免疫疾患の解説一覧

巨細胞性動脈炎 Giant cell arteritis (GCA) (旧名 側頭動脈炎 Temporal arteritis)

概要

2011年のChapel Hill会議で、大血管炎に分類されるものには高安動脈炎と巨細胞性動脈炎がある。高安動脈炎は日本では毎年40-200人の発症がある。欧州では50歳以上では大人の原発性全身性血管炎では巨細胞性動脈炎は最も多く見られ、毎年100万人あたり32-290人の発症がある。日本では高安動脈炎が多く、巨細胞性動脈炎は欧州ほど多くはない。頭蓋内動脈の炎症が特徴的で、側頭動脈に炎症を認めることが多く、以前は側頭動脈炎と呼ばれていた。しかし、実際は側頭動脈以外の動脈にも炎症がみられることより、側頭動脈炎の呼称は消えて巨細胞性動脈炎という病名になった。本疾患では頭蓋内動脈以外の大血管にも炎症が見られることがあり、高安動脈炎との異同が論じられている。

欧米では巨細胞性動脈炎の病変部位は高安動脈炎と殆ど変わりがないという報告もあるが、本邦での若年女性に多く見られる高安動脈炎では側頭動脈炎を認めることは稀である。これは高安動脈炎と巨細胞性動脈炎が異なる疾患なのか、人種差によって病変部位が異なるのか、発症年齢によって病変部位が異なるのか議論があるところである。

症状

全身症状として炎症に伴う発熱、倦怠感、易疲労感など、局所症状として頭蓋内動脈の狭窄による眼症状(複視、視力障害、失明)、咬筋跛行(jaw claudication)を自覚し、浅側頭動脈の圧痛、拡張を認める。リウマチ性多発筋痛症(PMR)の合併を約30%で認め、PMRの症状として、肩や腰などの四肢近位部の疼痛とこわばりを伴うことがある。

検査所見

血液検査では、CRPなどの急性期蛋白質の上昇、慢性炎症に伴う貧血など一般的な炎症所見を認める。浅側頭動脈の生検は診断に重要である。病変が非連続性に出現することがあるため2cm以上の長さで生検することが望ましい。眼症状は非可逆的に失明に至るため、場合によっては生検に先立ち治療開始を判断する。ステロイド投与後でも、治療開始後1~2週以内であれば病理所見が得られる。超音波検査で、側頭動脈血管壁の浮腫を認める。頭蓋内動脈以外にも大血管の炎症を併発していることが多く、FDG-PET、MRIで炎症血管部位の検索を行う。

2023臨床現場における大血管炎における画像検査に関するEULAR推奨
包括的原則(数字は同意レベル)
A. 巨細胞性動脈炎(GCA)を疑う患者には、高度な専門知識と画像技術の迅速な利用を前提とし、GCAの臨床診断をサポートするために早期の画像検査が推奨される。 画像検査により治療開始が遅れてはならない。(9.1)
B. 画像検査は、適切な機器、標準化された操作手順と設定で、訓練を受けた専門家によって行われるべきだ。(9.8)
C. GCAの臨床的疑いが高く、画像検査が陽性である患者は、追加検査 (生検や追加の画像検査) を行わずGCAの診断を下すことができる。臨床的可能性が低く、画像検査結果が陰性の患者は、GCAの可能性は低いと考えられる。それ以外の状況(画像結果が決定的でない場合を含む)では診断のために追加検索が必要。(9.4)
推奨事項(数字は証拠レベル、同意レベル)
1. GCA を疑う患者の血管壁の炎症性変化の最初の画像検査として側頭動脈および腋窩動脈の超音波検査を考慮する。(1、9.6)
2. 高解像度 MRIやFDG-PETは、GCAを疑う患者の頭蓋動脈を評価するため、超音波の代替として使用できる。(1、9.4)
3. FDG-PET、代替としてMRIやCTは、GCAを疑う患者の頭蓋外動脈壁炎症や内腔変化の検出に使用できる。(PET;1、CT;3、MRI;3、9.6)
4. 高安動脈炎(TAK)を疑う患者では、TAKを診断するための最初の画像検査として、血管壁の炎症や血管腔の変化をMRIで調べる。(3、9.5)
5. TAK が疑われる患者には、FDG-PET、CTや超音波が代替の画像検査で使われる場合がある。超音波は胸部大動脈の評価には限界がある。(CT;3、PET&US;5、9.7)
6. 従来の血管造影は、前述の画像診断法に取って代わられており、GCAやTAKの診断には推奨されない。(5、9.8)
7. GCAやTAKの再発を疑う場合、特に疾患活動性の臨床検査マーカーが信頼できない場合、血管異常の評価に超音波、FDG-PET、または代替でMRI が考慮される場合がある。臨床的および生化学的に寛解にある患者では日常的な画像検査は推奨されない。(5、9.3)
8. GCA やTAKでは、MRA(MR angiography)、CTA(CT angiography)や頭蓋外血管超音波検査で、特に先行する血管炎症部位の構造的損傷を長期モニタリングできる。スクリーニング頻度や方法は患者による。(5、9.5)

証拠レベル1は参照標準と盲検化を一貫して適用した横断研究の系統的レビュー。3は非連続的な研究や一貫して適用される参照標準を持たない研究。5は機序に基づいた推論。

超音波検査のBモード周波数は15MHz以上。できれば側頭動脈は18MHz以上、頭蓋外の大動脈上部動脈は7~15MHz。 画像の深さは側頭動脈で10~20mm、頭蓋外の大動脈上部動脈で30~40mm。

