免疫疾患の解説一覧

乾癬性関節炎 Psoriatic Arthritis (PsA)

概念

皮膚疾患である乾癬に合併してみられる関節炎。男女比は同率で30~40代の発症が多く、本邦では乾癬性関節炎は乾癬患者(本邦では有病率0.3%)の10%程度と考えられている。乾癬は炎症性角化症で、機械的刺激を受けやすい肘、膝、腰部、頭部などに生じ、表皮細胞の異常増殖により鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑局面で、半数はかゆみを伴う。爪乾癬を呈することも多い。乾癬性関節炎での関節炎の炎症の主座は付着部であり、付着部炎から皮下や関節に炎症が及んでいく。乾癬の部位では頭皮、爪乾癬、臀部/肛門周囲、3カ所以上の皮膚病変、などで乾癬性関節炎の発症が多いと報告されている。また、乾癬患者には肥満が多く、乾癬、関節症状、肥満の間で相関が指摘されている。

症状

Wright Vらによって末梢優位な関節炎、非対称の少数関節炎、関節リウマチ様の多関節炎、脊椎炎、ムチランス関節炎の五つに分類されたが、進行とともに多関節炎となることが多い。関節リウマチと同様に関節破壊から機能障害をきたす。罹患関節の発赤、付着部炎、脊椎病変、圧痛などの特徴がある。乾癬性関節炎で見られる末梢関節炎は同一指の複数関節が侵されることが多い。非対称性の関節病変分布となりやすく、左右の同一関節に症状があらわれやすい関節リウマチと異なる。付着部など骨周囲の炎症から指全体に炎症が及ぶと指趾炎となる。乾癬性関節炎の40%に脊椎炎が見られることから脊椎関節炎に含まれ、前部ぶどう膜炎や大動脈閉鎖不全症などの関節外病変を伴うことがあるが、これらは毛様体や大動脈弁の付着部炎とも考えられている。

乾癬が先行することが大部分で、爪乾癬(点状陥凹、横縞、爪の剥離、肥厚と破壊)を伴うことも多く、その爪郭部ではダーマスコープにて毛細血管末端の回転や曲りくねりを見る、これらは関節リウマチとの鑑別になる。

検査所見

炎症反応(血沈、CRP)の上昇がみられうるが、必ずしも上昇しない。リウマトイド因子は通常は陰性。進行例ではレントゲン上骨びらんと関節破壊、傍関節部骨増殖像がみられる。DIP関節ではpencil in cup変形(DIP関節において、末節骨の傍関節部骨増殖によりcup様に、中節骨が骨びらんによって先細りpencil様に)が見られる。骨性癒合によって強直が生じる。指趾炎のMRI画像では腱鞘炎と滑膜炎が見られる。

診断

2006年CASPAR分類基準(Classification criteria for psoriatic arthritis)(感度91.4% 特異度98.7%)

前提として関節炎、脊椎炎、付着部炎があり、以下の5項目中3点以上で乾癬性関節炎と分類する。ただし乾癬が現在ある場合はそれだけで2点とする。

現在の乾癬、過去に乾癬があった、乾癬の家族歴:現在の乾癬はリウマチ医や皮膚科医によって診断された皮膚乾癬や頭皮乾癬である。過去の乾癬は患者やかかりつけ医、リウマチ医、皮膚科医などから得られたもの。家族歴は1親等と2親等での乾癬。
現在の典型的な変形した爪乾癬(爪甲剥離、陥凹、角化亢進)。
リウマトイド因子陰性。
現在の指全体が腫脹した指趾炎、あるいは過去にリウマチ医によって指摘された指趾炎があった。
手足のX線像で見られる傍関節部骨増殖。関節近縁の近くに不明確な骨化として見られる(骨棘の形成は除外する)。

治療

関節病変と皮膚病変に対しリウマチ医は皮膚科医とともに治療に当たる。関節炎に対してはNSAIDsが第一選択で、活動性が高い場合はメトトレキサートなどを追加する。効果不十分の場合は抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ;レミケード®、インフリキシマブBS®、アダリムマブ;ヒュミラ®)が用いられ乾癬と関節炎の両方に有効である。さらに抗IL-12/23抗体(ウステキヌマブ;ステラーラ®)、抗IL-17A抗体(セクキヌマブ;コセンティクス®、イキセキズマブ;トルツ®)、抗IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ;ルミセフ®)、経口ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤(アプレミラスト;オテズラ®)も使用できるようになり乾癬性関節炎の治療選択が広がっている。

