大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
結節性多発動脈炎は、2012年Chapel Hill会議で中血管炎に分類されている。大血管炎より発症が急で、炎症性動脈瘤や狭窄を伴う中小動脈の壊死性動脈炎で、支配領域の壊死を伴いやすい。糸球体腎炎、細動脈、毛細血管、細静脈などの血管炎は通常伴わない。ANCA抗体との関連はない。
強い炎症症状とともに、侵される血管の領域によって全身の臓器に様々な症状を呈する。
部位 | 頻度 | 症状・徴候 |
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全身症状 | 60-80% | 発熱、体重減少、関節痛、筋肉痛 |
皮膚 | 60% | 網状皮斑、紫斑、出血斑、疼痛伴う皮下結節、皮膚潰瘍、末梢の壊疽 |
腎 | 50% | 腎性高血圧、腎梗塞、虚血による急性腎不全や慢性腎不全、*通常、糸球体腎炎はない |
末梢神経 | 50% | 末梢知覚障害、運動障害など多発性単神経炎 |
中枢神経 | 25% | 精神症状、意識障害、痙攣発作、片麻痺、脳出血、脳梗塞、無菌性髄膜炎 |
消化器 | 20% | 腸管アンギーナによる食後腹痛、消化管出血、腸梗塞、腸閉塞、腸管穿孔、腹膜炎 |
心 | 狭心症、心筋梗塞、心外膜 | |
呼吸器 | 血痰、喀血、肺出血、肺梗塞、胸膜炎 | |
鼻 | 鼻出血、鼻閉塞、鞍鼻、副鼻腔炎 | |
眼 | 虹彩炎、ぶどう膜炎、視力低下、眼底出血 |
血液検査では、CRPなどの急性期蛋白質の上昇、慢性炎症に伴う貧血など一般的な炎症所見を認める。ANCAなどの自己抗体は検出されない。生検にて、中小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎を認める。血管造影検査にて、腎、肝、腸間膜動脈などの多発性動脈瘤、血管壁不整、血管狭窄を認めることがある。
主要症候 | |
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1. | 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヶ月以内に6kg以上) |
2. | 高血圧 |
3. | 急速に進行する腎不全、腎梗塞 |
4. | 脳出血、脳梗塞 |
5. | 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全 |
6. | 胸膜炎 |
7. | 消化管出血、腸梗塞 |
8. | 多発性単神経炎 |
9. | 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑 |
10. | 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下 |
組織所見 | |
中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在 | |
血管造影所見 | |
腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞 |
項目 | |
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1. | 体重減少: 発病以降に4kg以上の体重減少。ただしダイエットや他の原因によらない |
2. | 網状皮斑: 四肢や体幹に見られる斑状網状パターン |
3. | 精巣痛、圧痛: 精巣痛、精巣圧痛。ただし感染、外傷その他の原因によらない |
4. | 筋痛、脱力、下肢圧痛: 広範囲の筋痛(肩、腰周囲を除く)、筋力低下あるいは下肢筋肉の圧痛 |
5. | 単あるいは多発神経障害: 単神経障害の進行、多発単神経障害または多発神経障害 |
6. | 拡張期血圧>90mmHg: 拡張期血圧90mmHg以上の高血圧の進行 |
7. | BUNあるいはCr上昇: BUN>40mg/dlまたはCr>1.5mg/dl。ただし脱水や閉塞障害によらない |
8. | B型肝炎: 血清HBsAgあるいはHBsAbの存在 |
9. | 動脈造影での異常: 動脈造影にて内臓動脈に動脈瘤あるいは閉塞を認める。ただし動脈硬化、線維筋性異形成、その他の非炎症性機序によらない |
10. | 小あるいは中型血管の生検にて多形核白血球を認める: 動脈壁に顆粒球、あるいは顆粒球と単核球の存在を示す組織学的変化 |
ステロイド(1mg/kg/day max 60-80mg/day)で治療を開始する。炎症が安定したら、週あたり5-10mg減量し、20mgまで減量したらその後は減量ペースを落とす。腎不全、腸間膜動脈の虚血や神経障害などの重篤な血管炎症状を伴う場合は、ステロイドにシクロフォスファミド(CYC)点滴(6-12ヶ月投与し、その後アザチオプリンへ変更)を併用する。重症の血管炎では点滴CYCを2週毎1ヶ月、その後4週毎12ヶ月の継続が6ヶ月の継続より成績がよかった。高血圧にはACE阻害薬を用いるが、Crが20-30%上昇してくるようならCa拮抗剤などへ変更する。
結節性多発動脈炎260例と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症82例の解析では、予後不良因子として、尿蛋白1g/day以上、血清Cr>1.58mg/dl、消化管障害(出血、穿孔、梗塞、膵炎)、心筋障害、中枢神経障害、が指摘されている。
画像所見が結節性多発動脈炎と似るが、炎症や動脈硬化性変化などの基礎疾患はない。中~高齢者で血管中膜平滑筋の融解と肉芽組織による置換により、血管径の不整や多発する動脈瘤を形成する稀な疾患である。血管造影では数珠状の不整拡張と狭窄などを呈する。全身性疾患ではなく、病変は主に腹部大動脈分枝の一枝から複数枝に生じ、突然の腹腔内出血や後腹膜出血で発症することがある。冠動脈や脳底動脈の報告もある。慢性炎症を示唆する検査データに欠ける。治療は塞栓術や外科手術である。
画像所見が結節性多発動脈炎や高安動脈炎などと似るが、炎症や動脈硬化性変化などの基礎疾患はない。15~50歳の女性に多く、中膜周囲の線維増殖を特徴とし、典型的には動脈の中部から遠位部に数珠状の拡張と狭窄病変が見られる。腎動脈(60-75%)や頭蓋外脳血管(25-30%)を侵しやすいが全身の複数血管(28%)でも生じる。腎動脈病変から腎性高血圧を生じたり、脳血管病変では頭痛やめまい、脳梗塞を生じる事もある。