免疫疾患の解説一覧

免疫チェックポイント阻害剤による免疫関連有害事象 Immune-Related Adverse Events of Immune Checkpoint Inhibitors

がん細胞は免疫にブレーキをかけて攻撃を逃れているが、ブレーキをはずして免疫を活性化させる免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune-checkpoint inhibitor)が開発され、がん免疫治療として様々ながんに対して普及している。しかし免疫の活性化に伴い自己免疫疾患様症状が出現することがあり、免疫関連有害事象(irAE:Immune-related adverse event)と呼ばれている。メイヨークリニックで2011年から2018年にICIで治療された1,293人中、43人のリウマチ性irAE(炎症性関節炎34人2.6%、筋症10人0.8%、他のリウマチ疾患17人)が報告されている。炎症性関節炎34人の多くは多関節炎で、ステロイド投与26人、DMARDs投与5人、ICI中止が3人であった。筋症10人は全例ステロイド投与、永続的ICI中止9人、死亡2人。その他、結合組織疾患、血管炎、リウマチ性多発筋痛症、既存のリウマチ性疾患の再燃などがあり、その多く(71%)で免疫抑制剤が投与され12%がICI中止となっている。

ICIよるirAE発生機構として4つの可能性が挙げられている。

(1) 全般的な免疫活性化(リウマチ性多発筋痛症での肩甲上滑膜炎や三角筋下滑液包炎など)。
(2) ICI抗体の直接的なオフターゲット効果(抗CTLA4抗体が下垂体上皮細胞に発現するCTLA4を標的にする)。
(3) 既存の無症候性自己免疫の発生(抗CCP抗体陽性では関節リウマチを誘発する可能性)。
(4)エピトープ拡散後に消耗T細胞の再活性化が起こるとT細胞免疫のオフターゲット効果が生じる(自己抗原を標的とした心筋炎や肺臓炎)。

ICIによるirAEの治療にあたっては以下を考慮する。

Calabrese LH et al. Nat Rev Rheumatol. 14(10):569-579.2018. Box3より。

(1) irAEの治療は重症度による。軽度関節炎や単関節炎ではNSAIDやステロイド関節注が現実的だが、重度関節炎や骨破壊を伴うときは高用量ステロイドやDMARDが必要な場合がある。
(2) ICIが効いている場合は、治療継続でirAEが悪化する可能性がある。irAE治療のための免疫抑制薬がICIの抗腫瘍効果を弱める理論的懸念によりリウマチ医の治療選択肢が制限されることがある。癌治療の長期目標を理解してリウマチ医が治療限界を患者に説明する必要がある。
(3) 臨床試験に参加している場合にプロトコル制限を受けることがある。
(4) irAEと他の併存疾患により治療選択されることがある。TNF阻害剤は大腸炎や関節炎のirAEを軽減する可能性があり、同様に筋炎や免疫介在性血小板減少症ではIVIGが有効である可能性がある。
(5) 患者と腫瘍医の希望を考慮する。irAEの長期免疫抑制治療の安全性や腫瘍増悪に関するデータは限られている。メラノーマでは短期TNF阻害による腫瘍反応に差がないという報告もあるが、他の腫瘍では同様のデータは少ない。証拠に基づくガイドラインがないためコンセンサスに基づく治療が行われる。
(6) 対症療法のために非免疫抑制療法を利用する。乾燥症状は局所療法や唾液分泌促進薬で対処できるが、これらは腫瘍免疫に影響を与えないと考えられている。
(7) 新規irAEは、ICIを開始してしばらくして、あるいは中止後にも発生する可能性があり、irAE発症やICI効果低下に関してリウマチ医と腫瘍医による管理が重要である。

免疫関連有害事象

皮膚 白斑、発疹、紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症、ループス様皮疹
粘膜 ドライマウス、ドライアイ
筋・骨格系 多発性関節炎、リウマチ性多発筋痛/巨細胞性動脈炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチー
神経 ギランバレー症候群、無菌性髄膜炎、可逆性後部白質脳症、炎症性腸神経障害、横断性脊髄炎、重症筋無力症
上強膜炎、結膜炎、ブドウ膜炎、眼窩炎
内分泌組織 甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、下垂体炎、中枢性甲状腺機能低下症、副腎機能不全、糖尿病、劇症I型糖尿病
心臓 心筋炎、心膜炎
サルコイドーシス、器質化肺炎、胸膜炎、下葉のすりガラス様病変や播種性結節性浸潤など(感染症などは除外)
肝臓 自己免疫性肝炎(ウイルス性肝炎、肝転移、薬剤性などは除外)
膵臓 膵炎
胃腸 下痢、大腸炎(細菌性、CD毒素、サイトメガロ腸炎などは除外)
腎臓 腎皮質炎症性肥大を伴う間質性腎炎、肉芽腫性腎炎、ループス様糸球体腎炎
血液 溶血性貧血、赤芽球勞、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、後天性血友病A
疲労 内分泌障害(甲状腺機能低下症、下垂体炎、副腎機能障害)と、がんの進行を検索。

