周囲炎および後腹膜線維症診断の指針」が公表されている。
項目 | |
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1. | 3ヶ月以上続く、涙腺・耳下腺・顎下腺のうち2領域以上の対称性の腫脹 |
2. | 血清IgG4高値(135mg/dl以上) |
3. | 病理組織では特徴的な組織の線維化と硬化を伴い、リンパ球とIgG4陽性形質細胞の浸潤を認める(IgG4/IgG>0.5) |
サルコイドーシス、Castleman氏病、肉芽腫性多発血管炎、リンパ腫、癌などを鑑別する。また、シェーグレン症候群と診断された中に、異なる疾患であるIgG4関連涙腺唾液腺炎が含まれている可能性がある。
項目 | |
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Ⅰ | 膵腫大 a:びまん性腫大(diffuse) b:限局性腫大(segmental/focal) |
Ⅱ | 主膵管の不整狭細像:ERP |
Ⅲ | 高IgG4 血症(135mg/dl以上) |
Ⅳ | 病理所見:以下の、a:3つ以上/ b:2つ ①高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化 ②強拡大1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤 ③花筵状線維化(storiform fibrosis) ④閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis) |
V | 膵外病変 a:臨床的に、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz病)、後腹膜線維症と診断 b:病理学的に、硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症の特徴的な病理所見 |
オプション:ステロイド治療の効果 膵癌や胆管癌を除外(超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS―FNA)細胞診など)後に、ステロイドの効果を診断項目に含むことができる。病理学的な悪性腫瘍の除外診断なく、ステロイド投与による安易な治療的診断は避けるべきである |
自己免疫性膵炎を示唆する限局性膵腫大を呈する例で、ERP像が得られなかった場合、EUS-FNAで膵癌が除外され、Ⅲ/Ⅳb/Ⅴ(a/b)の1つ以上を満たせば疑診とする。さらにオプション所見が追加されれば準確診とする。疑診においては、本邦では極めてまれな2型の可能性もある
項目 | |
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1. | 尿所見、腎機能検査に何らかの異常を認め、血液検査にて高IgG血症・低補体血症・高IgE血症のいずれか |
2. | 腎臓の画像上異常所見 a:腎実質の多発性造影不良域 b:びまん性腎腫大 c:単発性腎腫瘤(hypovascular) d:腎盂表面の不整を伴わない腎盂壁肥厚病変 |
3. | 高IgG4血症(135mg/dl以上) |
4. | 腎臓の病理組織学的所見 a:著明なリンパ球、形質細胞の浸潤を認め、IgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える、あるいはIgG4/IgG陽性細胞比40%以上である b:リンパ球や形質細胞の浸潤細胞を取り囲む特徴的な線維化を認める |
5. | 腎臓以外の臓器の病理組織学的に著明なリンパ球・形質細胞の浸潤を認め、IgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える、あるいはIgG4/IgG陽性細胞比40%以上である |
1:肉芽腫性多発血管炎、好酸球性肉芽腫性多発血管炎、extramedullary plasmacytomeなどは臨床上、病理組織学的に鑑別を要する。
2:悪性リンパ腫、尿路上皮癌、腎梗塞、腎盂腎炎(稀に肉芽腫性多発血管炎、サルコイドーシス、癌の転移)などは画像診断において鑑別を要する。
3:診断のためのアルゴリズムで疑いとなる症例(文献参照)は診断基準では、準確診群もしくは疑診群に分類される。
項目 | |
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1. | CT画像所見 a. 動脈壁(外膜側)の肥厚性病変(多くは全周性)*、もしくは周囲軟部濃度腫瘤 b. 腎盂から尿管壁にかけての肥厚性病変** c. 骨盤内後腹膜の板状軟部影(主に両側性) |
2. | 高IgG4血症(135mg/dL以上)。 |
3. |
病理組織所見 ①著明なリンパ球・形質細胞浸潤と線維化*** |
4. | 他臓器(涙腺・眼、唾液腺、膵臓、胆管、腎臓、肺)に包括診断基準や各臓器の特異的診断基準の確診に合致する所見がある。 |
確診:1(a、b、cのどれか)+3a あるいは 1(a、b、cのどれか)+2+4
準確診:3a あるいは 1(a、b、cのどれか)+3b あるいは 1(a、b、cのどれか)+4
疑診:3b あるいは 1(a、b、cのどれか)+2
