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結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症 Connective tissue disease associated pulmonary arterial hypertension (CTD-PAH)

概要

肺高血圧症(PH)は肺動脈圧が上昇する病態の総称である。結合組織病(CTD)ではPHのリスクが高く、本邦1998年の調査では混合性結合組織病(MCTD)7.0%、全身性強皮症(SSc)5.0%、全身性エリテマトーデス(SLE)1.7%であった。シェーグレン症候群でも見られることがある。抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl70抗体)、抗セントロメア抗体、抗U1-RNP抗体陽性が多い。抗リン脂質抗体陽性では、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に注意する。混合性結合組織病を含めた全身性強皮症スペクトラムでは無症状での定期スクリーニングが推奨されるが、それ以外ではPHを疑う症状が新たに出現した場合に検査を行う。結合組織病のPHでは、肺動脈性肺高血圧症(PAH)のみならず、ニース分類1’群(肺静脈閉塞性)、2群(左心性)、3群(肺疾患)、4群(慢性血栓塞栓性)の関与や混合病態もありPH構成因子を十分把握することが治療選択に重要である。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は病理学的には血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、繊維芽細胞などの増殖による肺小動脈のリモデリングを呈する。膠原病で合併することも多く、ニース分類1群の「結合組織病(CTD)に伴う肺動脈性肺高血圧症(CTD-PAH)」に分類される。肺動脈圧の上昇が顕在化する段階では多くの血管が狭窄・閉塞をきたしており、進行すると心拍出量低下を伴い全身状態を悪化させ、基礎疾患としてのSScの存在とNYHA/WHO III/IV度がCTD-PAHの予後不良因子とされる。PAHには肺血管における炎症・線維化やプロスタサイクリン-cAMP経路・エンドセリン経路・NO-可溶性グアニル酸シクラーゼ-cGMP経路などが関わり、血管攣縮、細胞増殖、器質化が生じている。器質化、線維化を生じると不可逆的である場合がしばしばみられる。

診断治療に関しては本邦の肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)が公表されている。

肺高血圧症の定義

平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure: mPAP)≥25mmHg(安静臥位)

* 1973年WHO国際会議による。mPAP = PA拡張期圧 + 1/3× (PA収縮期圧-PA拡張期圧)  正常: ≤20mmHg

21~24mmHgはボーダーラインとされたが、2018年第6回世界シンポジウムで第4群以外の肺高血圧症の定義がmPAP >20mmHgと変更された。本邦のガイドライン改訂はまだである。

PHの診断は右心カテーテル検査での圧測定によるが、カテーテル検査が必要か否かを、症状、診察所見、心電図・胸部レントゲン・心臓超音波(心エコー)・肺精密機能検査・血液検査などから検討する。

自覚症状、診察所見

早期では無症状のことがある。運動時の呼吸困難(息切れ)が多い。進行すると、全身倦怠感、運動能低下、安静時の呼吸困難、胸痛、失神、下肢浮腫などが見られる。レイノー症状、関節痛、手指の腫れ、皮膚硬化、爪床の毛細血管異常、間質性肺炎の存在は、膠原病性(結合組織病に関連した肺高血圧症)を疑う重要な所見である。

心音異常(Ⅱp亢進)、収縮期雑音(三尖弁逆流)、頚静脈拡張、下腿浮腫などがみられる。心拍出量の低下があると、脈圧低下、四肢冷感がみられうる。

検査所見

心電図 R<S in I・R>S in aVFなどの右軸偏位、R>S in V1・R<S in V5,6・P波増高 in Ⅱなどの右心負荷所見
胸部レントゲン 肺動脈本幹の拡大による左2弓突出と末梢肺動脈の狭小化。右室拡大による左4弓の突出、右室流出路の拡大による左3弓の突出。右房負荷による右2弓の突出。
(肺疾患では COPD、間質性肺炎などの所見)
心エコー 推定肺動脈収縮期圧=4x(三尖弁逆流ピーク速度)2+推定右房圧(5~10mmHg)、PHでは40mmHgを目安。三尖弁逆流ピーク速度≧3.4m/秒。右心房・右心室の拡大や心室中隔の圧迫。
(左心疾患では先天性心疾患や弁膜症)
肺機能検査 肺拡散能(%DLCO 低下。%VC/%DLCO≧1.4)の所見がみられる。
(肺疾患によるPHでは閉塞性あるいは拘束性障害)
血液検査 血清BNPまたはNTproBNPが上昇する。尿酸値上昇。うっ血肝による肝機能異常。
(CTD-PAHでは混合性結合組織病、全身性強皮症、SLE、シェーグレン症候群などの疾患自己抗体)
(HIV検査。HIV感染者の0.5%でPAH)
(門脈圧亢進では肝機能異常、血小板減少、胆汁酸上昇)
(CTEPHではd-ダイマー高値、プロテインS、プロテインC、アンチトロンビンの活性低下、抗リン脂質抗体:抗β2-GPI抗体、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)