頭部MRIは3.0T MRIで、最小でも16チャンネルの頭部コイル。T1w スピンエコー、ガドリニウム造影、脂肪抑制、高解像度 (面内<1mm2、例: 195×260 μm2、スライス厚 3 mm、TR/TE 500/22ms)。体幹MRIは3.0T MRIが望ましい。最低16チャンネルの頭頸部コイルと16チャンネルのボディコイル。

FDG-PETは血糖値126mg/dL未満が好ましい。180mg/dL未満は許容。FDG注入と画像取得の間隔は少なくとも60分、できれば90~120分。FDG取り込みのスコアリングが不明瞭な場合はバックグラウンドの肝臓と比較する。

CTはマルチスライスCTスキャナー使用。コリメーション0.6mm、個々の管電圧と管電流の時間積は自動線量変調によって決定。再構成スライスの厚さは0.5~1.0mm。造影CTは、電動インジェクター(4mL/s以上)を使用、50~100 mLの非イオン性ヨード造影剤 (350mg/mL以上)の注入。

診断

側頭動脈の炎症を、診察や画像・組織所見で確かめることが重要である。

2022年ACR/EULAR巨細胞性動脈炎分類基準

分類基準は中型~大型血管炎の診断がつけられている場合に巨細胞性動脈炎と分類する際に適応する。基準を適応する前に血管炎類似疾患の除外が必要である。合計6点以上で巨細胞性動脈炎と分類。
(感度87.0%、特異度94.8%)

必須 診断時年齢が50歳以上。
臨床 肩または首の朝のこわばり(+2)
突然の視覚障害(+3)
顎または舌の跛行(+2)
新たな側頭部痛(+2)
頭皮の圧痛(+2)
側頭動脈の異常(脈圧消失、圧痛、索状など)(+2)
検査 治療前でESR≧50mm/hまたはCRP≧1.0 mg/dL (+3)
側頭動脈生検で陽性または超音波で側頭動脈ハローサインが陽性(+5)
画像(CT、MRI、カテーテル)での両側腋窩病変(狭窄、閉塞、動脈瘤)、エコー検査によるハローサイン、FDG-PETで取り込み(+2)
大動脈全体でFDG-PETで活動性(例えば目視で肝臓より高輝度)(+2)

治療

視力障害(失明も生じうる)のリスクがあるため速やかに治療を行う。眼、中枢神経、脳神経症状がない場合、PSL 0.5mg~1mg/kg/dayを、ある場合、mPSLパルスあるいはPSL 1mg/kg/日を3~4週間投与後、症状や炎症マーカーを指標にしてステロイドを減量する。減量困難例では、MTXなどの免疫抑制薬の併用が行われるが、高齢者の場合は腎機能低下などにより副作用が出やすいため注意を要する。2017年8月からステロイド抵抗性やステロイド継続困難例に対しては抗IL-6受容体抗体(162mg 皮下注/週)が適応承認された。炎症が抑制されたらステロイドを減量し感染症リスクを下げることが大切である。心疾患、脳血管の虚血性合併症の予防に、低用量アスピリンを併用することがある。

血管炎症候群の診療ガイドライン2017年改訂版が難治性血管炎に関する調査研究班によって作成され公開されており、巨細胞性動脈炎の治療に関する推奨を以下にまとめる。

治療の推奨クラス(括弧内はエビデンスレベル)
推奨クラスI
ステロイド(B)、ステロイドパルス(B)、TCZ(A)
推奨クラスIIa
MTX(A)、抗血小板剤(B)
推奨クラスIIb
CY(B)、AZA(B)、ETN(B)
推奨クラスIII
CyA(B)、IFX(B)、ADA(B)

TCZ:トシリズマブ、MTX:メトトレキサート、CY:シクロホスファミド、AZA:アザチオプリン、ETN:エタネルセプト、CyA:シクロスポリン、IFX:インフリキシマブ、ADA:アダリムマブ

治療フロー

急激な眼症状や神経症状の出現がある場合はmPSLパルス(0.5~1g/day 3日間)療法を、ない場合はPSL 0.5mg~1mg/kg/dayを2~4週間投与。治療抵抗性あるいはPSLを減量したい症例では以下のいずれかをPSLと併用する。寛解したらPSLは漸減する。

症例

症例:79歳男性。2ヶ月前から側頭部に拍動性の頭痛が出現し、約5kgの体重減少を伴った。側頭部にはY字の浅側頭動脈の索状の拡張がみられた。入院時WBC 8140/ul、Hb 10.8g/dl、CRP 6.7mg/dl、ESR 98mm/h。カラードップラーで浅側頭動脈を短軸方向に映すと、カラーで映る狭窄した血管内腔を低エコー域がリング状に囲う像(ハローサイン)を認めた(図参照)。右総頚動脈でもハローサインが認められた。また、胸腹部造影CTにて鎖骨下動脈、大動脈弓、下行大動脈、腹部大動脈の壁肥厚を認め巨細胞性動脈炎と診断した。

PSL40mgにて治療開始2日目には頭痛が消失。治療5日目までは肉眼的にはあまり改善なくエコー上の変化もなかったが、治療12日目には肉眼的に明らかに改善があり、エコーでは内腔の拡大と血流の改善を認め(図参照)、CRPは正常化した。

巨細胞性動脈炎の診断では動脈生検が標準であるが感度は39%~87%とされる。エコー検査は非侵襲的であり感度54%や75%、特異度81%や83%などの報告がある。他にMRAやPET-CTによる血管炎の描出が有効である。

参考文献

2023/Nov, 2023/July, 2018/May, 2018/Mar, 2017/Sep, 2014/Nov, 2013/May