大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
1951年に、Jacob ChurgとLotte Straussによって提唱された疾患で、気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行し、好酸球増多を伴った壊死性肉芽腫性血管炎である。2012年、Chapel Hill会議では、主に小血管に病変がある疾患として好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis: EGPA)の名称が提案された。従来は、臨床所見と組織所見があればアレルギー性肉芽腫性血管炎(Allergic Granulomatous Angitis:AGA)と呼び、臨床所見のみであればChurg-Strauss症候群(CSS)と呼んでいた。
気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行する。その後、発熱などの全身症状とともに、多発性単神経炎により下肢あるいは上肢の知覚障害(主にしびれ)や運動障害を生じる(これらはしばしば治療後も残る)。血管炎により、中枢神経障害(脳梗塞症状)、消化管穿孔、心血管系障害、肺胞出血などを起こすと重症化することがある。鼻茸がよく見られる。好酸球浸潤を伴う肺、心筋、消化管などの血管外炎症もしばしば見られる。
独での研究では、本症の150例の症状および徴候の頻度は、以下のように報告されている。
部位 | 頻度 | 症状、徴候 |
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全身症状 | 78% | 発熱、全身倦怠感、体重減少など |
耳鼻・咽喉 | 93% | 副鼻腔炎、鼻粘膜炎、鼻茸、中耳炎 |
末梢神経 | 77% | 多発単神経炎、知覚神経障害、運動神経障害 |
関節・筋 | 61% | 関節痛(炎)、筋痛(炎) |
肺 | 61% | 肺炎、浸潤影・結節影、好酸球浸潤、肺胞出血、胸水 |
皮膚 | 49% | 紫斑、結節性紅斑、網状皮斑 |
心 | 47% | 心外膜炎、不整脈、狭心症、冠動脈炎 |
腎 | 19% | 蛋白尿、糸球体腎炎 |
中枢神経 | 15% | 脳梗塞、脳出血、脳血管炎、精神症状 |
眼 | 12% | 強膜炎 |
血液検査では、炎症所見(CRP上昇、血沈亢進)、好酸球増加、血清IgE高値、MPO-ANC上昇がみられる。MPO-ANCAは、本症の40-70%程度で陽性となる。肺病変を伴う場合の肺胞洗浄液に好酸球増加が見られることがある。組織検査では、肺病変、神経病変、皮膚病変などの病変部位に、好酸球浸潤や肉芽腫の形成をみとめる。
主要臨床所見 | ||
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1. | 気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎 | |
2. | 好酸球増加 | |
3. | 血管炎症状: | 発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6ヶ月以内に6kg以上)、多発性単神経炎、消化管出血、紫斑、多関節痛(炎)、筋肉痛、筋力低下 |
臨床経過の特徴 | ||
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、好酸球増加が先行し、血管炎による症状が出現する | ||
主要組織所見 | ||
1. | 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在 | |
2. | 血管外肉芽腫の存在 |
項目 | |
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1. | 気管支喘息: 喘鳴、呼気での笛様音 |
2. | 好酸球増加: 白血球の10%以上 |
3. | 単神経炎(多発性を含む)または多発性神経炎: 血管炎によるグローブ/ストッキング分布の神経症状 |
4. | レントゲン上移動性浸潤影: 移動性、一過性肺浸潤影。固定陰影は含まない |
5. | 副鼻腔症状: 急性、慢性の副鼻腔痛、圧痛、レントゲン上の副鼻腔影など |
6. | 血管外好酸球浸潤を伴う組織像: 動脈、細動脈、細静脈を含む生検で血管外での好酸球浸潤を認める |
4項目以上で分類する
予後を予測するFive Factor Scoreや重症病態の有無に応じてステロイドあるいはシクロホスファミドなどの免疫抑制剤の追加を考慮する。疾患活動性にBVAS(Birmingham Vasculitis Activity Score)、重症度判定にEUVAS(European Vasculitis Study)が用いられることがある。疾患活動性が高い場合や重症病態がある場合は主に高用量ステロイド+シクロホスファミドパルスによる寛解導入の後、少量ステロイド+アザチオプリンなどによる維持療法を行うことが多い。シクロホスファミド投与量は年齢、腎機能、白血球数、好中球数に応じて適宜減量する。ステロイドによる適切な治療を行っても効果不十分な場合には抗IL-5抗体メポリズマブ(300mgを4週間毎皮下注)を上乗せして投与できる。治療抵抗性の神経障害が残る場合は高用量ガンマグロブリン点滴療法(献血ベニロン400mg/kgを5日間点滴)が保険適応ではある。疾患活動性が落ち着いた後も末梢神経障害は長期に残存することが多い。
EGPAは中小サイズの血管を侵す壊死性血管炎であるが、先行する気管支喘息や血中や組織での好酸球増多を伴う点で他のANCA関連血管炎(MPA、GPA)と異なる。また、MPAやGPAと異なり比較臨床試験で証明された治療に乏しい。そこで、EU5カ国とUSAのEGPA consensus task force expertsらにより22の推奨が提案されている。
EGPAの予後を予測するFive Factor Score (2009 FFS) (Guillevin L et al. Medicine. 90(1):19-27. 2011.) | |
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1. | 65歳以上。 |
2. | 心臓病変(心不全や梗塞など)。心病変はEGPAの死亡原因の主な病変であり、画像、心電図、心エコー、BNPやトロポニンIの測定を早期に実施しておく。 |
3. | 消化管病変(出血や膵炎など)。虚血性腸疾患は予後不良を予測する。腹痛、吐気、嘔吐、吐血、下痢、血便、タール便などでは画像検査や内視鏡を検討する。 |
4. | 腎病変(血清Crが1.7mg/dL以上)。腎機能や尿検査(蛋白尿や血尿、円柱)は初診時とその後の再燃に対して定期的に実施する。薬剤による腎障害や投薬量調整にも参考にする。 |
5. | ENT(耳鼻咽喉)症状がない(ある場合は予後が良い)。 |
2009 FFSのうち一つ以上がある場合は予後が悪く、さらに加えて、FFSに含まれないが重症肺胞出血、重症眼症、劇症多発性単神経炎などでは、ステロイドとともにシクロホスファミドを含む免疫抑制剤の併用を使用するべきである。ただし比較臨床試験による証拠はない。シクロホスファミドパルスは最初の3回は2週間毎に15mg/kgまたは0.6g/m2で、次の4回は3週間毎に15mg/kgまたは0.7g/m2で行うが、年齢(65歳以上)、腎機能、白血球数によっては減量して行う。
(末尾は証拠レベルA: high、B: moderate、C: low、D: very low、NA: not applicable)