分類

ニース分類、第5回世界シンポジウム2013

ここでは、膠原病、結合組織病で見られやすいカテゴリーを赤で示した。

第1群: 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
1) 特発性 (Idiopathic PAH)
2) 遺伝性 (Heritable)
1. BMPR2
2. ALK1, endoglin, SMAD9, CAV1
3. 不明
3) 薬物および毒物誘発性
4) 各種疾患に伴うもの
1. 結合組織病
2. HIV感染症
3. 門脈圧亢進症
4. 先天性心疾患
5. 住血吸虫症
第1'群: 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH)
第1''群: 新生児遷延性肺高血圧症
第2群: 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
1) 左心収縮不全
2) 左心拡張不全
3) 弁膜疾患
4) 左心流入路/流出路閉塞
第3群: 肺疾患、低酸素による肺高血圧症
1) 慢性閉塞性肺疾患
2) 間質性肺疾患
3) 拘束性と閉塞性の混合障害 (CPFE)
4) 睡眠時呼吸障害
5) 肺胞低換気障害
6) 高地への慢性暴露
7) 発育障害
第4群: 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
第5群: 詳細不明な多因子による肺高血圧症
1) 血液疾患(慢性溶血性貧血、骨髄増殖性疾患、脾摘出)
2) 全身性疾患(サルコイドーシス、肺ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、神経線維腫症、血管炎)
3) 代謝性疾患(糖原病、ゴーシェ病、甲状腺疾患)
4) その他(腫瘍塞栓、線維縦隔炎、慢性腎不全)

治療

SLE、混合性結合組織病、シェーグレン症候群のPAHでは免疫抑制療法の有効例が見られるが、全身性強皮症での免疫抑制療法の有効例の報告は乏しい。

全身性エリテマトーデスに伴うPHではニース分類1群(CTD-PAH)が多いが、2群(左心性)、3群(肺疾患)、4群(APSに起因する慢性血栓塞栓性)の病態もありうる。SLE診療ガイドライン2019ではSLEに伴う1群(CTD-PAH)に対しては軽症や病初期ではステロイド(0.5-1mg/kg)やシクロフォスファミドパルスを用いた免疫抑制療法に反応し血行動態の改善が得られる症例があり推奨されている(エビデンスレベルC)。免疫抑制療法への反応性の予測として、増悪時に発熱、紅斑、腎炎、DNA抗体上昇や補体低下などの疾患活動性指標の上昇や、短期間でのCTD-PAHの出現が知られている。HCQやベリムマブに関してはCTD-PAHに対して有効性を示した文献はまだない。また、近年は早期から複数のPAH特異的治療薬を併用するupfront combination therapyも注目され、必要に応じて選択的肺血管拡張薬の投与を考慮する(エビデンスレベルC)。抗リン脂質抗体陽性で肺動脈慢性血栓塞栓性の関与が考えられる場合は抗凝固療法を行なう。他に有効な治療法がない場合は肺移植も考慮される。

全身性強皮症に伴う肺高血圧症では1群(CTD-PAH)が主と考えられるが、1’群(肺静脈閉塞性疾患)、2群(心筋病変による左心障害)、3群(間質性肺炎)など多彩な因子が関与している可能性がある。肺静脈閉塞性疾患や左心機能異常を有する例では、肺動脈拡張薬を投与すると肺静脈の拡張は得られないまま毛細血管圧が上昇し肺水腫の悪化や、間質性病変を有する例では換気血流不均等の増加をきたすことがあるため慎重を要する。全身性強皮症に伴うCTD-PAHは緩徐進行が多くPHを見逃さないよう、爪床の毛細血管拡張所見、NT-proBNP高値、抗セントロメア抗体陽性、呼吸機能検査(%FVC/%DLcoが上昇)、心電図右軸偏位(I誘導でR<S、aVF誘導でR>S)、血清尿酸値高値などがPAHを示唆するため、心臓超音波検査を行い右房系とTR速度を測定して右心カテーテル検査の適応を判断する、全身性強皮症のPAH早期検出のためのDETECTアルゴリズムが報告されている Coghlan JG et al. Ann Rheum Dis, Figure 3 2014

