免疫疾患の解説一覧

血管性浮腫 Angioedema

概要

蕁麻疹は表皮の下の真皮内の肥満細胞からのヒスタミン放出による血管透過性亢進により表皮を盛り上げる境界明瞭な膨疹であるが、血管性浮腫は真皮深層、皮下組織深部での血管透過性亢進により局所的に膨隆した境界不明瞭な浮腫である。皮膚、気道、消化管などに反復し局所がパンパンに腫れるが、数日で症状が消失するため未診断のまま放置されることもある。月に何度も起こることもあれば、数年ぶりに起こるようなこともある。上気道に浮腫が生じると窒息の危険があり診断は重要である。血管性浮腫はクインケ浮腫とも呼ばれる。ブラジキニン誘導性血管性浮腫として、補体、キニン系、凝固・線溶系を抑制するC1-INH(インヒビター)の遺伝的又は後天的異常、C1-INH正常だが凝固XII因子、アンジオポエチンI、プラスミノーゲン遺伝子異常によるもの、IgE介在性あるいはIgE非介在性の肥満細胞の脱顆粒によるアレルギー性血管性浮腫、ACE阻害剤などによる薬剤性、好酸球性などの原因で生じ、それぞれ治療が異なる。病態にアレルギーや補体、好酸球などが関与するため免疫内科で鑑別治療を行うこともある。

血管性浮腫の分類 原因
遺伝性血管性浮腫 先天性のC1-INH産生異常や機能異常。
後天性血管性浮腫 C1-INHの消耗、後天的自己抗体の出現など。
正常C1-INH遺伝性血管性浮腫 C1-INH以外のFXII、ANGPTI、PLGその他の遺伝子異常による血管透過性亢進。
アレルギー性血管性浮腫 最も多い。牛乳、卵、小麦などの食物、ペニシリンなどの薬物、ラテックスや虫刺症。
非アレルギー性薬剤性血管性浮腫 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるロイコトリエン産生亢進、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)などによるブラジキニン産生亢進など。
好酸球増多を伴う血管性浮腫 反復性と非反復性(日本人に多い)がある。
物理的刺激による血管性浮腫 寒冷、日光、振動などの特定の物理刺激による。蕁麻疹を伴う場合がある。
特発性血管性浮腫 蕁麻疹を伴う場合があり、肥満細胞の脱顆粒による。

遺伝性/後天性血管性浮腫 Hereditary/ Aquired Angioedema

概要

遺伝性血管性浮腫では幼少時は無症状か軽度であるが、10代ころから最初の症状が出始める。皮膚深部の浮腫では、圧痕を伴わない境界の不明瞭な浮腫が、顔面(眼瞼、口唇、舌)、四肢、外陰部に出現し、通常2-5日間で自然消失する。熱感、痛み、かゆみは伴わない。誘因として抜歯など外科的処置や外傷、暑さや寒さ、激しい運動、物理的刺激、感染症、情緒的ストレス、身体ストレス、月経など。誘因不明のこともある。

上気道に浮腫が生じると呼吸困難を生じる。喉頭より上部で浮腫が生じ窒息様となることがあり、重症な場合は気管切開を必要とすることがある。症状出現から窒息様の状態まで至る時間は20分から14時間と様々である。消化管に浮腫が生じると、悪心、嘔吐、腹痛、腹部圧痛など様々な閉塞症状をきたす。皮膚の局所浮腫症状がなく、消化管症状のみの場合、急性腹症として緊急手術されたり、心身症と診断されていたりする。通常12-24時間で消化器症状は軽快する。遺伝性/後天性血管性浮腫はC1-INH(C1インヒビター、C1エステラーゼインヒビター、C1インアクチベーター)活性の先天的あるいは後天的な欠損で生じ、時に見逃されることがあるが、診断にはこの疾患を念頭に置き、C1-INH 活性、C1-INH蛋白質レベル、C4を測定。異常値であれば再検し確定する。C1-INH以外の遺伝子に原因がある事もあり、正常C1-INH遺伝性血管性浮腫としてエクソーム解析を行わないと原因遺伝子は同定困難である。

