免疫疾患の解説一覧

キャッスルマン病 Castleman Disease (CD)

概要

キャッスルマン病(Castleman disease:CD)は1956年にBenjamin Castlemanがリンパ濾胞の過形成と血管増生を特徴とした良性の縦隔リンパ節腫大の症例を報告したことから始まる。1972年Kelle ARによって病理組織像からhyaline-vascular型とplasma cell型に分類された。Castleman病は発熱、貧血、急性期蛋白質の上昇や高ガンマグロブリン血症などの全身性の炎症を呈するが、これは腫大したリンパ節から産生されるIL-6が原因であることを1989年に本教室の吉崎和幸らが報告した。CDは単中心性CD(unicentric CD:UCD)と多中心性CD(multicentric CD:MCD)に分けられる。UCDはキャッスルマン様の病理組織を示す単一局所領域のリンパ節病変によるものでhyaline-vascular型が多く、炎症症状は軽度で外科的リンパ節切除によって軽快する。MCDはplasma cell型が多く、HHV8(human herpes virus 8、KSHV: Kaposi’s sarcoma herpesvirusとも呼ばれる)によるもの(HHV8関連MCD)とHHV8陰性の特発性MCD(idiopathic MCD:iMCD)がある。ともに特徴的病理像を有する多巣性のリンパ節腫大と全身性の炎症症状を伴い、不明熱の鑑別疾患としてもしばしば考慮される。HHV8関連MCDはHIV感染や免疫不全症に伴ってみられHHV8がコードするウイルスIL-6やヒトIL-6が病態を形成している。

特発性多中心性キャッスルマン病 Idiopathic Multicentric Castleman Disease(iMCD)

概要

HHV8陰性の特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)にはこれまで標準となる診断基準がなかったが、2017年本邦142例をまとめた診断基準仮案やiMCD国際診断基準が公表されている。リンパ節病理像(血管増生型、形質細胞型、混合型)と全身性の炎症症状を特徴とし、HHV8関連MCDや症状が類似する感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、POEMS症候群などを除外したうえで診断される。本邦ではiMCDは2018年4月に指定難病となった。

症状と検査

128例をまとめたシステマチックレビューでは多中心性リンパ節腫大(100%)、貧血(87%)、CRP高値(82%)、高ガンマグロブリン血症(77%)、低アルブミン血症(90%)、IL-6高値(90%)、肝腫大/脾腫(78%)、発熱(52%)、浮腫/腹水/全身性浮腫(78%)、sIL-2R高値(95%)、VEGF高値(80%)であった。

診断と重症度の判定のために一連の検査を行うことが望ましい。リンパ節腫大を見るためCT検査をするべきで、さらにPET-CTだと望ましい。高度の取り込み(>6)は悪性リンパ腫を疑う。リンパ節生検にてiMCDに合致する特徴を確認し、病理組織型を確定し、EBウイルス(EBER染色)とHHV8(LANA-1染色)感染症を除外するための病理学的検査を行うべきである。

診断

キャッスルマン病(CD)の2017年本邦の(仮)診断基準
A. 一つまたは複数の長径1cmを越えるリンパ節腫大が認められ、リンパ節又は臓器の病理組織所見がキャッスルマン病の組織型のいずれかに合致する。
B. リンパ節腫大の原因として以下の疾患は除外されなければならない。

なお、罹患リンパ節が一つである単中心性キャッスルマン病とHIV感染症でみられるHHV8関連多中心性キャッスルマン病を除外したものを特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)と診断する。

