大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
破壊性関節炎の代表的疾患として関節リウマチがある。高齢発症の関節リウマチは症状がリウマチ性多発筋痛症に似ることも多く、RS3PE症候群は血清反応陰性関節リウマチに似ることも多い。シェーグレン症候群はしばしば関節炎をきたすが、2次性関節リウマチを合併することがある。MCTDはSLE、全身性強皮症、多発性筋炎の重複所見を特徴とするが、欧米ではこれらに関節リウマチを加えることが多い。SLEのSLICC分類では破壊性関節炎も含み、多発性筋炎、中~小血管炎、ベーチェット病などは関節炎を分類基準に含み鑑別が必要である。こうした自己免疫疾患を疑う前に、よくある変形性関節症や腱鞘炎、強い炎症を伴う結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、治療が急がれる感染性関節炎(細菌性、結核、抗酸菌など)などの鑑別を行う。
これらの関節炎とは別のカテゴリーとして脊椎関節炎が存在する。仙腸関節や脊椎などの体軸関節に炎症を来たす体軸性脊椎関節炎(分類名)と、四肢関節やDIP関節などに炎症をきたす末梢性脊椎関節炎(分類名)に分類され、体軸性脊椎関節炎を呈しやすい疾患として強直性脊椎炎、末梢性脊椎関節炎を呈しやすい疾患として乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎などがある。脊椎関節炎の各疾患に見られやすい特徴として、体軸関節炎(安静で不変や悪化、運動で改善する炎症性腰背部痛を特徴とする)、末梢関節炎(下肢を中心とし、非対称性、4カ所以下)、腱や靭帯の付着部炎(アキレス腱や肩など)、指趾炎、特徴的な関節外症状(乾癬、炎症性腸疾患、前部ぶどう膜炎など)に注意する。家族内発症が認められ、通常リウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性で、男女比3~5:1と男性に多い。骨炎と骨化を特徴とするSAPHO症候群も脊椎関節炎様症状を伴うことがある。
脊椎関節炎の疾患概念には強直性脊椎炎(68%)、乾癬性関節炎(13%)、SAPHO症候群(5%)、反応性関節炎(4%)、炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(2%)、ぶどう膜炎関連脊椎関節炎、未分類脊椎関節炎などが含まれる。HLA-B27との関連性が指摘されているが、本邦では一般のB27保有率が0.3~0.5%と低く、脊椎関節炎の有病率も10万人あたり0.48と稀である。しかし、B27保有率の高い欧米では関節リウマチに次いで多いリウマチ性疾患である。脊椎関節炎では炎症の生じる関節部位が関節リウマチとは異なり、さらに特徴的な臨床所見によってそれぞれの疾患が鑑別される。HLA-B27陰性者の調査ではHLA-B39の関連の報告もある。
脊椎関節炎を早期に分類するため、Assessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS)から体軸性脊椎関節炎(2009年ASAS基準)と末梢性脊椎関節炎(2011年ASAS基準)の分類基準が提唱されている。45歳未満で3ヶ月以上続く腰背痛を有する患者では体軸性脊椎関節炎基準を考慮し、腰背部痛はないが関節炎、付着部炎、指趾炎など末梢所見のみがある場合は末梢性脊椎関節炎基準を考慮する。脊椎関節炎は病態が変化して診断が変わることも少なくないため、暫定診断(working diagnosis)を行って症例を経時的に診ていくことがある。
45歳未満で3ヶ月以上続く背部痛を有する患者で以下を考慮。
仙腸関節炎の画像所見と一つ以上の脊椎関節炎の特徴があるか、HLA-B27陽性と二つ以上の脊椎関節炎の特徴がある場合、体軸性脊椎関節炎と分類する。
1 | MRI所見:脊椎関節炎によると考えられる骨髄浮腫や骨炎を伴う仙腸関節の活動性炎症性病変。 |
---|---|
2 | X線所見:改訂ニューヨーク基準による両側のgrade 2-4あるいは片側のgrade 3-4の仙腸関節炎(grade 0:正常。grade 1:疑わしい変化。grade 2:軽度の変化や小さな限局性の侵食像や硬化像。grade 3:侵食像や硬化像の拡大や関節隙の幅の変化。grade 4:著しい変化や強直)。 |
1 | 炎症性背部痛:40歳未満での発症、潜行性の発症、運動による改善、安静で改善しない、夜間の痛み、の5項目中4項目存在する場合。 |
---|---|
2 | 関節炎:過去/現在の活動性滑膜炎 |
3 | 踵の付着部炎:過去/現在のアキレス腱や踵骨部の足底筋膜の自発痛、圧痛がある場合。 |
4 | ぶどう膜炎:過去/現在の眼科医に確認された前部ぶどう膜炎(虹彩炎や虹彩毛様体炎)。 |
5 | 指趾炎:過去/現在に医師によって確認されたもの。 |
6 | 乾癬:過去/現在に医師によって確認されたもの。 |
7 | 炎症性腸疾患:Crohn病または潰瘍性大腸炎。 |
8 | NSAIDsの効果良好:内服後1~2日後に背部痛が改善する場合。 |
