免疫疾患の解説一覧

非結核性抗酸菌症 Nontuberculous mycobacteriosis: NTM

本邦の生物製剤を投与された関節リウマチ患者の市販後調査では0.1%のNTM症の発症が報告されている。米国の疫学調査では関節リウマチ患者のNTM症発症率は一般人口比で2倍、TNF阻害剤投与関節リウマチでは10倍との報告がある。日本のNTM症は、89%はMAC症(Mycobacterium avium complex、M. aviumおよびM. intracellulare)、4%がM. kansasii症、3%がM. abscessus complex (M. abscessusM. massilienseM. bolletii)とされている。日本での生物製剤市販後調査では48例のNTM症発症が確認され、6ヶ月の観察期間では死亡例はないが、観察期間を延長した報告ではない。

関節リウマチ患者ではNTM菌の定着が多く、NTM症の診断は日本結核病学会・日本呼吸器学会診断基準に従い厳格に行なう。NTM症の画像診断は関節リウマチの中枢・末梢気道病変(気管支拡張症、細気管支炎)との類似点から鑑別が難しく、診断には2回以上の異なった喀痰からの培養陽性、あるいは1回以上の気管支洗浄液での培養陽性を満たすことが必要である。NTM症の重要なリスク因子は既存の気道病変、間質性肺炎の存在であり、生物製剤投与前にHRCTを実施し気道病変の有無をチェックし、疑わしい場合は複数回の喀痰検査、場合によっては気管支鏡などを行なう。MAC症の血清診断法(抗GPL-core IgA抗体:キャピリアMAC)は感染と定着を鑑別診断できる。

わが国でヒト感染症が報告されている非結核性抗酸菌。赤文字は迅速発育菌。

しばしば認められる菌種
M. aviumM. intracellulareM. kansasiiM. abscessus
M. aviumM. intracellulareは性状が類似しており、一括してM. avium complex(MAC)とよぶ。)
比較的まれに認められる菌種
M. fortuitumM. chelonaeM. szulgaiM. xenopiM. nonchromogenicumM. terraeM. scrofulaceumM. gordonaeM. simiaeM. thermoresistibleM. heckeshornenseM. intermediumM. lentiflavumM. ulcerans subsp. shinshuenseM. malmoenseM. celatumM. branderiM. kyorinenseM. genavenseM. haemophilumM. triplexM. goodiiM. marinumM. mageritenseM. mucogenicumM. peregrinumM. massiliense

(日本結核・非結核性抗酸菌症学会 「結核症の基礎知識」 改訂第4版より)

診断

肺非結核性抗酸菌症の診断基準(日本結核病学会・日本呼吸器学会基準)

A 臨床的基準(以下の 2 項目を満たす)
1 胸部画像所見(HRCTを含む)で、結節性陰影、小結節性陰影や分枝状陰影の散布、均等性陰影、空洞性陰影、気管支または細気管支拡張所見のいずれか(複数可)を示す。
2 他の疾患を除外できる。
B 細菌学的基準(菌種の区別なく、以下いずれか1項目を満たす)
1 2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。
2 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。
3 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は、抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織、または気管支洗浄液、または喀痰での1回以上の培養陽性。
4 稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は、検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし、専門家の見解を必要とする。
以上のA、Bを満たす。

治療

治療は一般人のNTM症と同様で薬剤や期間は呼吸器学会・結核病学会のガイドラインに従い、非結核性抗酸菌症診療に慣れた医師により行う。M. kansasii症、M. szulgai症、M. fortuitum症は既存薬で制御可能だが、M. abscessus症は予後不良と言われる。MAC症はその中間で臨床経過は様々である。

肺MAC症の治療(日本結核・非結核性抗酸菌症学会 「結核症の基礎知識」 改訂第4版より)

RFP 10mg/kg(300mg~600mg)/日、分1
EB 15mg/kg(500mg~750mg)/日、分1(結核症より投与期間が長期に及ぶので15mg/kgでも視力障害の発生に注意を要する。)
CAM 15~20mg/kg(600mg~800mg)/日、分1 または分2(800mgは分2とする)
SMまたはKM 各々15mg/kg以下(1000mgまで)を週2回または週3回の筋注

非結核性抗酸菌症治療中の生物製剤等に関して

生物製剤はNTM症と確診されている場合には原則禁忌である。

MACの定着のみの場合は生物製剤の影響は不明で、禁忌とする積極的根拠もない。MAC症で、X線病型が結節・気管支拡張型で、肺の既存病変が軽度、全身状態が良好、抗NTM治療が長期継続でき、治療反応性が良好で、生物製剤の必要性が高い高活動性の関節リウマチである場合に限り、リスクベネフィットを十分検討した上で生物製剤の投与を考慮しても良い。呼吸器専門医との共観が望ましい。線維空洞型のNTM症は難治で予後不良であり生物製剤は禁忌である。

良好なコンプライアンスを前提に適切な抗NTM療法を一定期間併用し感染収束した後、関節リウマチが高活動性であれば生物製剤の再開も選択肢となり得る。

MTXはNTM症の予後を不良にするという証拠はなく、慎重な投与は可能と考えられる。

参考文献

2020/June