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血球貪食症候群 Hemophagocytic syndrome (HPS)

概要

血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome: HPS)は骨髄などの網内系組織において炎症性サイトカインにより活性化された組織球が増殖し自己血球の貪食が認められる病態で、血球貪食性リンパ組織球症(hemo- phagocytic lymphohistiocytosis: HLH)、マクロファージ活性化症候群(macrophage activating syndrome: MAS)とも呼ばれる。発熱、フェリチンなどの炎症マーカー上昇、血球低下、DIC、肝障害、中枢神経障害を特徴とする生命を脅かす全身性の高炎症症候群である。炎症、多臓器不全、ショックなどを伴い死亡リスクが高い。

HLH の用語は小児疾患の病理学的特徴に由来し、PRF1欠損症や他の原因遺伝子の発見よりも前から存在するが、先天性遺伝子異常に使用されることが多い。MASは自己免疫疾患の合併症として生じマクロファージの異常な活性化によるサイトカインストームと呼ばれる炎症性サイトカイン(IFNγ、IL-6、TNFα、IL-12、IL-18など)の異常産生による症状を呈する。

現在のより広範なHLHの定義では二次性HLHにMASが含まれ、一次性と二次性HLHを「HLH/MAS」と呼ぶこともある。HLH/MASは感染症、悪性疾患、リウマチ性疾患が基礎疾患としてある場合に発症するが、頻度は低いが過剰炎症を起こしやすい潜在的な遺伝的先天性免疫異常の症状としても発症する。早期の発見と介入により、臓器不全や死亡を防ぐことができる。

血球貪食症候群(HPS/HLH)の分類

一次性/遺伝性
家族性HPS 各種遺伝子変異(Perforin 1、Munc 13D、 Syntaxin 11など)
原発性免疫不全症候群 Chediak-Higashi症候群、Hermansky-Pudlak症候群など
二次性/反応性
感染症関連 ウイルス(HSV、CMV、アデノウイルス、VZV、EBVなど)、細菌、真菌、寄生虫
悪性腫瘍関連 血液疾患(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、急性赤芽球性白血病など)
非血液(前立腺癌、肺癌、肝細胞癌など)
自己免疫疾患関連 SLE、AOSD、RA、PM/DM、MCTD、ベーチェット病など
その他 薬剤アレルギー、移植後など。

自己免疫関連血球貪食症候群(autoimmune-associated HPS: AAHS)

SLE、AOSD、RA、PM/DM、MCTD、ベーチェット病などによって生じることがあるが臨床症状の割合は、発熱≧37度(91%)、高フェリチン血症(82%)、高CRP血症(76%)、2系統以上の血球減少(71%)、 白血球減少<4000/ul(59%)、肝腫大(47%)、血小板減少<10万/ul(47%)、肝機能障害AST/ALT上昇(47%)、発熱≧38度 (44%)、脾腫(41%)、貧血Hb<10g/dl(41%)、リンパ節腫脹(29%)である。

自己免疫関連血球貪食症候群は、成人スティル病と臨床像や検査異常が類似し、共通の機構が示唆される。リポ化ステロイド(デキサメタゾンパルミチン酸エステル)、免疫グロブリン大量療法、ステロイドとcyclosporinやcyclophosphamideなどの免疫抑制剤の併用、血漿交換療法などによって加療された報告がある。

HLH2004診断ガイドライン

小児の遺伝性HLHを念頭に作成された診断ガイドラインのため、悪性腫瘍が除外されており、成人での基準値は小児とは異なる点にも注意が必要である。(1)または(2)が満たされればHLHと診断する

(1) 一次性/遺伝性HLHと符合する遺伝子異常がある
(2)

