免疫疾患の解説一覧

結核症 Tuberculosis

シャリテ ベルリン大学医学部のRobert Koch Platz(コッホ広場)にあるRobert Koch像

結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は1882年3月24日にRobert Koch(1995年第5回ノーベル生理学医学賞)よって発見され、同日は世界結核デーとなっている。結核は感染症法で二類感染症とされ、結核が確認された場合はただちに保健所へ届け出る。

飛沫感染や空気感染で気道系を介して感染しても免疫能が正常であれば、5%が発症し(一次結核)、残りの中から一生の間に5%が発症する(二次結核)程度と言われている。結核菌は取り込まれたマクロファージ内で増殖し、滲出性病巣を作り中心部が壊死(乾酪壊死)する。刺激を受けた病巣周囲のマクロファージは類上皮細胞やLanghans巨細胞に分化して肉芽組織を形成する。結核結節は結核菌を閉じ込め治癒病巣となるが内部には結核菌が残存しうる(潜在結核病巣)。こうした結核結節は死菌によっても形成される免疫反応である。

関節リウマチ患者では2000年初頭までは活動性結核発症が一般人口の3倍と多かったが、2015-2016年の国立病院機構データベースでは一般人とほぼ同じ罹患率となっている。現在では感染しても若年では不顕性であることが多く、加齢や糖尿病、悪性腫瘍、あるいは免疫抑制薬投与などにより免疫能が低下して再燃(内因性再燃による二次結核)する例が圧倒的に多い。関節リウマチ患者では生物学的製剤投与により活動性結核発症リスクが高くなるが、これはマクロファージやリンパ球に取り込まれ線維化とともに肉芽に閉じ込められた結核菌が、生物学的製剤投与によって肉芽が破綻し再燃発症すると考えられている。気道と交通すると排菌し、血流に入ると粟粒結核を発症する。生物製剤投与中では肺結核とともに肺外結核も多い。

現在では、MTXや免疫抑制剤、生物製剤投与前に、結核既往歴、家族歴、陳旧性結核の画像所見、ツベルクリン反応強陽性、IFNγ遊離試験検査陽性(T-SPOT.TBやQFN-plus。BCG接種はツベルクリン反応を陽性化させるが、IFNγ遊離試験検査は影響を受けない)などの因子を有する潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection: LTBI)に対して治療が行われ、活動性結核発症を抑え込むことができるようになった。

診断

結核症では肺結核が約9割を占めるが、抗TNFα抗体などの生物製剤投与中では過半数が肺外結核(粟粒結核、結核性胸膜炎、腹膜炎、リンパ節結核など)である。発熱、胸痛、腹痛、リンパ節腫脹などがあれば、問診、胸部XP、胸部CT、IFNγ遊離試験で結核を疑う所見を検索する。胸部レントゲンでは上葉を中心とする空洞影と周辺の散布影が典型的で、胸水貯留を認めることもある。胸部CTでは小葉中心性の散布性粒状影や時に分枝状影を呈し、縦隔リンパ節腫大を認めることもある。起床時喀痰や、痰が少ない場合は3%食塩水を10分ネブライザー吸入して痰を採取、あるいは胃液、便、胸水、気管支肺胞洗浄液などから結核菌分離を積極的に試みることが大切である。結核菌の検出と薬剤感受性を得るため、治療開始時喀痰抗酸菌検査は日にちを変えて3回行い、その後少なくとも2週間隔で喀痰検査を行う。

予防

MTXや免疫抑制剤、生物製剤開始前に結核既往歴、家族歴、陳旧性結核の画像所見、ツベルクリン反応強陽性、IFNγ遊離試験陽性などの場合は潜在性結核感染(疑いを含む)とされ薬剤投与を行う。INH(5mg/kg/day、最大300mg/day)単独投与を3週間前より開始しMTXや生物製剤開始後6ヶ月間投与する。関節リウマチ以外に糖尿病や腎疾患を併存する場合や、種々の活動性結核発症リスク因子を有する場合は9ヶ月間投与する。INH は肝障害を来すことがあり投与後2週間目、その後も定期的に肝酵素を確認する。高齢者やアルコール嗜好、肝疾患、腎不全などではINHによる末梢神経障害の予防にVitB6(ピリドキシン10-30mg)を投与することもある。ワーファリン増強、シクロスポリン減弱などの薬剤相互作用にも注意する。

INH投与が不可能な場合はRFP(10mg/kg/day、最大600mg/day)を4ヶ月間投与する。RFP投与では薬剤代謝酵素が誘導されるステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、トファシチニブ、バリシチニブなどの関節リウマチ薬は増量が必要である。

治療

喀痰塗抹検査が陽性であれば結核病室での入院治療が必要だが、陰性では感染性が低く病態が許せば原則として結核診療に慣れた医師により外来治療を行う。

活動性結核が判明したら結核の標準治療を行う。結核の治療は厚生労働省が定めた結核医療の基準によって提唱された標準治療法に従う。耐性菌の誘導を防ぐため原則的に多剤併用療法を行うが、長期の投薬になるため、発疹や発熱あるいは各薬剤特徴的な副作用モニターが必要である。INH (肝障害、末梢神経障害、血液異常) 、RFP(肝障害、血液異常)、 PZA(肝障害、高尿酸血症)、SM(聴力低下、めまい、腎障害)、 EB(視神経障害)。
(A)法:INH + RFP + PZA + SM(またはEB)の4剤併用で2ヶ月間治療後、INH + RFP で4ヶ月間治療する。
(B)法:INH + RFP + SM(またはEB)の3剤併用で2ヶ月間治療後、INH + RFPで7ヶ月間治療する。
原則として(A)法を用い、高齢者など肝障害リスクでPZA投与不可の場合は(B)法を用いる。

結核治療中の生物製剤等に関して

ステロイド投与中であればステロイドは十分量を投与し、MTXは中止する。基本的には生物製剤投与中に結核を発症した場合は生物製剤を中止し結核治療を行う。しかし、生物製剤については中止によるparadoxical reactionである免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome: IRIS)により肺陰影増悪、空洞化、胸水出現、リンパ節腫大などの病態悪化をきたすこともあり、ステロイドと同様に投与継続を考慮するという意見が現れてきた。粟粒結核などの場合は生物製剤を中止してparadoxical reactionにより悪化した場合や、結核菌の薬剤感受性が判明して適切な治療がなされている場合は生物製剤の継続も考慮するという意見がある。

結核治療終了後は治療歴が十分と判断されれば、生物製剤の再投与は可能であるが、綿密な経過観察が必要である。

参考文献

2020/June