Michot JM et al. Eur J Cancer. 54:139-148.2016. より。

リウマチ性irAEと対応するリウマチ性疾患との比較

リウマチ性irAE 比較疾患 リウマチ性疾患との類似点 リウマチ性疾患との違い
炎症性関節炎 RA 骨びらんを生じることがある。MCP、PIP、手、膝などに生じる。 初期段階で腱障害が目立つ。早期骨びらん。RFとCCPは陰性。発症は女性優位ではない。
SpA、PsA SpA様の炎症性腰痛、腱付着部炎、指趾炎など。反応性関節炎様の少関節炎を伴う無菌性尿道炎と結膜炎。 乾癬はまれ。HLA-B27関連性報告がない。早期骨びらん。
リウマチ性多発筋痛症、GCA PMR、GCA GCA様irAEの生検所見。50歳以上の患者。 PMR様irAEでは炎症マーカーが常に高値でもない。一部で低用量ステロイドに反応しない。
炎症性筋症 PM、DM、INM CKは10~100 IU/L(正常の上限)。生検は、PM、DM、INMと一致。筋炎を伴う筋力低下。 典型的な皮膚筋炎はまれ。irAEではIVIGへの反応性が低いことがある。
乾燥症候群 SjS ドライマウスは唾液分泌促進薬に反応する。口腔と眼の乾燥。 抗SSA抗体や抗SSB抗体はまれ。耳下腺炎はまれ。

Calabrese LH et al. Nat Rev Rheumatol. 14(10):569-579.2018. Table2より。

免疫チェックポイント阻害剤癌免疫療法によるリウマチ性免疫関連有害事象の診断と管理のために考慮すべきEULARポイント

Kostine M et al. EULAR points to consider for the diagnosis and management of rheumatic immune-related adverse events due to cancer immunotherapy with checkpoint inhibitors. Ann Rheum Dis. 80(1):36-48. 2021

包括的な原則(括弧内は、証拠、推奨、同意の各レベル)

A. リウマチ性および筋骨格系の免疫関連有害事象は、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法を受けている癌患者の症状として発生する可能性がある。(n.a., n.a., 9.6)
B. リウマチ性および筋骨格系の免疫関連有害事象の管理は、患者、腫瘍医、およびリウマチ医の間で共有される意思決定に基づく。(n.a., n.a., 9.5)
C. リウマチ医は腫瘍医と協力して、筋骨格系の兆候や症状を有する患者の学際的ケアに貢献する必要がある。(n.a., n.a., 9.1)
D. リウマチ医の役割は、鑑別診断において腫瘍医を支援し、リウマチ性および筋骨格系の症状を許容可能な程度まで緩和し、患者が効果的な癌免疫療法を維持できるようにすることである。(n.a., n.a., 9.5)