乾癬性関節炎の薬剤治療に関する2019年EULAR推奨

包括的な原則(括弧内は、同意レベル)
A 乾癬性関節炎は不均一で潜在的に重度の疾患であり、集学的治療を必要とする。(9.9)
B 乾癬性関節炎患者の治療では最良を目指し、有効性、安全性、費用などを考慮して患者とリウマチ医の共有意思に基づかねばならない。(9.8)
C リウマチ医は乾癬性関節炎患者の筋骨格徴候を主に診療するべき専門家である。臨床的な皮膚病変がある場合は、リウマチ医と皮膚科医が協力して診断と管理をするべきである。(9.8)
D 乾癬性関節炎患者の治療の第一目標は、症状の制御、構造的破壊の予防、機能の正常化、社会的参加、を通じて健康に関するQOLを最大にすることである。これらの目標を達成するために炎症の鎮静化は重要な要素である。(9.9)
E 乾癬性関節炎患者の診療では各々の筋骨格症状に応じた治療を考慮するべきだ。(9.9)
F 乾癬性関節炎患者の診療では筋骨格外病変(皮膚、眼、消化管)を考慮するべきだ。さらに、メタボリックシンドローム、心血管疾患、鬱病などの合併症も考慮されるべきだ。(9.8)
推奨(括弧内は、証拠レベル 推奨グレード 同意レベル)
1 定期的な疾患活動性評価と治療の適切な調整により、寛解あるいは低疾患活動性を目指した治療を行うべきだ。(1b, A, 9.4)
2 NSAIDsは筋骨格系の兆候や症状を和らげるために使用される。(1b, A, 9.6)
3 ステロイドの局所注射は乾癬性関節炎の補助療法として考慮されるべきだ(3b)。全身性ステロイドは最低有効量で注意して使用できる(4)。(3b/4, C, 9.5)
4 多関節炎の患者ではcsDMARDを早々に使用するべきである。関連皮膚病変がある場合はMTXが望ましい。(1b, B, 9.5)
5 単関節炎や少関節炎の患者で、特に構造的破壊、血沈亢進/CRP高値、指趾炎、爪病変などの予後不良因子がある場合はcsDMARDを考慮するべきだ。(4, C, 9.3)
6 末梢関節炎や少なくとも一つのcsDMARDで効果が不十分であれば、bDMARDによる治療を開始する必要がある。関連皮膚病変がある場合はIL-17阻害剤やIL-12/23阻害剤が望ましいことがある。(1b, B, 9.4)
7 末梢関節炎や少なくとも一つのcsDMARDと少なくとも一つのbDMARDで反応が不十分、あるいはbDMARDが適切でなければ、JAK阻害剤を考慮することができる。(1b, B, 9.2)
8 軽症患者(5)で少なくとも一つのcsDMARDで反応が不十分(1b)でbDMARDやJAK阻害剤ともに適切でない場合は、PDE4阻害剤を考慮することができる。(5/1b, B, 8.5)
9 明らかな付着部炎があり、NSAIDsやステロイド局所注射に対する反応が不十分な場合は、bDMARDによる治療を考慮するべきだ。(1b, B, 9.3)
10 体軸性の病変が優位な患者で、活動性がありNSAIDsに対する反応が不十分であれば、bDMARDを考慮するべきだ。現状ではTNF阻害剤を用いるが、関連皮膚病変がある場合はIL-17阻害剤が望ましいことがある。(1b, B, 9.7)
11 bDMARDに適切に反応しない、あるいは使用できない場合は、クラス内の切り替え(4)を含めて、別のbDMARDやtsDMARD(1b)を考慮するべきである。(4/1b, C, 9.5)
12 寛解持続している患者ではDMARDの慎重な減量を考慮してもよい。(4, C, 9.5)

csDMARDsはMTX、スルファサラジン、レフルノミドを含む。bDMARDsはTNF阻害剤(オリジナルとバイオシミラー)、IL-17阻害剤、IL-12/23阻害剤を含む。tsDMARDはJAK阻害剤などの分子標的合成抗リウマチ薬(本邦では乾癬性関節炎には保険適応はない)

本邦で乾癬性関節炎に対して保険適応のあるbDMARDs

TNF阻害剤:インフリキシマブ(キメラ型抗ヒトTNFα mAb:レミケード®)、インフリキシマブBS、アダリムマブ(ヒト型抗ヒトTNFα mAb:ヒュミラ®)、アダリムマブBS、セルトリズマブぺゴル(ペグヒト化抗ヒトTNFα mAb Fab断片:シムジア®)
IL-17阻害剤:セクキヌマブ(ヒト型抗ヒトIL-17A mAb:コセンティクス®)、イキセキズマブ(ヒト型抗ヒトIL-17A mAb:トルツ®)、プロダルマブ(ヒト型抗ヒトIL-17受容体A mAb:ルミセフ®)
IL-12/23阻害剤:ウステキヌマブ(ヒト型抗ヒトIL-12/23p40 mAb:ステラーラ®)、グセルクマブ(ヒト型抗ヒトIL-23p19 mAb:トレムフィア®)

2021/Feb, 2017/Oct