特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)の2017年国際診断基準

主要基準2つを満たし、小基準11項目のうち一つの検査項目を含む2項目以上を満たし、除外基準が除外される場合にiMCDと診断される。

I. 主要基準(両者を満たすこと)
  1. iMCDに特徴的な病理組織像(胚中心の萎縮、濾胞樹状細胞の増加、血管増生、胚中心の過形成、形質細胞腫をそれぞれgrade 0からgrade 3まで分類する)。少なくともgrade2-3に相当する胚中心の萎縮あるいは形質細胞増加症が見られること。
    ・胚中心の退縮/萎縮/閉鎖、オニオンスキン様のリンパ球の同心円状の輪からなる拡張したマントル層を伴う。
    ・濾胞樹状細胞が目立つ。
    ・血管増生は内皮細胞が目立ち濾胞と濾胞の間を走行したり、ロリポップ様に胚中心を走行する。
    ・シート様の多型性の形質細胞増加症が濾胞と濾胞の間に見られる。
    ・胚中心の過形成
  2. ふたつ以上の領域でのリンパ節腫大(短径1cm以上)
II. 小基準(検査6項目臨床5項目のうち一つの検査項目を含む2項目以上であること)
  1. 検査
    ①CRP(>1mg/dl)、血沈(>15mm/時間)
    ②貧血(男性でHb<12.5g/dl、女性でHb<11.5g/dl)
    ③血小板減少(<15万/ul)あるいは血小板増加(>40万/ul)
    ④低アルブミン血症(<3.5g/dl)
    ⑤腎機能障害(eGFR<60ml/min/1.73m2)または蛋白尿(150mg/日または10mg/dl)
    ⑥ポリクローナル高ガンマグロブリン血症(総ガンマグロブリン又はIgG>1700mg/dl)
  2. 臨床
    ①症状:夜間の発汗、発熱(>38度)、体重減少、倦怠感(CTCAEリンパ腫スコアB症状で2以上)
    ②脾腫あるいは肝腫大
    ③液貯留:浮腫、アナサルカ(全身性浮腫)腹水、胸水
    ④発疹性のチェリー様の血管腫症または紫色丘疹
    ⑤リンパ球性間質性肺炎
III. 除外基準(iMCDと似る以下の疾患を除外しなければならない)
  1. 感染症の除外
    ①HHV8(血液を用いたPCRで感染が証明できる。免疫組織染色でLANA1陽性であればHHV8関連MCDと診断される)
    ②伝染性単核球症や慢性活動性EBウイルス感染症などのEBウイルスリンパ増殖性疾患(低レベルのEBウイルスの検出だけでは必ずしもリンパ増殖性疾患として除外できない)
    ③他の制御されていない感染症による炎症やリンパ節腫大(急性や制御されていないサイトメガロウイルス感染症、トキソプラズマ症、HIV、活動性結核)
  2. 自己免疫疾患や自己炎症性疾患の除外(臨床基準を満たす必要がある。自己抗体のみ検出では自己免疫疾患として除外されない)
    ①全身性エリテマトーデス
    ②関節リウマチ
    ③成人スティル病
    ④若年性特発性関節炎
    ⑤自己免疫性リンパ増殖性疾患
  3. 悪性疾患やリンパ増殖性疾患(これらの疾患はiMCDから除外するために前もってあるいは同時に診断されなければならない)
    ①リンパ腫(ホジキンと非ホジキン)
    ②多発性骨髄腫
    ③原発性リンパ節形質細胞腫
    ④濾胞樹状細胞肉腫
    ⑤POEMS症候群
  4. 診断には必要ないが診断を支持する特徴的所見
    ・IL-6、sIL-2R、VEGF、IgA、IgE、LDH、B2Mなどの上昇
    ・骨髄のレチクリン線維化(特にTAFRO症候群の場合)
    ・iMCDと関連する疾患の診断:腫瘍関連天疱瘡、閉塞性気管支炎、器質化肺炎、自己免疫性血球減少症、多発性神経障害(POEMS以外)、糸球体腎症、炎症性筋線維芽細胞腫

iMCDの重症分類

軽度の症状から生命を脅かす臓器障害まで重症度は様々である。重症では腎障害、アナサルカ、重症貧血、呼吸機能障害など臓器障害の証拠を有し全身状態の悪化を伴う。検査ではCRP高値(10mg/dl以上)、低アルブミン(2.0g/dl以下)、血小板減少(10万/ul以下)などを含む。リンパ球性間質性肺炎では適切な治療がなされないと末期の肺線維症に至ることがある。

以下の5項目の内2項目以上であれば重症とする。

鑑別疾患

iMCDから鑑別されなければならない感染症としてHHV8感染症、EBウイルスリンパ増殖性疾患(伝染性単核球症や慢性活動性EBウイルス感染症など)や他の感染症による炎症やリンパ節腫大(サイトメガロウイルス感染症、トキソプラズマ症、HIV、活動性結核など)があがる。鑑別すべき自己免疫疾患では全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、成人スティル病、若年性特発性関節炎、自己免疫性リンパ増殖性疾患などがあがるが、抗核抗体や抗血小板抗体、抗SSA抗体、溶血性貧血などはiMCDでも見られることがあり、自己免疫疾患の確定診断のない自己抗体の検出だけではiMCDは除外されない。iMCDとIgG4関連疾患が重複する場合は、IgG4高値であってもiMCDの診断が優先され、特にリンパ節でのIgA染色や血清IgG4/IgG低値はIgG4関連疾患よりiMCDを支持する。血球貪食症候群はiMCDと重複する点が多いが、除外するかiMCDの症状の一部とするべきか議論がある。また、iMCDでは悪性腫瘍の頻度が年齢補正の対象と比べて3倍高く、悪性腫瘍がiMCD様症状やリンパ節病変を併発している可能性も考えられており、リンパ腫、多発性骨髄腫、原発性リンパ節形質細胞腫、濾胞樹状細胞肉腫の鑑別が必要とされ、全例で骨髄生検の考慮が勧められている。

治療

過去の報告例のまとめでは以下のような治療成績になっている。

全344例(有効61%、無効39%、治療不成功44%)
ステロイド単独117例(有効46%、無効54%、治療不成功54%)
ステロイド又は細胞傷害性化学療法19例(有効63%、無効37%、治療不成功NA)
細胞傷害性化学療法135例(有効78%、無効22%、治療不成功42%)
抗IL-6抗体147例(有効61%、無効39%、治療不成功32%)
免疫修飾剤27例(有効69%、無効31%、治療不成功38%)
その他16例(有効62%、無効38%、治療不成功80%)
無治療18例(有効0%、無効100%、治療不成功79%)

