免疫疾患の解説一覧

細菌感染症 Bacterial Infection

関節リウマチ患者の生物製剤投与時における細菌感染症は5.4%~7.9%で、感染部位は呼吸器、皮膚軟部組織、尿路、骨関節の順に多い。呼吸器感染症では、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性下気道感染症の急性増悪に注意する。関節リウマチ患者では肺炎の頻度と死亡率が高く、TNF阻害薬投与により重症感染症が増えることも明らかとなっている。生物製剤投与時の肺炎のリスク因子として、高齢、既存肺疾患、ステロイド投与、男性、病期分類Steinbrocker III以上の関節リウマチなどが指摘されている。既存肺疾患は関節リウマチの関節外病変と理解され、生物製剤投与前に気管支拡張症、細気管支炎、間質性肺炎など肺合併症の検索を行っておく。また、生物学的製剤で疾患活動性が低下したなら感染症のリスク因子であるステロイドを早めに減量中止する。

肺炎の初期対応として、まず予後不良な敗血症か否かの評価を行う。特に敗血症性ショックでは適切な抗菌薬投与が1時間遅れると生存率が17.6%低下することが報告されている。敗血症が否定された場合、肺炎の重症度判定(A-DROPスコア、I-ROADスコア)を行い、軽症例では外来治療も可能だが、中等症以上は入院治療を原則とし、重症例以上では集中治療室管理も考慮する。敗血症症例や重症症例では一般細菌と非定型病原体の両方をカバーする抗菌薬を投与する。インフルエンザ流行期では迅速診断キットで検査し、陽性例では抗インフルエンザ薬を併用し、入院を要するインフルエンザ肺炎は個室管理を原則とする。

肺炎では細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌が多いが、薬剤耐性緑膿菌も考慮)、非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど)、抗酸菌症(結核、NTM症)、真菌症(ニューモシスチス肺炎、アルペルギルス症、クリプトコッカス症など)、ウイルス感染症(インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルスなど)などの可能性も考慮し検査を行い、下記の表の医療・介護関連/院内肺炎のエンピリック治療を行う。エンピリック治療は3日目に効果判定を行い、効果がない場合は抗菌薬の変更も考慮する。病原体検査が陰性の場合は呼吸器内科医に相談し、薬剤性肺炎、関節リウマチによる気道病変や間質性肺炎の増悪、他の感染症などを考慮する。薬剤性間質性肺炎はMTX(0.4%)、生物製剤(0.3~0.9%)、タクロリムス、アザチオプリンなどでも報告されている。

診断

発熱、咳嗽、呼吸困難があれば、インフルエンザ流行期であればインフルエンザ迅速検査を行なう。インフルエンザ肺炎は個室管理が原則である。身体所見(バイタルサイン、聴診、SaO2など、肺炎の重症度を評価する)、臨床検査、胸部レントゲン、胸部CTを考慮し生物製剤は中止する。実質性陰影は細菌性や結核を疑い喀痰培養、血液培養、抗酸菌染色・培養を行なう。間質性陰影は、血中β-D-グルカン測定、可能なら誘発喀痰あるいはBALでPneumocystis jirovecci菌体染色・PCR、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラの検査を行ないニューモシスチス肺炎や非定型肺炎を鑑別する。マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、レジオネラ肺炎はペア血清で抗体価の有意な上昇、病原体検出や抗原検出、などで診断する。全て陰性であれば薬剤性肺炎や関節リウマチに伴う関節外病変としての肺病変を疑う。