遺伝性/後天性血管性浮腫は比較的稀な疾患であるが、血管性浮腫を繰り返す、家族歴(25%は家族歴をもたない)、小児期~青年期の発症、再発性の腹痛発作、上気道浮腫、抗ヒスタミン剤・ステロイド・エピネフリンなどに反応しない、腫脹前の前駆症状、蕁麻疹を伴わないなどの症状で疑う。C1-INH活性低下による浮腫は局所が変形するほどに腫れ上がり、繰り返すという特徴がある。浮腫が気道や腸管に生じると窒息や腸閉塞をきたすこともあるため本疾患の知識が必要である。腫れ・腹痛ナビHAE情報センターのページが参考になる。アレルギー疾患、薬剤性などの原因による血管性浮腫、好酸球増多症候群、心不全、肝臓疾患、腎臓疾患、甲状腺機能低下症、静脈血栓症、高齢者の血流うっ滞、RS3PE、寝起き顔のむくみなどその他の原因による浮腫の鑑別が必要である。

機序

遺伝背景の下にさまざまな発症要因が加わることにより、皮膚や粘膜における補体系・凝固系・キニン系が調節できず、血管浮腫が出現する。C1-INHは、補体系因子C1r、C1s、凝固系因子 (XIa, XIIa, XIIf)、キニン系(kallikrein)を抑制しているが、本症では、C1-INHが欠損あるいは機能低下があるためこれらの系を十分に抑制できず、最終的に血管透過性亢進作用を持つブラジキニン産生亢進やC3aやC5aなどのアナフィラトキシン産生亢進によって血管透過性を生じる。C1-INH以外の遺伝子異常によってもブラジキニン過剰産生を生じうる。

分類

遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema: HAE)
Type 頻度 C1-INH活性 C1-INH抗原 C4
1 80-85% 低下 低下 低値
2 15-20% 低下 正常~高値 低値
正常C1-INH遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema with normal C1-INH: HAEnCI)
Type C1-INH活性 C1-INH抗原 C4
3 正常 正常 正常
後天性血管性浮腫(Aquired Angioedema: AAE)

通常40歳以降に発症し、家族歴がない。遺伝性HAEより稀。遺伝性HAE ではC1qはほぼ正常であるが、後天性では75%でC1qが低下する。本邦での一例目を当科から報告した。

Type C1-INH活性 C1-INH抗原 C4
1, 2 低下 正常~低下 低値

診断

遺伝性血管性浮腫の疑いがある場合はC1-INH活性、C1-INH蛋白質、C4を測定する。

(1) C1-INH活性低下、C1-INH蛋白質低下、C4低下であればI型HAEと診断、検査をくり返して確定する。ただし、家族歴がなく、30歳以降に症状出現した場合はC1-INH機能異常による後天性血管性浮腫と診断。
(2) C1-INH活性低下、C1-INH蛋白質正常~上昇、C4低下であればII型HAEと診断、検査をくり返して確定する。
(3) C1-INH活性正常、C1-INH蛋白質正常、C4正常であれば、

①発作時に再検査を行い、異常ならI型あるいはII型HAEと診断
②発作時でも正常で、家族歴があり血液凝固第XII因子/アンジオポエチンI/プラスミノーゲンなどの遺伝子異常が見つかればIII型HAE/正常C1-INH遺伝性血管性浮腫と診断。家族歴がなくこれらの遺伝子異常がない場合は、肥満細胞メディエーター誘発性血管性浮腫、ACE阻害剤による薬剤性血管性浮腫、特発性血管性浮腫などの診断となる。

治療

ステロイド、抗ヒスタミン薬、エピネフリンは症状軽減に有効だが、発作を抑えるには不十分で、浮腫発作にはトラネキサム酸点滴(トランサミン15mg/kg 4時間毎)による治療、重篤な急性発作や侵襲を伴う処置により急性発作リスクがある場合ではヒト血漿由来C1-INH製剤(ベリナートP® CSLベーリング社)を投与する。あるいは10アミノ酸からなるブラジキニンB2受容体拮抗薬であるイカチバント(フィラジル® シャイアー)を投与する。イカチバントは教育指導を受けた場合は自宅での自己注射も可能である。月に一回以上の発作や、5日以上の発作がある場合であれば、トラネキサム酸(トランサミン® 30~50mg/kg/day)、あるいはタンパク同化ホルモン(ダナゾール® 200~400mg/day)の予防投与を検討する。発作の誘因を避けるなどの注意も重要である。新たな発作予防薬としてカリクレイン阻害抗体であるラナデルマブはEUで承認されている。遺伝子組換えヒトC1-INHであるルコネスト、遺伝子組換えカリクレイン阻害薬であるエカランチドなども開発されており、将来は治療選択肢が広がるだろう。

