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ニューモシスチス肺炎 Pneumocystis pneumonia (PCP)

概要

ニューモシスチス肺炎はPneumocystis jirovecii(ニューモシスチス イロベチイ)による日和見感染症の一つである。Pneumocystis jiroveciiの形態は原虫に似るが細胞壁にβ-D-glucanを有する真菌と証明されている。ステロイドや免疫抑制剤などの薬剤やAIDSなどの免疫抑制状態で間質性肺炎を発症する。以前はカリニ肺炎と呼ばれたことがあったがこの名称は間違いである。

PCPを考える上で、菌の増殖と宿主の免疫反応のふたつの要素を考えなければならない。P.jirovecii自身は組織障害性が低く、組織障害は主にこの菌に対する「宿主の免疫反応」による。AIDS-PCP の場合は宿主の免疫反応が弱くP.jiroveciiが大量に増殖し発病に至る(菌側の因子の寄与が大)。一方RA-PCPは、AIDS-PCPに比べて菌量が1/10程度でも、炎症は強く肺障害は深刻であり、症状は「宿主の免疫反応の強弱」に規定される(宿主側の因子の寄与が大)。

診断

発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が自覚症状の3主徴である。β-D-glucan値とともに喀痰やBAL(気管支肺胞洗浄)検体で、P.jiroveciiの有無(検鏡やPCR法)を検討する。和光純薬(阪大採用)のβ-D-glucan検査では、陽性カットオフ値は11pg/mlだが、PCP診断のカットオフ値として31.1pg/mlとすると、感度92.3%、特異度86.1%である。P.jiroveciiの染色法には鍍銀染色、Diff-Quik法、直接・間接蛍光抗体法があり、これらはAIDS-PCP検体で感度90%、特異度90-100%である。PCR検査でも検出可能だが、高齢RA患者ではP.jiroveciiを保菌していることが多く、偽陽性の可能性があることを心に留めておく。誘発喀痰、蓄痰の検体、BAL検体などで菌体の検出を試みる。ただしRA-PCPはAIDS-PCPと違ってP.jiroveciiの菌量が少なく、喀痰で検出できない可能性もある。

関節リウマチに対してMTX使用中に生じるMTX肺炎とRA-PCPを臨床症状やCT画像だけで鑑別することは難しく、現実にはMTXを中止するとともに、P.jiroveciiを確認できなくても並行してPCPの治療を行う事もある。

治療

第一選択としてST合剤(1g中、sulfamethoxazole SMX 400mg、trimethoprim TMP 80mg)TMP量として10-20mg/kg(3-4分割する。体重60kgだと計7.5g-15g)を内服する。RAなどの非HIVでは2〜3週間投与する。有効性は高いが皮疹、肝障害、電解質異常などで休薬が必要になることがある。

第2選択としてペンタミジン4mg/kgを一日一回点滴投与するが、低血圧、低血糖、腎障害などの副作用に注意する。

軽症-中等症でST合剤内服が困難な場合はアトバコン5ml(750mg)食後一日二回内服するが、ST合剤より効果はやや劣る。

P.jiroveciiに対する宿主免疫反応で動脈血液ガスが70mmHg以下であったり、A-aDO2が35mmHg以上であればステロイドを併用する。通常は経口プレドニン40mgを一日二回で5日間、次に、一日一回で5日間、20mgを一日一回で11日間のコースなどがある。呼吸不全が重症であればステロイドパルスも考慮する。

PCPのリスクと予防

AIDS-PCPでは末梢血CD4リンパ球数が200/ul未満であったり、口腔内カンジダ症の既往などがある場合は予防を開始する。RA患者における、TNF阻害薬使用時のPCP危険因子の報告として、年齢(65歳以上)、呼吸器疾患合併、ステロイド6mg以上、の3つが指摘されている。3つあると半年以内に8割の患者でPCP発症が認められた。なおST合剤の投与においては、MTXとの併用での骨髄抑制に注意を要する。予防はST合剤1錠/日を毎日、あるいは2錠/日を週3回。あるいは、ペンタミジン吸入(4週毎に300〜600mgを注射用水に溶解し一日一回30分かけて超音波ネブライザーで吸入)、あるいは、アトバコン10ml一日一回食後内服。


2018/July