免疫疾患の解説一覧

顕微鏡的多発血管炎 Microscopic Polyangitis (MPA)

概要

腎臓、末梢神経、皮膚、肺などの壊死性小血管炎である。壊死性糸球体腎炎が多く、しばしば末梢神経障害や肺毛細血管炎を伴う。本邦においては、ANCA関連血管炎の中で、顕微鏡的多発血管炎が多い。

病因

マウスを用いたMPO-ANCA移入実験では、腎炎を引き起こすためMPO-ANCAそのものに病因があると考えられる。シリカの職業的暴露(鉱山、石切、硝子製造、研磨など)、抗甲状腺薬のプロピルチオウラシル(チウラジール、プロパジール)、D-ペニシラミン、ヒドララジン、TNF阻害剤などによって、ANCAの産生や本症が引き起こされることがある。MPO(myeloperoxidase)は好中球に存在し次亜塩素酸などを産生して殺菌などに関わるが、MPO-ANCAがMPOのどの部位に結合するかが、血管炎の重症度とかかわるとする報告がある。

症状

炎症に伴う発熱や体重減少などの全身症状、皮膚症状(紫斑など)、関節炎などがみられる。壊死性糸球体腎炎を主とした腎障害が進行すると、腎不全徴候がみられる。末梢神経症状(下肢や上肢のしびれや運動障害。末梢から中枢へ進行していく)、肺毛細血管炎による肺症状(間質性肺炎、乾性咳嗽、肺胞出血による血痰など)、などがみられることがある。

検査所見

強い炎症を反映してCRPなど炎症マーカーが上昇する。腎病変では蛋白尿、血尿、血清Cr上昇、Ccr低下が見られ、肺病変では間質性肺炎像が見られる。ANCAの検出は本邦ではMPO-ANCAが90%、PR3-ANCAが3%とされる。腎炎は急速進行性糸球体腎炎を呈することが多く、尿蛋白、血尿、病的円柱(顆粒円柱や赤血球円柱)、腎機能低下が見られる。また、尿細管間質性腎炎(tubulointerstitial nephritis)を呈することも稀にあり、尿蛋白が軽度で、病的円柱に乏しい割に腎機能障害が急速に進行することがあり注意を要する。尿細管酵素である尿中NAGや近位尿細管で再吸収される尿中β2-microglobulinが上昇するので尿中creatinine比でのモニターが有用である。

腎障害(70-80%)、肺障害(40-50%)、末梢神経障害(20%)の頻度が報告されている。腎・肺・神経障害が短期間に進行する場合があるため、早期に治療を開始できるよう、感染症や悪性腫瘍、膠原病などの除外とともに、MPO-ANCAの測定、皮膚や腎の生検を行ない診断する。病理像は壊死性小血管炎であり、血管壁には免疫複合体の沈着を認めない。炎症性肉芽腫を形成しない。

診断

MPA診断基準:1998年厚生省
主要症候
1. 急速進行性糸球体腎炎
2. 肺胞出血もしくは間質性肺炎
3. 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
主要検査所見
1. MPO-ANCA
2. CRP
3. 蛋白尿・血尿、血清BUN、Crの上昇
4. 胸部レントゲンにて肺胞出血を疑う浸潤影や間質性肺炎像
参考事項

治療

疾患活動性や重症度に応じた治療選択を行う。疾患活動性の判定にBVAS(Birmingham Vasculitis Activity Score)が、重症度の判定にEUVAS(European Vasculitis Study)が用いられることがある。疾患活動性が高い場合や重症病変がある場合は、主に高用量ステロイド+シクロフォスファミドによる寛解導入療法の後、少量ステロイド+アザチオプリンなどによる維持療法を行うことが多い。シクロホスファミドの投与量は、年齢、腎機能、白血球数、好中球数に応じて適宜減量する。

重症のANCA関連血管炎(GPAを含む)に対するリツキシマブの寛解導入の臨床試験では、リツキシマブ(375mg/m2/week x 4weeks)はシクロホスファミドと同等の効果を示し、ステロイドを大きく減量できる可能性があることが示された。2013年6月より、本邦でも難治性の多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)に対して、リツキシマブが使用できるようになった。リツキシマブは、既存治療に抵抗性であったり再燃する例や、副作用のためシクロホスファミドが使用できない例で、治療の選択肢となる。

参考文献

2019/Oct, 2014/Nov, 2013/Mar