WAO/EAACIによる遺伝性血管性浮腫の管理ガイドライン2017

Maurer M et al. Allergy. 73(8):1575-1596. 2018.(証拠レベル、推奨の強さ、合意の割合)

(1) HAE-1/2の疑いがある場合はC1-INH活性、C1-INH蛋白質、C4の血中濃度を評価する。 いずれかが低い場合は診断確定のためにテストを繰り返す。(D、強、90%以上)。
(2) 全ての発作は、必要に応じた治療を行う。 上気道に及ぶ、又は及ぶ可能性のある発作は治療する。(D、強、100%)。
(3) 発作はできるだけ早く治療する。(B、強、100%)。
(4) HAE発作は、C1-INH製剤、エカランチド(本邦未承認)、またはイカチバントで治療する。(A、強、90%)。
(5) 進行性上気道浮腫では早期に挿管や外科的気道介入を考慮する。(C、強、100%)。
(6) すべての患者は、発作2回分の必要に応じた十分な薬を持ち、常に薬を携帯する。(D、強、100%)。
(7) 発作を起こす可能性(歯科処置、気管内挿管、気管支鏡や内視鏡検査)の前に短期的な予防(C1-INH製剤投与)を行う。 (C、強、100%)。
(8) 疾患活動性の上昇に関連する出来事に直面している場合は予防を考慮する。(D、強、90%以上)。
(9) 受診時ごとに長期予防を評価する。病気負担と患者の希望を考慮する。(D、強、100%)。
(10) 長期予防の第一選択としてC1-INH製剤(週2回40-60U/kg)を推薦する(本邦では保険適応外)。(A、強、50~75%多数決)。
(11) 長期予防の第二選択としてアンドロゲンを示唆する。(C、弱、50~75%多数決)。
(12) 病気負担を最小限に抑えるため、長期予防では必要に応じて投与量および/または治療間隔を調整する。(D、弱、100%)。
(13) HAEと診断された患者の子供、全ての子孫についてできるだけ早く検査する。(D、強、100%)。
(14) 12歳未満の子供のHAE発作の治療にはC1-INH製剤を使用する。(C、強、90%以上)。
(15) 妊娠中および授乳中のHAE発作ではC1-INH製剤を推奨する。(D、強、100%)。
(16) すべての患者に治療行動計画を立てる。(D、強、100%)。
(17) 包括的で統合されたHAE専門医療が利用可能である。(D、弱、100%)。
(18) 必要に応じた治療の自己管理許可を受けた患者には自己投薬を指導する。(C、強、100%)。
(19) 発作を引き起こすきっかけについて教育する。(C、強、100%)。
(20) 患者の家族は以下に基づいてスクリーニング検査を受ける。常染色体優性遺伝、診断が遅れ適切に治療されない場合は病的状態から生活の質が低下する、適切な治療を受けていない場合に最初の血管性浮腫発作による気道病変により致命的になるリスクがある。(D、強、100%)。

アレルギー性血管性浮腫

IgEと肥満細胞を介したヒスタミンの放出による機序で、通常は蕁麻疹や痒みを伴う。特定のアレルゲンによって引き起こされるためアレルゲンからの回避が大切である。抗菌薬(ペニシリン、βラクタム系、キノロン系など)によるIgEを介したI型アレルギーなど。抗ヒスタミン剤やステロイドなどで対症する。

薬剤誘発性血管性浮腫

アスピリン等のNSAIDs、降圧剤(ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬)、造影剤、筋弛緩薬、経口避妊薬(ピル、エストロゲン)、DPP4阻害薬、線溶系酵素、タートラジンや安息香酸塩などの医薬品添加物などにより誘発されることがある。NSAIDs ではアラキドン酸カスケードでのシステイニルロイコトリエン産生の亢進による血管拡張や透過性亢進、ACEはブラジキニンの代謝に関与しACE阻害剤はブラジキニン代謝を阻害する、造影剤、筋弛緩薬は直接肥満細胞を刺激しヒスタミンを放出させ、タートラジンや安息香酸塩はNSAIDs不耐性を増悪させる機序による。可能ならこれらの原因薬剤を中止する。基礎にC1-INHの異常があると症状が重篤になりやすくC1-INHの補充を検討する。ACE阻害剤による血管性浮腫では喉頭浮腫による死亡例が報告されている

好酸球性血管性浮腫

反復性(Episodic angioedema with eosinophilia: EAE)と非反復性(non-episodic angiodema with eosinophilia: NEAE)に分けられる。

参考文献

2019/Nov, 2016/June, 2014/Dec, 2013/Aug