考慮すべきポイント

1. リウマチ医は、従来の分類基準を満たさないことが多いリウマチ性や全身性の免疫関連有害事象に関する幅広い臨床症状に注意する必要がある。(4, C, 9.5)
2. 免疫療法によるリウマチ性の筋骨格系や全身性の徴候や症状が疑われる場合、腫瘍医は迅速にリウマチ医に評価の相談を奨励され、リウマチ医はそのような患者を診療するべきだ。(5, D, 9.4)
3. 転移、腫瘍随伴症候群、免疫療法と無関係のリウマチ性疾患などは、リウマチ性の免疫関連有害事象の潜在的な鑑別として考えるべきだ。包括的な評価は、標的臓器の炎症の証拠を明らかにすることに焦点を当て、病歴、症状、検査、画像や生検に基づくべきだ。(4, C, 9.5)
4. 対症療法が効果的でない場合や重症度に応じて、免疫関連のリウマチ性および全身症状に対して局所や全身のステロイドを検討する必要がある。投与計画と投与経路は症状と活動性に応じて決定する必要がある。改善後には症状を制御するために全身性ステロイドを最低有効量まで漸減する必要がある。(4, C, 9.4)
5. 許容量のステロイドに対する反応が不十分、またはステロイドの減量が必要な患者ではcsDMARDを検討する必要がある。(4, C, 9)
6. 重度のリウマチ性および全身性の免疫関連有害事象を有したり、csDMARDに対する反応が不十分な場合はbDMARDを検討することができ、炎症性関節炎ではTNFまたはIL-6阻害剤が好ましい選択肢である。(4, C, 8.8)
7. 癌免疫療法の中断か継続かの決定は、リウマチ性の免疫関連有害事象の重症度、必要な免疫抑制療法の程度、腫瘍への反応とその期間、および将来の腫瘍の治療計画に基づいて患者と共有意思決定を行う必要がある。(5, D, 9.4)
8. 筋炎は重篤である可能性があり、免疫療法中止を検討する必要がある。生命を脅かす症状(嚥下障害、構音障害、発声障害などの球症状、呼吸困難および心筋炎)では、高用量のステロイド、IVIGや血漿交換を検討する必要があり、免疫療法中止が常に必要である。(4, C, 8.9)
9. 自己免疫性のリウマチ性や全身性疾患があったとしても、癌免疫療法の選択を妨げるべきではない。基礎の免疫抑制療法はできるだけ低用量で維持する必要がある(ステロイドは可能ならプレドニゾン10 mg/日未満)。しかし、多くの患者では基礎疾患の再燃や免疫関連有害事象をきたす可能性があり、ステロイドやDMARDの使用が必要である。(4, C, 9)
10. 癌免疫療法を開始する前にすべての患者に自己抗体検査を行う適応はない。説明のつかないリウマチ性、筋骨格系、または全身症状の場合は、リウマチ性疾患の徹底した評価を行う必要がある。(5, D, 9)

証拠レベル:1a:RCTの系統的レビュー。1b:個々のRCT。2a:コホート研究の系統的レビュー。2b:個別のコホート研究(低品質のRCTを含む)。3a:症例コントロール研究の系統的レビュー。3b:個別の症例コントロール研究。4:症例シリーズ(および質の悪いコホート、症例コントロール研究)。5:明確な批判的評価のない、生理学、ベンチ調査、または原則に基づく専門家の意見。
推奨レベル:A:一貫したレベル1の研究。B:一貫したレベル2、3の研究、またはレベル1の研究からの推定。C:レベル4の研究、またはレベル2、3の研究からの推定。D:レベル5の研究、またはあらゆるレベルの問題がある一貫性のない、決定的でない研究に基づく。

リウマチ性irAEの診断と治療

Brahmer JR et al J Clin Oncol. 36(17):1714-1768. 2018.
すべての推奨事項は有用性が不利益を上回るとの専門家の同意に基づき推奨の強さは中程度である。

関節炎

関節の炎症を特徴とする疾患。関節腫脹を伴う関節痛や、0.5~1時間続く朝のこわばりがある。NSAIDやステロイドで改善するがオピオイドや他の鎮痛剤では改善しない場合も関節炎が示唆される。

(1)診断のための検査

G1:リウマチ性疾患の病歴と末梢関節の圧痛、腫脹、可動域、脊椎の検査。必要に応じ転移を除外し関節破壊(びらん)を評価するため単純X線など画像検査を検討。症状が続く場合、抗核抗体、RF、抗CCP抗体、炎症マーカーなど検査。症状が反応性関節炎や脊椎病変を疑う場合はHLA B27を確認。
G2:追加して場合によっては関節エコーやMRIを考慮する(治療に反応しない持続性関節炎、転移性病変や敗血症性関節炎などの疑い)。関節腫脹(滑膜炎)がある場合や4週間以上続く関節痛はリウマチ医への早期紹介を検討する。
G3–4:リウマチ医のアドバイスと評価を求める。
治療開始後4~6週間ごとに、炎症マーカーを含む一連の検査でモニタする。

(2)管理

重症度 管理・治療 ICI治療
G1:炎症や紅斑、関節腫脹を伴う軽度の痛み。 アセトアミノフェン、NSAID。 継続。
G2:炎症や紅斑、関節腫脹を伴う中程度の痛み、手段的日常生活動作の制限。 高用量NSAID。PSL 10~20mgを4~6週間投与し、次の4~6週間で漸減。最初の4~6週間で改善なければG3として扱う。3か月後に<10mgに減らない場合DMARDを検討。大関節ではステロイド関節注を検討。 中断、PSL ≦10mgで再開。
G3–4:炎症や紅斑、関節腫脹を伴う激しい痛み。不可逆的な関節破壊、身体障害、日常動作制限。 PSL 0.5~1mg/kg。4週間後に改善ない場合、DMARD(MTXやレフルノミド)、生物製剤(抗TNFα製剤や抗IL-6受容体抗体)を検討。(IL-6阻害は非常に稀だが腸管穿孔リスクから大腸炎では使用しない)。DMARD治療前にB・C型肝炎、潜伏性/活動性結核検査を行う。リウマチ医へ紹介。 中断、G1以下に回復した場合リウマチ医と相談して再開。
関節破壊回避には早期診断。新しい関節炎なのか新規関節痛には注意。ICI後の症状か検討。初期にPSL使用するが、治療が長引きやすく他のirAEより早目にDMARD検討。少関節炎はステロイド関節注考慮。PSL高用量12週間以上でPCP予防考慮。
筋炎