9 | 脊椎関節炎の家族歴:姪甥まででの強直性脊椎炎、乾癬、急性ぶどう膜炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患のいずれかを認める場合。 |
10 | HLA-B27 |
11 | CRP高値:背部痛を有しており他の原因が除外されていること。 |
関節炎、付着部炎、又は指趾炎が現在あり、以下の一つ以上がある(ぶどう膜炎・乾癬・炎症性腸疾患・感染症の先行・HLA-B27・X線またはMRIで仙腸関節炎)、あるいは以下の二つ以上がある(関節炎・付着部炎・指趾炎・過去の炎症性背部痛・脊椎関節炎の家族歴)。
関節炎: | 脊椎関節炎に合う末梢関節炎。通常は非対称で下肢の関節が多い。 |
---|---|
付着部炎: | 医師によって診断された付着部炎。 |
指趾炎: | 医師によって診断された指趾炎。 |
1 | ぶどう膜炎:過去/現在の眼科医によって確認された前部ぶどう膜炎。 |
---|---|
2 | 乾癬:過去/現在の医師によって診断された乾癬。 |
3 | 炎症性腸疾患:過去/現在のCrohn病または潰瘍性大腸炎。 |
4 | 感染症の先行:関節炎/付着部炎/指趾炎の発症1ヶ月以内での尿道炎/子宮頚管炎や下痢。 |
5 | HLA-B27 |
6 | 画像上の仙腸関節炎:X線で改訂ニューヨーク基準による両側のgrade 2-4あるいは片側のgrade 3-4の仙腸関節炎。あるいは、MRIで脊椎関節炎によると考えられる骨髄浮腫や骨炎を伴う仙腸関節の活動性炎症性病変。 |
1 | 関節炎:過去/現在の脊椎関節炎に合う末梢関節炎。通常は非対称性で下肢の関節が多い。 |
---|---|
2 | 付着部炎:過去/現在の付着部の自発痛や圧痛。 |
3 | 指趾炎:過去/現在の医師によって診断された指趾炎。 |
4 | 過去の炎症性背部痛:過去にリウマチ医によって診断された炎症性背部痛。現在炎症性背部痛がある場合は体軸性SpAの分類基準を考慮するべきである。 |
5 | 脊椎関節炎の家族歴:姪甥まででの強直性脊椎炎、乾癬、急性ぶどう膜炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患のいずれかを認める場合。 |
関節リウマチ | 強直性脊椎炎 | 乾癬性関節炎 | 変形性関節性 | 痛風 | |
---|---|---|---|---|---|
性差 | 女性が8倍 | 男性に多い | 男性が1.5倍 | 手足膝は女性に多い | 男性に多い |
好発年齢 | 中高年 | 若年 | 壮年 | 中高年 | 中高年 |
末梢好発関節 | 手・手指PIP・MCP・足趾MTP | 股関節 | DIP、指趾炎 | DIP(へバーデン結節)・PIP(ブシャール結節)・膝 | 第一足趾MTP |
仙腸関節炎 | なし | 対称性 | 非対称性 | なし | なし |
脊椎関節病変 | 環軸関節(破壊性) | 腰椎(骨棘は細く均一、上下方向性や左右対称性あり) | 頚椎・腰椎(骨棘は比較的太く不均一、上下方向性・左右対称性が不均一) | 下位頚椎・腰椎(不均一な椎間狭小化、骨棘は大きさ・上下方向性・左右対称性が不均一) | なし |
付着部炎 | まれ | 体軸中心 | 末梢と体軸 | なし | なし |
皮膚病変など | リウマトイド結節、血管炎 | なし | 乾癬・爪病変 | なし | 痛風結節 |
眼病変 | 強膜炎、虹彩毛様体炎 | 虹彩毛様体炎 | 虹彩毛様体炎 | なし | なし |
炎症反応 | 軽度〜高度 | 正常〜中等度 | 正常〜中等度 | 正常〜軽度(膝) | 軽度〜高度 |
自己抗体 | 抗CCP抗体、RF | なし | 通常は陰性 | なし | なし |
HLAとの関連 | DR4など | B27 | Cw6、B27 | なし | なし |
脊椎関節炎診療の手引き2020 日本脊椎関節炎学会編 診断と治療社より一部改変
びまん性特発性骨増殖症(DISH:diffuse idiopathic skeletal hyperostosis) |
---|
50歳以上に多く加齢とともに増加し、肥満や糖代謝異常などと関連している。下位頸椎から胸椎に好発し、椎体腹側の前縦靱帯に蝋が垂れたような形態の骨化がみられ、胸椎レベルでは椎体の右腹側で病変が目立つ。仙腸関節や椎間関節の変化に乏しく、運動制限も強くなく、臨床症状が比較的軽いことが多い。CRPの上昇はない。 |
掌蹠膿疱性骨関節炎(PAO:pustulotic arthro-osteitis)/SAPHO症候群 |
掌蹠膿疱症や重症ざ瘡などの皮膚症状を伴い(皮疹が後発することもある)、鎖骨や胸骨の骨炎を伴う。PAOはSAPHO症候群に含まれる。症例によっては脊椎病変をきたし上下や横方向に進展する、ずんぐりとした靱帯骨棘形成や癒合が特徴。椎間板の高さは保たれる。仙腸関節炎は1/3で見られ、片側性が多く骨硬化が広範囲に及ぶ。CRPが上昇する。 |
硬化性腸骨骨炎(OCI:osteitis condensans ilii) |
ほとんど女性で出産などによる仙腸関節への負荷によるものとされるが非経産婦でも見られることがある。腰部痛や臀部痛を訴えるが強直性脊椎炎のような炎症性腰背部痛は少ない。XP画像は片側や両側の仙腸関節の腸骨側に三角形〜ドーム型の硬化像が見られる。仙腸関節の骨びらんは認めない。CRPの上昇はない。 |