第2群の左心性心疾患に起因するPHはPHの中で最も多い。左室充満圧上昇から左房圧上昇、肺静脈圧上昇、肺動脈圧上昇に至る。PHが持続するとリモデリングが生じて不可逆的になる。肺血管拡張薬の効果は明らかではなく、左心性心疾患の治療が最も重要である。

第3群の肺疾患によるPHではCOPDや間質性肺疾患など肺実質の破壊による総血管断面積の消失により肺血管抵抗が上昇する。COPD-PHに肺血管拡張薬を投与するとガス交換機能を悪化させることがある。PaO2<60mmHgのCOPD患者では長期酸素療法により生命予後が改善する。

第3群と第1群の鑑別

検査 第3群を示唆(換気障害プロフィール) 第1群を示唆(血行動態プロフィール)
肺機能検査 %FEV1 < 60% (COPD)
%FVC < 70% (IPF)
閉塞性/拘束性障害に合ったDLco低下
%FEV1 > 60% (COPD)
%FVC > 70% (IPF)
閉塞性/拘束性障害に合わないDLco低下
高分解能胸部CT 特徴的な気道や肺実質障害 なし、あるいは、軽度の気道や肺実質障害
右心カテーテル/心エコー 軽度~中等度PH 中等度~重度PH
PAHリスク因子 なし HIV、膠原病、BMPR2遺伝子異常などがある
心肺運動負荷試験 換気予備能低下の特徴
・呼吸予備能低下
・Oxygen pulse (VO2/HR)正常
・CO/VO2 slope正常
・混合静脈血酸素飽和度 下限値以上
・労作時PaCO2上昇(COPDに関連)
循環予備能低下の特徴
・呼吸予備能維持
・Oxygen pulse (VO2/HR)の低下
・CO/VO2 slopeの低値
・混合静脈血酸素飽和度 下限値
・労作時PaCO2正常か低値

第4群慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)は抗リン脂質抗体症候群や第VIII因子上昇、プロテインSやC、アンチトロンビンの活性低下や欠損などが危険因子とされ、他のPHとの鑑別では肺換気血流シンチグラムでの区域以上の血流欠損、胸部造影CT、右心カテーテル、肺動脈造影などを行う。治療は肺動脈内膜摘除術(Pulmonary endarterectomy: PEA)や肺動脈バルーン拡張術(Balloon pulmonary angioplasty: BPA)などとともに、肺血管拡張薬、ワルファリン、在宅酸素療法などを考慮する。(慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン2018年

PAH治療薬として、プロスタグランジンI2(PGI2、プロスタサイクリン)誘導体は肺血管拡張作用を有し、エンドセリン受容体拮抗薬は肺血管収縮作用を持つエンドセリンを阻害する、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤は平滑筋弛緩作用を持つ細胞内cGMPの分解を阻害し増加させる、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤はcGMPの産生を刺激する、などが単独や組み合わせで使用される。進行症例では、専門施設で血管拡張作用のより強力なプロスタグランジンI2製剤であるエポプロステノール(持続静注)、トレプロスチニル(持続静注、持続皮下注)、イロプロスト(吸入)などを在宅療養として導入することがある。低酸素血症は症状の増悪のみならず肺血管の攣縮を促しさらにPHを悪化させるので、在宅酸素療法を導入することが多い。右心不全では利尿薬を使用することもある。風邪などの感染症、運動、排便、高地への旅行、妊娠、強い感情の変化、体液過剰や脱水などは、肺動脈圧の変化をきたして急な症状をひき起こす可能性があり注意を要する。

