免疫疾患の解説一覧

IgA血管炎 IgA vasculitis (IgAV)

概要

IgA血管炎(過去にはヘノッホ・シェーンライン紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病、アレルギー紫斑病などと呼ばれていたが2012年Chapel Hill会議でIgA血管炎の病名となった)は紫斑、関節痛、腹痛、腎障害を特徴とするIgAの関与する小血管炎である。急に下肢に紫斑が広がり驚いて皮膚科を受診することが多いが、関節痛、腹痛、腎障害をきたす免疫疾患であるため免疫内科で診療することもある。病初期のIgA上昇や小血管でのIgA1型免疫複合体沈着を特徴とする。小児に多く小児血管炎では最も多い。男性、東南アジアに多く、アフリカでは稀である。無治療で自然治癒することも多いが、糸球体腎炎があると腎機能障害やネフローセ症候群を呈する事がある。成人IgA血管炎は小児と比べて腎障害をきたしやすく重症化する傾向があり積極的治療とともに経過観察が必要である。

IgAは連結ペプチドで結合した2量体として粘膜表面に分泌され消化管や気管での生体防御に関与するが、血中ではIgGに次いで多く、主に単量体で100~400mg/dL存在しIgA1(90%)とIgA2(10%)がある。IgAはC1qと結合せず古典的経路の補体活性化はしないが、第二経路やレクチン経路での補体活性化に関与する。細菌(溶血性連鎖球菌など)やウイルス感染、薬剤性(抗生物質など)、悪性腫瘍、食物などの環境因子が誘因となり、IgA1型免疫複合体が生じると考えられている。単量体IgA1のヒンジ領域には糖付加があるが、ガラクトース欠損IgA1に対する自己抗体や血管内皮細胞成分に対するIgA抗体と血管炎との関連も示唆されている。

診断

小児の血管炎の90%はIgA血管炎であり紫斑、関節痛、腹痛、腎障害などの臨床症状で診断できるが、成人ではANCA関連血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹性血管炎などとの鑑別が必要となるためIgA沈着の証明が大切である。

2010年EULAR / PRINTO / PRES分類基準(小児の分類基準として提唱されたが、成人で感度100%、特異度87%)

必須 紫斑または点状出血
いずれか ① 腹痛
② 関節炎/関節痛
③ 腎障害
④IgA沈着を伴う白血球破砕血管炎/IgA沈着を伴う増殖性糸球体腎炎

1990年ACR分類基準 感度87%、特異度88%。(本邦の難病指定ではこの基準を使用)

いずれか
2つ以上
発症時年齢が20歳以下
触知可能な紫斑
急性腹痛
小動脈または細静脈壁に顆粒球を示す生検所見

症状

紫斑は全例でみられる。軽度の隆起を伴う紫斑が主に下肢、あるいは上肢遠位に現れる。全身に及ぶこともある。成人の3分の1では壊死性または出血性である。3~10日程度で安静とともに自然消失するが再発しやすい。

関節痛は80%以上でみられ7~10日程度続く。膝関節痛や足関節痛が多く、筋肉痛も報告されているがCK上昇はない。

消化管症状は50%以上でみられ4~8日程度続く。疝痛を伴う事がある。腹痛(100%)、吐気/嘔吐(14.4%)、下痢/直腸出血(12.9%)、便潜血陽性(10.3%)の報告がある。虚血と浮腫による症状と考えられ、重積、梗塞、穿孔を生じる事もある。下行十二指腸と回腸終末部に多く、内視鏡ではびまん性の粘膜発赤、点状出血、びらんや潰瘍など、腹部CTでは腸間膜血管の拡張を伴う腸壁肥厚がみられる。

腎障害は40-50%でみられる。初期は顕微鏡的血尿が多く、蛋白尿が見られる事もある。肉眼的血尿は稀である。高血圧が3分の1で認められる。成人の糸球体腎炎の中ではIgA血管炎は0.6~2%である。

ISKDC(The International Study of Kidney Disease in Children)1977による組織分類

Grade I 微小変化
Grade II メサンギウム増殖のみ
Grade III a:巣状メサンギウム増殖、b:びまん性メサンギウム増殖、半月体形成<50%
Grade IV a:巣状メサンギウム増殖、b:びまん性メサンギウム増殖、半月体形成50~75%
Grade V a:巣状メサンギウム増殖、b:びまん性メサンギウム増殖、半月体形成75%以上
Grade VI 膜増殖性糸球体腎炎

その他
心筋炎、精巣炎、肺胞出血、上強膜炎などは非常にまれである。意識レベルの変化、痙攣、限局性神経障害、失明、言語障害など、中枢神経または末梢神経障害の報告もある。

治療

通常、良性であることが多く治療は対症的となることが多いが、重症の紫斑、強い腹痛や下血などの消化管症状または糸球体腎炎ではステロイドや免疫抑制薬を使用する。

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版(日皮会誌:127(3),299-415.2017)から(括弧内は推奨度)。

紫斑は軽症であれば経過観察し、比較的重症の紫斑(血疱/潰瘍を伴う、遷延する、分布が広範囲)に対しては,DDS(diaminodiphenyl sulfoneレクチゾール® 成人で1-2mg/kg、溶血性貧血の副作用が必発)やコルヒチンを考慮してよい(C1)。重症紫斑の出現を早期に抑制するためステロイド短期間投与(小児でPSL 1mg/kgを2週間投与その後2週間で漸減)は推奨されるが、永続的な抑制や腎症予防目的とした投与は勧められない(B)。

消化器症状の多くは軽度の吐気や腹痛であり安静と補液などの対症療法で改善する。しかし、強い腹痛や下血などの消化管症状にはステロイド経口(1mg/kg)ないし静脈投与を行い1~2週間で改善することが報告されている(A)。小児では比較試験での証拠があり、成人でも準じた治療を考慮する。FXIII 補充療法は血漿 FXIII 活性が低下しているIgA血管炎の消化管症状や関節症状に考慮してよい(C1)。

腎障害の危険因子として、発症年齢4歳以上、初発時のネフローゼ症候や腎機能不全、高血圧、腎病理組織所見(糸球体の半月体形成、マクロファージ浸潤、尿細管間質の変化)、腎機能の急激な悪化、強い消化管症状、血漿FXIII活性低下、遷延する紫斑、FXIII 補充療法あるいはステロイド治療の既往歴がある(B)。糸球体腎炎に対しては経口ステロイド(1mg/kg)、重症ではステロイドパルス併用で経口ステロイドを投与する(A)。重症の IgA血管炎腎症(急速進行性腎炎、高度半月体形成性腎炎)に対し、経口ステロイドに加えて、シクロフォスファミド点滴、アザチオプリン、あるいはMMFの併用、さらにジピリダモールやヘパリン/ワーファリンなどを加えた多剤併用を行う(B)。急激な腎機能低下を伴う重症では血漿交換療法あるいはIVIG併用を考慮してよい。ステロイド抵抗例に扁桃摘出の有効報告もあり選択肢として考慮してよい(C1)。腎障害に対してのステロイドの早期投与は予防効果がなく勧められていない(C2)。

参考文献

2020/Mar