以下の8つのうち5つ以上を満たす

  • 発熱
  • 脾腫
  • 2系統以上の血球減少
    Hb<9.0 g/dl(4週未満の新生児では10.0 g/dl)、Plt<10 万/μl、好中球<1,000/μl
  • 高中性脂肪血症(空腹時TG ≧265 mg/dl) and/or 低フィブリノーゲン血症 (≦150 mg/dl)
  • 骨髄、脾臓またはリンパ節における血球貪食像(かつ悪性腫瘍の所見なし)
  • NK細胞活性の低下あるいは消失
  • 血清フェリチン値≧500 ng/ml
  • sIL-2R≧2,400 U/ml

2022 EULAR/ACR血球貪食性リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群 (HLH/MAS) 疑いの診断と管理の初期段階での考慮点

括弧内は(証拠レベル、合意レベル)

疾患の気づき、スクリーニング、早期診断
1 以下の説明のつかない、または異常に重症および著しい検査異常は、特に同時に生じている場合、全身性高炎症症候群を示していることがあり、適切な臨床状況で HLH/MASの検討を促す必要がある。(HLH:1A MAS:3B、9.5)
・持続する発熱。
・フェリチンや他の炎症/損傷マーカー (CRP、LDH) の上昇。
・Hb、血小板やWBC(好中球およびリンパ球)が異常に低い。
・肝機能障害(ALT、AST、ビリルビンの上昇)。
・凝固障害(フィブリノーゲンの低下、PT/INRの増加、Dダイマーの増加)。
・脾腫。
・中枢神経系障害。
2 HLH/MASを表す、またはHLH/MASに進行する可能性のある全身性高炎症症候群の特徴を持つ患者では、フェリチンをチェックする必要がある。(1A、10.0)
3 フェリチンが正常であるが、臨床上HLH/MAS疑いが続く患者は、継続してフェリチン検査を受ける必要がある。(5D、9.4)
4 フェリチンに加え、以下の通常検査も行うべき: 白血球分類を含む血球、肝臓、フィブリノーゲン、D-ダイマー、LDH、CRP。(1A、9.5)
5 最初の臨床検査評価に続き炎症の特殊なマーカー(可能なら、IL-2Rα、CD163、IL-18、CXCL9、ネオプテリンなど)の評価はHLH/MAS診断にさらに役立つ可能性がある。これらはHLH/MASの経験を持つ専門家と相談して解釈する必要がある。(4C、9.2)
基準
1 既存の分類または診断基準は特定の状況で良く機能するが、あらゆる状況で HLH/MAS症候群を診断するには単一の基準は十分でない。(5D、9.4)
関与する医師
1 特定の感染症、リウマチ性疾患、悪性腫瘍、代謝性疾患、先天性免疫異常はHLH/MAS と関連することが多く、医師はこれらの疾患の適切な評価を検討する必要がある。(2B、9.6)
2 HLH/MAS疑いの遺伝子検査は、診断と管理に決定的な影響を与える可能性があるため早期に検討する必要がある。(3B、9.0)
3 HLH/MAS疑いの遺伝子検査に関する意思決定は複雑で、年齢、臨床症状、臨床検査/機能検査の結果を統合する必要があり、HLH/MASの専門知識を持つ専門家の関与が必要である。(4C、9.4)
4 遺伝子検査が必要な患者には、単一遺伝子解析ではなく、多様な病因をスクリーニングするため次世代シークエンシング(標的遺伝子パネル、全エクソームまたは全ゲノムシークエンシング)が推奨される。(5D、9.2)
5 遺伝子検査を検討している患者には、結果の同意と解釈を支援する遺伝カウンセリングが提供されるべきだ。(5D、9.1)
予後因子と中枢神経障害
1 基礎にある悪性腫瘍、中枢神経障害、肝不全、多臓器不全、長期の疾患活動性は、HLH/MAS疑いの患者の予後不良と関連する。これらの基礎疾患では、HLH/MAS診断の確定、誘発する条件の特定、適切な治療の開始に緊急を促す必要がある。(2B、9.5)
2 HLH/MAS疑いの全患者で総合的な神経学的検査を受ける必要がある。 以下のいずれかを有する患者は中枢神経障害について評価するべきだ: 一歳未満、既知の遺伝性HLH疾患、脳症、発作、精神状態の変化、過敏症、髄膜症、頭痛、視力の変化や部分欠損。(4C、9.2)
3 中枢神経障害の評価には、安全にできるなら脳MRIと脳脊髄液のグルコース、タンパク質、細胞数と種類(病理細胞診を含む)を含めるべきだ。(4C、9.5)
4 HLH/MAS の疑いの患者では、中枢神経障害の評価で全身免疫調節療法の開始を遅らせるべきではない。(4C、9.7)
治療
1 HLH/MAS疑いで、持続的、重度、増悪している炎症や臓器機能不全を伴う場合、診断検査の途中でも免疫調節治療の開始を検討する必要がある。(5D、9.7)
2 免疫調節治療の第一選択は難しく、HLH/MASの急速な進行による緊急リスクの評価と、活動性感染症の悪化や悪性腫瘍の診断が曖昧になる可能性のバランスを考慮する必要がある。(2B、9.6)
3 急速進行性 HLH/MASに対する経験的免疫調節療法の第一選択として、高用量グルココルチコイド、アナキンラ、IVIGを含めて良い。(GC:2B Anakinra:2B IVIG:4C、8.9)
4 支持療法および免疫調節薬によるHLH/MAS治療に加え、患者は適切な抗菌薬、抗ウイルス薬、および基礎疾患や誘因の治療を受けるべきだ。(4C、9.8)
5 長期の免疫調節療法が予想される患者では、感染症専門家と相談し、抗菌薬や抗ウイルス薬の予防投与を考慮する必要がある。(2B、9.3)
モニタリング
1 HLH/MAS疑いで、全身性炎症(特にフェリチン)、DIC、肝炎、血球減少の検査値の悪化や改善しない場合は、疾患の進行や診断・治療の再評価の必要性を示している可能性がある。(2B、9.6)
2 HLH/MAS状態、またはHLH/MASへ進行が疑われる全身性の高炎症は、継続的な臨床モニタリングと臓器障害の頻回な再評価を要し、ICU管理が必要なこともある。(4C、9.8)
3 医師は、臓器障害を臨床評価や検査値で少なくとも毎日評価し、全身炎症のマーカーを少なくとも週2回評価し、治療に対する初期反応を監視する必要がある。(2B、9.3)
集学的チーム
1 集学的なアプローチが望ましく、これにより全身性高炎症とHLH/MASの診断と管理を最適化できる。(5D、9.6)