* 大血管では内腔の狭小化を伴わないが、中型動脈(冠動脈など)では狭小化を伴うことがある。血管腔拡張(動脈瘤)を伴う場合と伴わない場合がある。動脈硬化や血管壁の解離、感染性病変(細菌、結核、梅毒など)、血管炎、悪性リンパ腫、固形癌、Erdheim-Chester病などの他の病態による血管壁の変化で説明できる場合を除外する。大動脈~総腸骨動脈~内腸骨動脈および中型動脈(冠動脈、上腸間膜動脈や碑動脈などの大動脈からの一次/二次分枝)に好発する。
** 腎盂および上部尿管に好発する。
*** 動脈では外膜主体の炎症である。ただし、胸部大動脈では中膜炎が高度の場合がある。組織像は、典型例では線維化は花筵状で閉塞性静脈炎を伴う。閉塞性静脈炎の同定はElastica van Gieson染色標本での確認が推奨される。壊死、肉芽腫、好中球浸潤は通常見られない所見であり、見られる際は上記の組織所見の基準を満たしたとしても慎重な判断を要す。
比較試験で検討された治療法はない。重要臓器に病変がある場合は臓器障害をきたすことがあり、治療を急ぐこともあるが、自覚症状のないリンパ節腫脹だけのこともある。
通常ステロイドで治療する。プレドニン 0.6mg/kg/日を2~4週投与し、その後3~6ヶ月かけて5mg/日まで減量し、2.5mg/日から5mg/日で維持する。ステロイドによく反応することが多く、腫瘤の縮小と血清IgG4の低下を見るため、たとえ腫瘤性病変であっても摘出手術の必要はなくなることが多い。ステロイドを漸減していくと、再燃を見ることもある。線維化を伴っていると治療に反応しにくい。
治療抵抗性の場合、ステロイドの減量を容易にするため、免疫抑制薬(azathioprine、mycophenolate mofetil、methotrexateなど)が併用されることもあるが、臨床試験でのデータはない。再発難治例ではrituximabが使用され改善したという報告がある。
IgG4関連疾患は免疫が介在する線維炎症性疾患で、病変はほぼ全ての臓器で生じうるが、膵臓、胆管、唾液腺、涙腺、後腹膜、リンパ節などが主である。隆起性の組織破壊性病変から臓器不全に至ることがある。日本人24名を含む多分野の専門医42名による国際同意ガイダンス(2015)が表明されている(括弧内は同意した専門医の割合)。
臨床上、あるいは病理組織像がIgG4関連疾患と似る疾患として以下が挙げられる。ANCA関連血管炎(GPA、MPA、EGPA)、腺癌、扁平上皮癌、腫瘍周囲浸潤、Castleman氏病、皮膚形質細胞増多症、Erdheim-Chester病(組織球細胞の全身の浸潤を特徴とする稀な疾患)、炎症性筋線維芽細胞腫瘍、炎症性腸疾患、リンパ増殖性疾患(節外周辺帯B細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、濾胞性リンパ腫)、穿孔性膠原線維症、原発性硬化性胆管炎、副鼻腔炎、Rosai-Dorfman病(リンパ洞内の組織球増殖性疾患、組織球の中にリンパ球が取り込まれる)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、Splenic sclerosing angiomatoid nodular transformation、黄色肉芽腫など。
IgG4関連疾患の腫瘤病変と癌との鑑別には、画像検査はしばしば不十分である。また、IgG4陽性形質細胞浸潤は悪性腫瘍、GPA、EGPA、MPA、Castleman氏病などでも見られるが、花筵状線維化や閉塞性静脈炎の存在は特異度を上げる。IgG4関連硬化性胆管炎と原発性硬化性胆管炎との鑑別は難しい。
無症状であっても、胆道系、腎臓、大動脈、縦隔、後腹膜、腸間膜などでは重篤で不可逆性の障害を生じうる。無症状のリンパ節腫脹や顎下腺の軽度腫大などでは注意深い経過観察も可能であろうが、自己免疫性膵炎は無治療では合併症を起こしやすい。ステロイドが禁忌であればRituximab (RTX)が考慮されることがある(本邦では保険適応なし)。特に不可逆性の障害を生じうる以下の病態では治療が急がれる。大動脈炎(炎症性動脈瘤の拡大や動脈解離)、後腹膜線維腫(神経障害、尿路閉塞、腎不全)、中枢性胆道狭窄(感染性胆管炎、線維化と肝硬変)、尿細管間質性腎炎(慢性腎疾患)、硬膜炎(神経障害や痙攣)、膵腫大(膵外分泌内分泌障害)、心外膜炎(タンポナーデ、収縮性心外膜炎)。高度に線維化した眼病変などは手術適応である。
体重や疾患活動性にもよるが、例としてプレドニゾロン30mg~40mg、あるいは0.67mg/kgで開始し、2~4週間継続後、20mgまでは2週間毎10mg減量、その後20mgを2週間維持し5mgまで2週間毎に減量、3~6ヶ月でステロイドをオフにする。日本の医師は低用量で3年まで継続維持することを推奨している。
この文言には意見が分かれ、日本の医師の80%は治療開始からの免疫抑制剤併用には反対しているが、他国医師の76%は一部の患者では併用が望ましいと考えている。しかし、多くの医師は疾患活動性が続きステロイドが減量できない場合は免疫抑制剤の追加は適切と考えている。AZA、MMF、MTX、TAC、CYCなどが使用されてきたがその有効性は不明なままである。RTXは有効例が多く報告されており、単独でも効果がみられる(本邦では保険適応はない)。
多臓器病変、IgG4著明高値、中枢胆管病変、再燃病歴、などは寛解導入後の早期に再燃しやすい。維持療法には低用量ステロイド、又は、RTXが使用されてきたが、RTXの投与回数や期間など決まったものはない。日本では自己免疫性膵炎で再燃リスクのある場合はプレドニゾロン2.5mg~5mgでの維持療法を勧めている。
殆どの症例ではIgG4関連疾患の再燃に際してもステロイドに良く反応する。再燃例では将来再燃を繰り返す可能性が高い。