筋力低下と筋酵素上昇を伴う筋肉の炎症。重度では筋肉痛が現れる。呼吸筋や心筋に及ぶと生命を脅かすことがある。

(1)診断のための検査

G1:リウマチ性疾患や神経疾患の病歴。筋力を含むリウマチおよび神経学的検査、皮膚筋炎所見の皮膚の診察。筋力低下は痛みよりも筋炎に典型的。同様の症状を起こす可能性がある既存疾患も鑑別する。筋炎評価の検査として、CK、AST、ALT、LDH、ALD。必要に応じ心筋障害の評価のためトロポニン測定や心エコー検査など。炎症マーカー(ESRやCRP)。診断が不確かで重症筋無力症などの神経疾患と重複疑いがある場合は、EMG、MRI画像検査や筋生検を検討。筋炎や重症筋無力症などの神経疾患に対する腫瘍随伴自己抗体検査。CK、ESR、CRPをモニタリング。
G2:リウマチ医または神経医へ早期紹介。
G3–4:リウマチ医または神経医へ緊急の紹介

(2)管理

重症度 管理・治療 ICI治療
G1:痛みの有無にかかわらず軽度脱力。 禁忌なければアセトアミノフェンやNSAID。CK上昇し筋力低下あれば、G2としてPSL治療。 継続。
G2:痛みの有無にかかわらず中等度の脱力感、年齢相応の手段的日常生活動作に制限。 必要に応じNSAID。リウマチ医や神経医へ紹介。CKが3倍以上上昇ではPSL 0.5~1mg/kg。悪化した場合G3に従う。G2症状と客観的所見(CK上昇、EMG異常、筋MRI異常、筋生検で異常)を伴う多くの患者でICIの永久的中止になることがある。 中断、CK正常化しPSL 10mg以下で再開。
G3–4:痛みの有無にかかわらず重度脱力、日常動作制限。 重度脱力は入院を検討、リウマチ医や神経医へ紹介。PSL 1mg/kg。重症(筋力低下で動作制限、心筋、呼吸、嚥下の障害)ではmPSL 1~2mg/kgやパルス療法、血漿交換やIVIGを考慮。4~6週間後に改善ない場合、MTX、アザチオプリン、MMFなど免疫抑制剤を検討。RTXは持続時間が長く注意。 免疫抑制を終了しG1に軽快するまで中断、心筋障害では永久に中止。
ICIの再チャレンジには注意が必要。
リウマチ性多発筋痛症様症候群

上下肢近位の著しい痛みとこわばりが特徴。筋炎でのCK上昇やEMG所見はない。筋力低下ではなく痛みで運動が制限される。

(1)診断のための検査

G1:リウマチ性疾患の病歴、全関節と皮膚の診察。頭痛や視覚障害などの側頭動脈炎症状があれば眼科紹介し側頭動脈生検も検討。抗核抗体、RF、抗CCP抗体。筋炎の鑑別診断のためCK、炎症マーカー(ESR、CRP)測定。ESR、CRPをモニタリング。
G2:鑑別診断に必要な自己免疫検査。リウマチ医へ早期紹介。
G3–4:リウマチ医の診察を参照。

(2)管理

重症度 管理・治療 ICI治療
G1:軽度のこわばりと痛み。 禁忌なければアセトアミノフェンやNSAID。 継続。
G2:中等度のこわばりと痛み、年齢相応の手段的日常生活動作に制限。 悪化した場合はG3に従う。PSL 20mgで症状改善したら3~4週間後に漸減し始める。4週間後に改善なく高用量を必要とするならG3として治療し、リウマチ医へ紹介を検討。 中断を考慮し、PSL 10mg以下でICI再開。
G3–4:重度のこわばりと痛み、日常動作制限。 リウマチ医へ紹介。PSL 20mgで軽快せず高用量が長期間必要なら、PSL減量のためMTXやトシリズマブを開始してもよい(IL-6阻害は非常に稀だが腸管穿孔リスクから大腸炎や消化管転移では使用しない)。疼痛管理のための入院検討。 中断。G1以下に軽快した後に再開することがある。再投与で再燃報告あり。

参考文献

2021/Apr, 2020/Feb