免疫疾患の解説一覧

肺膿瘍、膿胸、慢性下気道感染症の急性増悪 Lung abscess, empyema, acute exacerbation of chronic lower respiratory tract infection

肺膿瘍 Lung abscess

診断

発熱・喀痰があり、空洞性病変を認めた場合に肺膿瘍を疑う。結核、クリプトコッカス症、肺癌などとの鑑別のため、一般細菌、放線菌、ノカルジアを目的とした喀痰検査に加え、抗酸菌、真菌培養、IFNγ遊離試験、クリプトコッカス抗原測定、喀痰細胞診、腫瘍マーカー測定など追加する。鑑別困難例では気管支鏡検査も考慮する。多発空洞の場合は敗血症性肺塞栓症やノカルジア症などの鑑別を行う。肺膿瘍の上位3菌種は連鎖球菌属、嫌気性菌、Gamella属でありいずれも口腔内常在菌である。肺膿瘍のリスク因子として、歯周病、糖尿病、アルコール多飲が知られている。緑膿菌やクレブシエラのリスク(既存肺病変、糖尿病、アルコール多飲)があればTAZ/PIP やMEPM、DRPM、なければSBT/ABPCの投与を行う。

肺膿瘍対応のフローチャート
(1) 抗菌薬投与前に適切な培養検体(喀痰、気管支鏡検体、胸水、血液など)の採取
(2) 緑膿菌感染症のリスク因子(既存肺病変、糖尿病、アルコール多飲)
リスク因子なしでは、SBT/ABPC。改善に乏しい場合はリスク因子ありと同様。
リスク因子ありでは、TAZ/PIPCまたは抗緑膿菌カルバペネム(MEPM、DRPM、BIPM)、MRSA分離歴があれば抗MRSA薬を考慮。
(3) 改善に乏しい場合は気管支鏡や針生検などで原因菌を再確認(抗酸菌、放線菌、真菌も)、または外科的切除を考慮。

肺膿瘍で使用される抗生剤

βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 注射薬
SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン(ユナシン-S)  TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン)
カルバペネム系
MEPM:メロペネム(メロペン) DRPM:ドリペネム(フィニバックス)
BIPM:ビアペネム(オメガシン)  
抗MRSA薬
LZD:リネゾリド(ザイボックス) VCM:バンコマイシン(バンコマイシン)
TEIC:テイコプラニン(タゴシッド) ABK:アルベカシン(ハベカシン)

膿胸 Empyema

診断

発熱や胸痛などで受診し胸水を認めた場合に膿胸を疑う。関節リウマチ患者に胸水を認めた場合、関節リウマチに伴う胸膜炎、結核性胸膜炎、癌性胸膜炎の鑑別のため胸水検査を行う。膿性胸水か、細菌が培養されれば膿胸と診断する。膿胸のリスク因子としてアルコール多飲、糖尿病、悪性腫瘍、誤嚥傾向などが知られている。市中感染の膿胸では連鎖球菌属、嫌気性菌、ブドウ球菌の頻度が高く、院内感染ではブドウ球菌、グラム陰性菌の頻度が増す。

膿胸腔が消失すれば生物製剤の再投与は可能であるが、胸膜肥厚を伴った残存腔がある場合は慎重に投与する。

肺膿瘍対応のフローチャート
(1) 抗菌薬投与前に適切な培養検体(喀痰、気管支鏡検体、胸水、血液など)の採取
(2) 胸腔ドレナージを考慮。
緑膿菌感染疑いなしでは、SBT/ABPC。改善に乏しい場合は疑いありと同様。
緑膿菌感染疑いありでは、TAZ/PIPCまたは抗緑膿菌カルバペネム(MEPM、DRPM、BIPM)、MRSA分離歴があれば抗MRSA薬を考慮。
(3) 改善に乏しい場合は胸水培養再提出し原因菌を再確認、または、胸腔鏡下治療を考慮。

慢性下気道感染症の急性増悪 Acute exacerbation of chronic lower respiratory tract infection

診断

膿性喀痰、発熱患者の画像所見で気管支拡張症はあるが肺炎がない場合に慢性下気道感染症の急性増悪と診断する。感冒を契機とすることが多い。インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリス、緑膿菌が原因菌となるが、急性増悪を繰り返すと菌交代現象が生じ最終的には緑膿菌が原因となることが多い。キノロン薬を用いる場合は結核を否定する必要がある。

慢性下気道感染症の急性増悪例で治療後も咳嗽、喀痰が残存し、制御困難な慢性下気道感染症と判定される場合は生物製剤の投与には慎重であるべきである。

慢性下気道感染症の急性増悪のフローチャート
(1) 抗菌薬投与前に喀痰の採取、グラム染色、培養検査。
(2) 過去の細菌培養結果、薬剤感受性を参考
緑膿菌を考慮しない治療。内服薬(LVFX、GRNX、MFLX)、注射薬(SBT/ABPC、CTRX)
緑膿菌を考慮した治療。内服薬(CPFX、STFX)、注射薬(TAZ/PIPC、CAZ、CFPM、カルバペネム系MEPM、DRPM)

慢性下気道感染症の急性増悪で使用される抗生剤

緑膿菌を考慮しない治療
ニューキノロン内服薬
LVFX:レボフロキサシン(クラビット) GRNX:ガレノキサシン(ジェニナック)
MFLX:モキシフロキサシン(アベロックス)  
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 注射薬
SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン(ユナシン-S)  
セフェム系
CTRX:セフトリアキソン(ロセフィン)  
緑膿菌を考慮した治療
ニューキノロン内服薬
CPFX:シプロフロキサシン(シプロキサン) STFX:シタフロキサシン(グレースビット)
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 注射薬
TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン)  
第3.5、4世代セフェム系
CAZ:セフタジジム(モダシン) CFPM:セフェピム(マキシピーム)
カルバペネム系
MEPM:メロペネム(メロペン) DRPM:ドリペネム(フィニバックス)

参考文献

2020/June