HLH/MASで行われる検査と頻度

検査 傾向 モニター頻度 意義
血球
好中球 骨髄での産生、増殖、組織での隔離、消費などによって影響を受ける。MASでは活性化マクロファージによる貪食が見られる。
リンパ球
Hb
血小板
炎症マーカー
CRP IL-6により肝臓で産生され、トシリズマブで強く抑制。
フェリチン マクロファージや肝細胞の活性化で上昇する。
血沈 ↑↓ フィブリノーゲン消費で低下する。
LDH 細胞死や細胞障害で上昇する。
IL-2Rα 週〜月 T細胞の活性化で上昇する。
CXCL9 週〜月 IFNγで誘導されるケモカイン
IL-18 必要時 インフラマソームで活性化し、IFNγを誘導する。
肝機能
AST、ALT、Bil 肝細胞の障害を反映する。
Triglycerides TNFαによるlipoprotein lipaseの抑制を反映している。
Alb 血管透過性亢進。
凝固系
Fibrinogen フィブリノーゲン消費。
d-dimer 日〜週
PT/INR/PTT 凝固因子の消費。
中枢神経検査
脳画像検査 異常 必要時 白質、灰白質の炎症、髄膜症、低酸素。
脳脊髄液 必要時 髄液細胞増加、蛋白上昇、中枢神経炎症。

小児HLHに関しては日本小児血液・がん学会組織球症委員会から小児HLH診療ガイドライン2020が公表されている。

2023/Aug