大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
2010年にTakai Kらにより血小板減少(Thrombocytopenia)、全身性浮腫/胸水/腹水(Anasarca)、発熱(Fever)、骨髄細網線維化(Reticulin fibrosis)、臓器腫大/肝腫大/脾腫/リンパ節腫大(Organomegaly)を呈した3症例の報告が最初で、各頭文字を取ってTAFRO症候群として報告された。リンパ節病理像はキャッスルマン病と類似し、一部臨床像も特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)と似るためiMCDの亜型か異なる疾患なのか議論がある。病状が進行性に悪化し血小板減少と胸水/腹水貯留など著明な浮腫を伴う点でiMCDとは異なるとの指摘もある。本邦からの25例のケースシリーズでは、しばしば腹痛を認め、血清ALP高値、急性腎不全などを呈し、iMCDで見られるような高ガンマグロブリン血症を呈した例はなかったと報告されている。2015年厚生労働科学研究のMasaki YらのTAFRO症候群診断基準と2017年Iwai NらによるTAFRO-iMCDの診断基準案があるが、まだ十分検証されている基準ではない。iMCDやTAFROでは上昇したIL-6やVEGFなどのサイトカインが炎症や血管透過性を誘導していると考えられている。VEGF(vascular endothelial growth factor)はVPF (vascular permeability factor)とも呼ばれており、強い血管透過性誘導能を持つ。
(平成27年度厚生労働科学研究 難治性疾患政策研究事業新規疾患 TAFRO症候群の確立のための研究)
必須項目3項目+小項目2項目以上を満たす場合TAFRO症候群と診断する。ただし、悪性リンパ腫などの悪性疾患を除外する必要があり、生検可能なリンパ節がある場合は生検するべきである。
1.必須項目 |
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①体液貯留(胸・腹水、全身性浮腫) ②血小板減少(治療開始前最低値<10万/ul) ③原因不明の発熱(37.5度以上)または 炎症反応陽性(CRP 2 mg/dl 以上) |
2.小項目 |
①リンパ節生検でCastleman病様所見 ②骨髄線維化(細網線維化または骨髄巨核球増多) ③軽度の臓器腫大(肝・脾腫、リンパ節腫大) ④進行性の腎障害 |
3.除外すべき疾患 |
①悪性腫瘍:悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、中皮腫など ②自己免疫性疾患:全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎など ③感染症:抗酸菌感染、リケッチア感染、ライム病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など ④POEMS症候群 ⑤IgG4関連疾患 ⑥肝硬変 ⑦血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)/溶血性尿毒症症候群(HUS) |
参考事項
Anasarca(最大3点) |
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画像検査で確認された胸水(1点) 画像検査で確認された腹水(1点) 理学所見で確認された圧痕を残す浮腫(1点) |
血小板減少(最大3点) |
10万/ul未満(1点) 5万/ul未満(2点) 1万/ul未満(3点) |
発熱/炎症(最大3点) |
発熱が37.5度以上38.0度未満、又はCRPが2mg/dl以上10mg/dl未満(1点) 発熱が38.0度以上39.0度未満、又はCRPが10mg/dl以上20mg/dl未満(2点) 発熱が39.0度以上、又はCRPが20mg/dl以上(3点) |
腎障害(最大3点) |
GFRが60ml/min/1.73m2未満(1点) GFRが30ml/min/1.73m2未満(2点) GFRが15ml/min/1.73m2未満、又は人工透析が必要(3点) |
4項目最大12点で重症度をスコア化
0-2点:TAFRO症候群の診断としては不十分
3-4点:軽度(grade1)
5-6点:中等症(grade2)
7-8点:やや重症(grade3)
9-10点:重症(grade4)
11-12点:非常に重症(grade5)
1 病理組織基準 |
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①リンパ節の病理像がTAFRO-iMCDとして矛盾しない。 ②HHV8に対するLANA-1が陰性である。 |
2 主要基準 |
①診断時に5つのTAFRO徴候のうち3つがある ・血小板減少(<10万/ul) ・全身性浮腫/胸水/腹水 ・発熱(>38度) ・骨髄細網線維化(骨髄生検による) ・臓器腫大/肝腫大/脾腫/リンパ節腫大 ② 高ガンマグロブリン血症がない ③ リンパ節腫大は目立たない |
3 小基準(一つ以上満たす) |
①骨髄の巨核球の過形成または正常 ②血清ALP高値、ただし血清トランスアミナーゼの著明な上昇を伴わない。 |
病理組織基準と主要基準を満たし、一つ以上の小基準を満たす場合に診断する。
全身性エリテマトーデスなどのリウマチ性疾患、リンパ腫などの腫瘍性疾患、POEMS症候群、癌などの除外が必要である。
TAFRO症候群に特徴的なリンパ節所見は内皮細胞の核が拡大した萎縮性胚中心、濾胞間域での核が拡大した内皮細静脈の増殖、および少数の成熟した形質細胞である。
全身症状が急速に悪化していくため、適切な診断と迅速な治療が必要であるが、確立した治療法はない。ステロイド、シクロスポリン、トシリズマブ、リツキシマブなどの有効例報告がある。治療抵抗性では致死例もある。
証拠には基づいていないが、これまでの治療経験として以下が挙げられている。
まずステロイドを最初に投与し、ステロイド抵抗性であればCyAを追加する。CyAが使用できない場合や腎不全がある場合はトシリズマブやリツキシマブが推奨される。血漿交換、シクロフォスファミド、CHOP療法(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)やサリドマイド、レナリドミドが有効だった例もある。摘碑や高用量ガンマグロブリンは有効性が示されていない。