プロスタサイクリン(PGI2)製剤
エポプロステノール フローラン®、エポプロステノール(静注)
ベラプロスト ドルナー®、プロサイリン®、ベラプロスト 経口PGI2誘導体、ケアロードLA®、ベラサスLA® 徐放製剤
イロプロスト ベンテイビス®(ネブライザ吸入) PGI2誘導体
トレプロスチニル トレプロスト®(静注、皮下注) PGI2誘導体
セレキシパグ ウプトラビ® 選択的プロスタサイクリン受容体作動薬
エンドセリン受容体拮抗薬
ボセンタン トラクリア®、ボセンタン(シクロスポリン、タクロリムスとの併用は禁忌。SScの手指潰瘍の発症抑制)
アンブリセンタン ヴォリブリス®
マシテンタン オプスミット®
PDE5阻害薬
シルデナフィル バイアグラ®、シルデナフィル
タダラフィル アドシルカ®、ザルティア®、シアリス®
可溶性グアニル酸シクラーゼGC刺激薬
リオシグアト アデムパス®

評価

治療に反応すれば、酸素化の改善、運動耐容能の改善、運動時呼吸困難など諸症状の改善がみられる。身体機能分類、6分歩行テストなどで評価する。右心不全を伴う場合は、下腿浮腫の改善、BNPの低下などがみられる。心臓超音波にて推定肺動脈圧の低下がみられることもある。

WHO肺高血圧症の機能分類
Ⅰ度 身体活動に制限のない肺高血圧症患者 普通の身体活動では過度の呼吸困難や疲労、胸痛や失神などを生じない。
Ⅱ度 身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者 安静時には自覚症状がない。普通の身体活動で、過度の呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅲ度 身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者 安静時には自覚症状がない。普通以下の身体活動で、過度の呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅳ度 どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者 こららの患者は右心不全の症状を表している。安静時にも、呼吸困難および/または疲労がみられる。どんな活動でも自覚症状の増悪がある。
NYHA心機能分類
Ⅰ度 通常の身体活動では無症状
Ⅱ度 通常の身体活動で症状発現、身体活動がやや制限される
Ⅲ度 通常以下の身体活動で症状発現、身体活動が著しく制限される
Ⅳ度 どんな身体活動あるいは安静時でも症状発現
6分間歩行テスト (6MWT:6 minutes walking test)

運動耐容能を評価することができる。歩行距離、前後の心拍数・脈拍・酸素飽和度・血圧などを測定する。肺高血圧症の重症度、治療反応性の評価、予後の推定などに有用とされている。

右心カテーテル検査で得られる指標
測定項目 正常値
右房圧(RAP) 1-5 mmHg
右室圧(RVP) 収縮期 18-30 mmHg
拡張期 2-6 mmHg
肺動脈圧(PAP) 収縮期 18-30 mmHg
拡張期 6-13 mmHg
平均 10-18 mmHg
肺動脈楔入圧(PCWP) 2-13 mmHg
心拍出量(CO) 3.5-7.0 L/min
混合静脈血酸素飽和度(SVO2) 65-70%
右室駆出率(RVEF) 50-80%
計算による項目
項目 計算式 単位 正常値
肺血管抵抗 (PVR) (meanPAP- PCWP) x80 / CO ( dyne・sec・cm-5)  
全肺抵抗 (TVR) meanPAP x80 / CO ( dyne・sec・cm-5) 150-230
組織学的(病理学的)分類
Heath-Edwards grading system: Microscopic Features
Potenially Reversable
Hypertrophy of the media of muscular pulmonary arteries. Extension of muscle into the wall of pulmonary arterioles.
Muscle hypertrophy plus proliferation of intimal cells in arterioles and small muscular arteries.
"Muscle hypertrophy plus subendothelial fibrosis. Eventually, concentric masses of fibrous tissue and reduplicated internal elastic lamina occlude the vascular lumen of arterioles and small muscular arteries. Large elastic arteries show atherosclerosis."
Usually Irreversible
"Muscle hypertrophy is less apparent; progressive dilatation of small arteries, especially those near vessels with intimal fibrous occlusion. Plexiform lesions occur."
Plexiform and angiomatoid lesions plus intra-alveolar hemosiderin-filled macrophages.
Necrotizing arteritis with thrombosis. Fibrinoid necrosis of the arterial wall with a transmural infiltrate of polymorphonuclear leukocytes and eosinophils.
CTEPHの血管造影分類
1) Webs and bands (クモの巣状と帯状)
2) Abrupt narrowing(急な先細り)
3) Complete obstructions(完全な閉塞)
4) Pouch defect(袋状の造影欠損)
5) Intimal irregularities(内腔の不整)

参考文献

2020/Jan, 2016/Mar, 2014/Dec, 2013/Dec, 2012/Aug