重症度の評価

A-DROPスコア(医療・介護関連肺炎の重症度評価)
療養病院/介護施設に入所、90日以内に病院を退院した、PS3の介護を要する高齢者・身体障害者、通院にて継続的に透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬や生物製剤などを受けている。いずれかの患者で新たに出現した肺炎の重症度評価。
A (Age) 男性70歳以上、女性75歳以上。
D (Dehydration) BUN 21 mg/dl以上、または脱水あり。
R (Respiration) SpO2 90 %以下(PaO2 60 Torr以下)。
O (Orientation) 意識障害。
P (Pressure) 収縮期血圧90mmHg以下。
上記5項目中、0項目は軽症(外来治療)、2項目以下は中等症(外来または入院治療)、3項目は重症(入院治療)、4項目以上あるいはショックがあれば1項目のみでも超重症(ICU管理)。
I-ROADスコア(院内肺炎の重症度評価)
入院48時間以上経過した患者に新たに出現した肺炎の重症度評価。
I (Immunodeficiency) 悪性腫瘍または免疫不全状態。
R (Respiration) SpO2 >90 を維持するためにFiO2 >35%を要する。
O (Orientation) 意識レベルの低下。
A (Age) 男性70歳以上、女性75歳以上。
D (Dehydration) 乏尿または脱水。
I-ROADスコア2項目以下で ① CRP≧20mg/dlまたは ② 胸部X線画像陰影の広がりが一側肺の2/3以上、に該当しなければ軽症群(A群)、どちらかに該当すれば中等症群(B群)、I-ROADスコア3項目以上は重症群(C群)
qSOFAスコア(感染症による敗血症が疑われるかを評価する)
①呼吸数22回/分以上 ②意識変容 ③ 収縮期血圧 100 mmHg以下
qSOFAスコア3項目のうち、2項目以上該当で下記SOFAスコアを評価する。
SOFAスコア 0点 1点 2点 3点 4点
呼吸器 PaO2/FiO2 (mmHg) > 400 ≦ 400 ≦ 300 ≦ 200 呼吸器補助下 ≦ 100 呼吸器補助下
凝固系 血小板(103/mm3 > 150 ≦ 150 ≦ 100 ≦ 50 ≦ 20
肝臓 ビリルビン(mg/dl) < 1.2 1.2~1.9 2.0~5.9 6.0~11.9 > 12.0
心血管系 低血圧 なし 平均動脈圧< 70mmHg ドパミン≦ 5γ, or
ドブタミン投与
(量を問わない)
ドパミン> 5 γ, or
エピネフリン≦ 0.1 γ, or
ノルエピネフリン≦ 0.1 γ
ドパミン> 15 γ, or
エピネフリン> 0.1 γ, or
ノルエピネフリン> 0.1 γ
中枢神経 GCS 15 13~14 10~12 6~9 < 6
腎機能 Cr(mg/dl) < 1.2 1.2~1.9 2.0~3.4 3.5~4.9, or
尿量< 500ml/日
> 5.0, or
尿量< 200ml/日
SOFAスコアが基礎値から2点以上増加した場合は敗血症と診断。
酸素投与量FiO2対比表
鼻カニューレO2流量(l/min):FiO2 1:0.24、2:0:28、3:0.32、4:0.36、5:0.40、6:0.44
フェイスマスクO2流量(l/min):FiO2 5:0.4、6:0.5、7:0.6
リザーバー付マスクO2流量(l/min):FiO2 6:0.6、7:0.7、8:0.8、9:0.9、10:1.0
GCS (The Glasgow Coma Scale)
開眼(E) E4:自発的に開眼 E3:呼びかけて開眼 E2:痛み刺激で開眼 E1:開眼しない
言語(V) V5:見当識あり V4:会話成立も混乱 V3:発語あり、会話成立せず V2:意味ない発声 V1:発語なし
運動(M) M6:命令に応ず M5:痛みで払いのける M4:痛みで引っ込める M3:痛みで屈曲 M2:痛みで伸展 M1:運動なし
医療・介護関連肺炎 / 院内肺炎の耐性菌リスク因子
1 過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴
2 過去90日以内に2日以上の入院歴
3 免疫抑制状態
4 活動性の低下:PS ≧ 3、バーゼル指数< 50
2項目以上で耐性菌(MRSAやextended-spectrum β-lactamase:ESBL産生腸内細菌)の高リスク群。

医療・介護関連 / 院内肺炎のエンピリック治療

治療開始時に原因菌が特定されることは少なく、実臨床では検査を進めながら、敗血症の有無の判断(qSOFA、SOFAスコア)、重症度(A-DROP、I-ROAD)、耐性菌リスク有無、を評価して3つに分類しエンピリック治療を行うことになる。

