免疫疾患の解説一覧

SAPHO症候群 SAPHO syndrome

概念

1960年代から掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬、化膿性汗腺炎、重症座瘡などの慢性皮膚疾患と、前胸部の鎖骨・胸骨・肋骨を中心とした無菌性骨炎や末梢滑膜炎など骨関節症状との関連が指摘されていたが、1987年に骨炎を共通に有する疾患概念としてSAPHO(Synovitis、Acne、Pustulosis、Hyperostosis、Osteitis)という頭文字で皮膚・骨・関節に症状を認める疾患として分類することが提案された。SAPHO症候群には主に小児に発症する慢性再発性多発性骨髄炎(Chronic Recurrent Multifocal Osteomyelitis:CRMO)を含む。SAPHO症候群の一部は自然軽快することもあるが、半数は慢性の経過をたどる。

症状

120例(女性70例、男性50例)の解析報告によると、診断時の年齢は37.7歳(5~67歳)、皮膚症状先行が39%、関節症状先行が32%、同時が29%であった。骨関節では前胸壁(65~90%)、脊椎(30%。胸椎が多く、腰椎や頸椎にも見られる)に病変が多く、仙腸関節(13~52%)、長管骨(5~10%)、下顎骨(1~10%)などである。小児では頸骨の遠位・近位端が侵されやすい。皮膚症状は骨関節症状と同時期あるいは数年前後して発症することがあるが、成人の15%、小児の70%以上は皮膚症状を発症しないとされる。皮膚病変は好中球性皮膚疾患で、掌蹠膿疱症(50~75%)が最も多いが膿疱性乾癬との区別は難しい。重症座瘡(25%)のほか、これらの皮膚疾患と同時に乾癬が見られることも多い。

SAPHO症候群では体軸の関節が侵されやすく、一部にHLA-B27陽性の頻度が高いとする報告がある。潰瘍性大腸炎・クローン病を合併する頻度も高いことより、脊椎関節炎(SpA)との関連を示唆する意見もある。

SAPHO症候群の特徴
滑膜炎 Synovitis 体軸(脊椎、椎間板、靭帯骨棘)および末梢の関節炎
座瘡 Acne 重症座瘡(集簇性座瘡、汗腺膿瘍など)
膿疱症 Pustulosis 掌蹠膿疱症
骨化症 Hyperostosis 骨のびらんと新生が混在しやがて骨化する(骨硬化による腫大)
骨炎 Osteitis 無菌性の骨炎(鎖骨・上部肋骨など前胸部に多い)、下顎骨の硬化性骨髄炎

画像検査

SAPHO症候群の骨関節病変は骨皮質と骨髄での慢性炎症であり、骨炎と骨過形成が特徴である。レントゲン像は、早期の病巣では骨溶解が主で辺縁の硬化を伴うことがある。進行するにつれて骨溶解と骨硬化が混在し、慢性病巣では骨硬化像が中心となる。脊椎病変は単一椎体に現れることが多いが4椎体に及ぶこともあり骨硬化像や骨溶解による変形や椎体炎が見られる。SAPHO症候群の仙腸関節炎は強直性脊椎炎と比べて片側性であることが多く、腸骨側での骨硬化像を特徴とする。下顎骨の片側にびまん性硬化性骨髄炎が見られることがあり骨膜反応を伴う。長管骨病変は成人ではまれだが小児ではよく見られ、骨幹端の骨溶解と骨膜反応が見られる。

ガリウムシンチは炎症部位の同定に有用である。胸鎖骨部位の炎症からBull’s head sign(胸骨柄が頭部で胸鎖関節と鎖骨の炎症が角に相当)を形成する。椎体病変にも集積する。MRI撮影は椎体病変の性状評価に有用で骨硬化病変はT1やT2で低信号となるが、活動性病変ではT1低信号T2高信号となる。マルチスライスCTでの再構成は胸鎖病変をはじめとする骨関節病変の詳細に適している。

診断

1988年Benhamou CLらによる基準がよく使用される。

1 集簇性座瘡、重症座瘡や化膿性汗腺炎に伴う骨・関節症状
2 掌蹠膿疱症に伴う骨・関節症状
3 皮膚病変の有無に関わらず前胸壁、四肢や脊椎の骨過形成
4 皮膚病変の有無に関わらず体軸系や末梢骨格におよぶCRMO

1~4のうちひとつでもあればSAPHO症候群に含める。

尋常性乾癬、炎症性腸疾患、強直性脊椎炎、低病原性細菌感染症などとの関連としての報告もある。ただし以下の疾患は除外される、敗血症性骨髄炎、感染性前胸壁関節炎、感染症を伴った掌蹠膿疱症、掌蹠角化症、びまん性特発性骨増殖症、レチノイド療法の骨関節症状

治療

疾患が稀少なため確立した治療法はなく、実際には少数例の治療報告例を元に治療がなされている。NSAIDsが第一に用いられるが、痛みの強い例にはステロイドや抗リウマチ薬(MTX、スルファサラジンなど)が使用され効果があることがある。ビスフォスフォネート製剤による骨吸収阻害により痛みが消失し寛解に至ることがある。製剤の中ではパミドロネート点滴の報告が多いが他のビスフォスフォネート製剤での有効例の報告もある。こうした治療に対して難治性病変には抗TNFα製剤(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど。本邦では保険適応外)が投与され著効する例も報告されている。また、扁桃腺の腫大や口腔内感染・アレルギーとの関連が疑われており、本邦からは掌蹠膿疱症やSAPHO症候群に対する扁桃摘出術の有効性が報告されている。

参考文献

2017/Aug