免疫疾患の解説一覧

反応性関節炎 Reactive arthritis

概要

反応性関節炎は脊椎関節炎の一つとされ、感受性のある患者に消化器や泌尿器生殖器などの感染症の後に生じる炎症性疾患である。過去にはライター症候群と呼ばれ関節炎、尿道炎、結膜炎の三徴が知られていた。関節炎の多くは2~3ヶ月で自然軽快するが持続することもある。非対称性少関節炎(膝や足関節など)、腱付着部炎、腱炎、あるいは関節外病変として角結膜炎、ブドウ膜炎、結節性紅斑などが現れることがある。関連する病原性細菌は、サルモネラ、赤痢菌、エルシニア、カンピロバクターなどがあり、泌尿器生殖器感染症後の反応性関節炎ではクラミジアが一般的である。膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法後に生じることもある。自己免疫疾患と考えられており、HLA-B27との関連性が指摘されている。

病因として、細菌やその成分が細胞内に取り込まれ滑膜部位へ輸送され炎症を起こす、あるいは、生体分子との相同性を持つが免疫応答を誘発するのに十分異なる細菌抗原による、あるいは、感染症により腸管透過性が亢進し、腸管内の抗原が免疫系を刺激して関節炎を誘導する、などの仮説がある。

診断基準(1999年 the 4th International Workshop on Reactive Arthritis)

大基準 (1)

以下の3つのうち2つを伴う関節炎:

-非対称
-単関節炎または少数関節炎
-下肢関節の炎症

(2)

先行する感染症で次の所見の1つまたは2つがある:

-腸炎(関節炎発症の3日から6週間前に、短くとも1日の下痢があった)

-尿道炎(関節炎発症の3日から6週間前に、短くとも1日の排尿障害または排膿があった)

小基準 (1)

感染の引き金となる証拠:

-尿素リガーゼ反応または尿道/子宮頸部ぬぐいでクラミジアトラコマチスが陽性
-便培養で反応性関節炎に関連する腸内病原体が陽性

(2) 持続的な滑膜感染の証拠(クラミジアが免疫組織学またはPCRで検出)

確診:大基準1と2を満たし小基準を少なくともひとつ満たす。
疑い:大基準1と2を満たすが小基準を満たさない。または、大基準をひとつ満たし小基準を少なくともひとつ満たす。

原因菌

腸内病原菌 Salmonella enterica (S.Typhimurium enteritidis, S.Paratyphi B, S.Paratyphi C)
Shigella属 (S.flexneri, S.sonnei, S.dysenteriae)
Yersinia属 (Y.enterocolitica, Y.pseudotuberculosis)
Campylobacter属 (C.jejuni, C.coli)
尿道炎 Chlamydia trachomatis, Mycoplasma genitalium, Ureaplasma urealyticum
上気道炎 β‐haemolytic streptococci, Chlamydia pneumoniae
その他 Amoebae, HIV, B‐19 parvovirus, Lactobacillus属, Bacillus cereus, Bartonella, Borrelia burgdorferi, Brucella abortus, Calmette‐Guerin Bacillus (BCG), Clostridium difficile, Cryptosporidium, Escherichia coli, Gardnerella vaginalis, Giardia lamblia, Hafnia alvei, Helicobacter cinaedi, Helicobacter pylori, Hepatitis B vaccine, Leptospira属, Mycoplasma hominis, Mycoplasma fermentans, Neisseria gonorrhoeae, Neisseria meningitidis (serogroup B), Propionibacterium acnes, Pseudomonas migulae, Pseudomonas fluorescens, Pseudomonas putida, Rickettsia rickettsii, Staphylococcus aureus, Staphylococcus epidermidis, Streptococcus salivarius, Strongyloides属, Tropheryma whippelii

臨床症状

骨格

関節所見

大関節中心の少関節炎(下肢、膝、手首、足首)。
軽度の多発性関節炎(指趾炎、患者の16%)。

体軸系関節炎

通常:仙腸関節(仙腸関節炎15~30%)および腰椎(50%まで)。
ときどき:胸椎および頸椎(慢性反応性関節炎)。
まれ:恥骨結合、胸鎖関節、および肋胸骨関節(軟骨関節)。

腱付着部炎(30%)

足底筋膜炎、アキレス腱炎。

結膜炎(急性期の35%)、虹彩炎(通常再発性、5%に見られる)。
まれ:角膜炎、角膜潰瘍、上強膜炎、球後神経炎、前房出血、紅斑、羞明、視力低下など。
心臓 大動脈疾患(大動脈弁逆流を含む)、心電図伝導異常(5~14%に見られる)、心臓弁膜症、心膜炎(まれ)。
泌尿生殖器 尿道炎(80%)、前立腺炎、出血性膀胱炎、子宮頸管炎。
消化器 下痢(25%~70%)、内視鏡所見:一過性の腸管炎症(クローン病に似る場合もある)。
腎臓(まれ) タンパク尿、微小血尿、無菌性膿尿、糸球体腎炎、IgA腎症。
中枢神経(まれ) 末梢/脳神経麻痺(感覚神経や運動神経の多発神経障害)、進行性脊髄症。

粘膜皮膚病変

膿漏性角皮症(足底、手掌、陰嚢、体幹、頭皮) 過角化性紅斑性皮膚炎(膿疱性乾癬に似る)(5%~30%)。透明な小胞として現れ,進行して黄斑、丘疹または小結節を形成し、最終的に癒合して過角化プラークを形成する。
指先の痛みを伴うびらんおよび膿疱、爪下膿疱、爪周囲炎。
爪(20%~30%) 萎縮、肥厚、隆起(真菌感染症または乾癬性爪異栄養に類似)、爪陥凹(まれ)。
環状亀頭炎(20%~40%) 境界が明瞭で痛みのない紅斑性病変で、小さく浅い潰瘍(亀頭陰茎および尿道口)があり、遠心性に成長する。割礼を受けた男性では浅い潰瘍は角質肥厚性プラークに発展することがあり、陰茎幹または陰嚢に及ぶことがある。
生殖器 外陰部または膣粘膜は環状亀頭炎と同様の病変が生じることがある。病変は境界明瞭な紅斑および痂皮として現れる。
口腔粘膜(30%~60%) 紅斑、プラーク、びらん、口腔および咽頭粘膜からの出血がみられることがある。
特徴的な痛みのない、紅斑性および表在病変。
舌の瘢痕性病変は臨床的には地図状舌に似る。
結節性紅斑(まれ) 女性で多い。エルシニア誘発性反応性関節炎と関連する。

治療

治療は感染症に対する治療と関節・関節外症状に対する治療のふたつを考慮する。クラミジア感染の場合はパートナーとともにテトラサイクリン系薬剤を投与する。関節症状には初期の急性期はNSAIDで治療するが、慢性に持続する場合は、スルファサラジンやメトトレキサートなどによる治療が必要になる場合がある。スルファサラジンは、反応性関節炎が腸管感染症で引き起こされる場合に有用である。炎症の強い関節にステロイド注射、重症では一時的に経口ステロイドを使用したり、エタネルセプトやアダリムマブなどの生物学的製剤(本邦では保険適応はない)が使用されることがある。当教室よりトシリズマブの有効例を報告した。

参考文献

2020/Jan