非重症例では治療反応性の高さや副作用の少なさからIL-6阻害療法を全ての患者にすすめている。海外では抗IL-6抗体(siltuximab)が使用されるが本邦ではtocilizumabが承認されている。初期ではステロイドの併用が勧められる。ステロイド単独療法は治療不良が54%、長期成績例が少ない、再燃が多いなどから抗体が使用できない状況以外では支持されていない。IL-6阻害により炎症病態は速やかに改善するが、リンパ節腫大の改善には5ヶ月程度かかる。最大の効果が得られるまで3ヶ月毎にCTでフォローし、その後半年〜1年間隔でフォローしていく。病状が安定していたらステロイドを減量し、抗体投与間隔も延期できる。これらの治療でも半数では十分な効果が得られないがその場合は診断を再評価し、悪性リンパ腫などを再度鑑別する。Tocilizumabが効果なければ継続する必要はなく、セカンドラインとしてリツキシマブとステロイドを使用する。さらにIL-6産生抑制と抗VEGF作用のあるサリドマイドが併用されることがある。サードラインとして細胞傷害性の化学療法は有効率が高いが再燃も多く、Cyclosporine Aなどの免疫抑制剤が使用されることが多い。

臓器障害を呈する10-20%の重症例では抗IL-6受容体抗体とともに高用量ステロイド(メチルプレドニゾロン500mgなど)を開始する。抗体は1ヶ月間毎週投与してもよい。重症例では致死率が高く、専門医のアドバイスを受けるべきである。さらに反応が乏しい場合は多剤化学療法を用いた強力な治療介入を早急に考慮する。

治療アルゴリズム(本邦で使用できないsiltuximabは除いた)
非重症例

トシリズマブ±ステロイド(2A)、リツキシマブ±ステロイド(2B)

PR/CRであれば継続、あるいは、トシリズマブ±ステロイド(2A)
不十分であればリツキシマブ+ステロイド±免疫抑制剤(2B)

PR/CRであれば免疫抑制剤±ステロイド(2B)を継続
不十分であれば専門家の意見/免疫抑制剤

免疫抑制剤はthalidomide, cyclosporine A, sirolimus, anakinra, bortezomib(本邦ではいずれも保険適応なし)など。

重症例

トシリズマブ±高用量ステロイド(2A) 毎週評価する。

PR/CRであれば継続しステロイドを減量する
不十分であれば化学療法を追加(2B)

不十分であれば個別治療、専門施設へ紹介、専門家へ相談

化学療法はR-CHOP (rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisone)、R-VDT-PACE (rituximab, bortezomib, dexamethasone, thalidomide, cisplatin, doxorubicin, cyclophosphamide, etoposide)、etoposide/cyclophosphamide/rituximabなど。

治療反応性の定義

CR:CRP、Hb、Alb、GFRが正常、リンパ節腫大の消失、症状(倦怠感、食欲低下、発熱、体重)の回復
PR:全てが50%以上改善、リンパ節縮小、4つ全て改善するが未回復
SD:全てが50%未満の改善〜25%未満の悪化、リンパ節の縮小もないが25%以上の増大もない、一つが改善
PD:いずれかが25%以上悪化、リンパ節が25%以上増大、4項目のいずれかが2以上の悪化

POEMS症候群(クロウ・深瀬症候群) POEMS Syndrome

概念

多発性神経炎(Polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly)、内分泌障害(Endocrinopathy)、M蛋白血症(M-protein)、皮膚異常(Skin changes)の各頭文字を取ってPOEMS症候群と呼ばれるが、本邦ではクロウ・深瀬症候群と呼ばれることが多い。多発ニューロパチーを必須とし、高VEGF血症(1000pg/ml以上)やM蛋白が証明される。キャッスルマン病に伴う事がある。VEGFによる血管透過性亢進による様々な障害と考えられている。指定難病である。

診断

本邦研究班によるクロウ・深瀬(POEMS)症候群診断基準
大基準

①多発ニューロパチー(必須)
②血清VEGF濃度1000pg/ml以上
③血清又は尿中でM蛋白陽性

小基準

①骨硬化性病変
②キャッスルマン病
③臓器腫大(脾腫、肝腫大、リンパ節腫大)
④浮腫(胸水、腹水、心嚢水)
⑤内分泌異常(副腎、下垂体、性腺、副甲状腺、甲状腺、膵臓機能)
⑥皮膚異常(色素沈着、剛毛、血管腫、チアノーゼ、爪床蒼白)
⑦乳頭浮腫

甲状腺機能異常と膵機能異常は有病率高く単独の異常では小基準の1項目として採用しない。

Definite:大基準①②③と小基準1つ以上
Probable:大基準①②と小基準1つ以上
Possible:大基準①と小基準2つ以上

2019/Jan, 2018/May