エキスパートオピニオンでは肺炎治癒後に生物製剤の再投与は可能であるとされるが、既存肺疾患があり再投与で肺炎を繰り返した場合は投与を慎重にする。

敗血症状態なく、A-DROP中等症以下、I-ROAD軽症。かつ耐性菌リスクなし
狭域抗菌薬治療(escalation治療)
内服薬(外来治療が可能な場合)・ βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系(SBTPC、AMPC/CVAいずれも高用量)+マクロライド系(CAM、AZM) ・レスピラトリーキノロン(GRNX、MFLX、LVFX、STFXは抗結核作用あり結核の有無を慎重に判断後使用、TFLX)
注射薬 ・SBT/ABPC、・CTRX、CTX(嫌気性菌感染を疑う際は使用避けるかCLDMかMNZを併用) 非定型肺炎が疑われる場合 ・LVFX
敗血症、またはA-DROP重症以上、I-ROAD中等症以上。または耐性菌リスクあり。
広域抗菌薬単剤治療(de-escalation単剤治療)
注射薬(単剤投与) ・TAZ/PIPC、・カルバペネム系(MEPM、DRPM、BIPM、IPM/CS)、・第四世代セフェム系(CZOP、CFPM、CPR)、・キノロン系(LVFX、CPFX、PZFX)
敗血症、またはA-DROP重症以上、I-ROAD中等症以上。かつ耐性菌リスクあり。
広域抗菌薬多剤治療(de-escalation多剤治療)
注射薬(2剤併用投与、ただしβラクタム系は避ける) ・TAZ/PIPC、・カルバペネム系(MEPM、DRPM、BIPM、IPM/CS)、・第四世代セフェム系(CZOP、CFPM、CPR)、・キノロン系(LVFX、CPFX、PZFX)、・アミノグリコシド系(AMK、TOB、GM 腎機能低下や高齢者には推奨されない)
MRSA感染を疑う場合 ・抗MRSA薬(LZD、VCM、TEIC、ABK)

A-DROP中等症以下、I-ROAD軽症で使用される抗生剤

βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 内服薬
SBTPC:スルタミシリン(ユナシン) AMPC/CVA:アモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン)
マクロライド系
CAM:クラリスロマイシン(クラリス) AZM:アジスロマイシン(ジスロマック)
レスピラトリーキノロン
GRNX:ガレノキサシン(ジェニナック) MFLX:モキシフロキサシン(アベロックス)
LVFX:レボフロキサシン(クラビット) STFX:シタフロキサシン(グレースビット)
TFLX:トスフロキサシン(オゼックス)  
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 注射薬
SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン(ユナシン-S)  
セフェム系
CTRX:セフトリアキソン(ロセフィン) CTX:セフォタキシム(クラフォラン)
リンコマイシン系
CLDM:クリンダマイシン(ダラシン)  
ニトロイミダゾール系
MNZ:メトロニダゾール(フラジール)  
注射キノロン系
LVFX:レボフロキサシン(クラビット)  

敗血症、またはA-DROP重症以上、I-ROAD中等症以上で使用される抗生剤

βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系 注射薬
TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン)  
カルバペネム系
MEPM:メロペネム(メロペン) DRPM:ドリペネム(フィニバックス)
BIPM:ビアペネム(オメガシン) IPM/CS:イミペネム/シラスタチン(チエナム)
第四世代セフェム系
CZOP:セファゾプラン(ファーストシン) CFPM:セフェピム(マキシピーム)
CPR:セフピロム(ケイテン)  
注射キノロン系
LVFX:レボフロキサシン(クラビット) CPFX:シプロフロキサシン(シプロキサン)
PZFX:パズフロキサシン(パシル)  
アミノグリコシド系
AMK:アミカシン(アミカシン) TOB:トブラマイシン(トブラシン)
GM:ゲンタマイシン(ゲンタシン)  
抗MRSA薬
LZD:リネゾリド(ザイボックス) VCM:バンコマイシン(バンコマイシン)
TEIC:テイコプラニン(タゴシッド) ABK:アルベカシン(ハベカシン)

参考文献

2020/June