免疫内科

関節リウマチという病気

概念

関節リウマチは、全身におこる関節炎で、多くは慢性に経過します。しかし一部は治療や時間経過のなかで関節炎が大幅に改善し、必ずしも慢性でない場合もあります。根本的な原因は不明ですが、体質的素因に加えて何らかの外的要因によって自己の免疫状態が活性化して、全身の関節に炎症が引き起こされ、持続すると考えられます。

関節の炎症が反復、持続すると、関節を形成する骨、軟骨、腱が破壊され、関節の動きが制限されたり、変形したりします。このような変化は不可逆的であること(一度おこると元に戻らないこと)が多く、生活の支障を生じるようになってきます(機能障害)。また関節以外の骨の変化(骨粗鬆症)や全身の炎症に伴い動脈硬化が進行しやすいことも明らかとなっています。

関節リウマチらしい症状の特徴

手の指(第2関節、PIP関節)、手のひらや甲(指の付け根の関節、MCP関節)、手首、肘、肩、顎、首、股(また)、膝、足首、土踏まずの辺り、足の裏や甲、足の指など、炎症の起こりうる関節は全身に及びます。その特徴は、関節およびその付近が、痛みを伴って腫れること(疼痛と腫脹)、全身のいろんな部位におこること(多発性)、左半身にも右半身にも起こってくること(対称性)、数週から月単位以上で持続すること(持続性)が挙げられています。

しばらく関節を動かさないでいると、こわばって痛んだり、動かしにくいことがしばしば自覚されます。この現象は、特に朝おきがけに手の症状で気づくことが多く、”朝のこわばり”とよばれます。朝食の支度や身支度の際に、手が握りにくかったり、ペットボトルや瓶のフタがあけにくい、ボタンがかけ難いといったことが、数時間以上自覚されることもあります。しかし日中になると改善することがしばしば見られます。

関節リウマチの診断

診断は、”関節が炎症で腫れている”、”痛風や外傷、感染症、膠原病など、他の理由で関節が腫れているのではない”ことを確かめた上で、血液検査の炎症所見(CRP、血沈)、抗体検査(抗CCP抗体、リウマトイド因子 RF: rheumatoid factor)をチェックします。レントゲン検査は、リウマチらしい軟骨や骨の変化があれば診断が確からしくなりますが、発症早期では変化が見られないことも多く、”レントゲン検査で異常がないので大丈夫”、とはいえません。MRIや関節エコー検査では、診察やレントゲンで捕らえられない軟骨、骨、関節包をなす滑膜の変化が検知され、早期の診断に有用であることがあります。

以上の所見をまとめ、以下に示すスコア(2010年に米国、欧州などの学会で示されたもの)を算出し診断を行います。6点以上で、関節リウマチと診断しますが、4点、5点の場合でも、レントゲンやMRIなどの所見をあわせ診断が確実と思われる場合もありますし、時期をずらして再評価を要する場合もあります。

2010 Rheumatoid arthritis Classification Criteria:関節リウマチの分類基準

適応対象集団
  1. 1ヶ所以上の関節に明確な臨床的滑膜炎がみられる
  2. 滑膜炎をより妥当に説明する他の疾患がみられない(SLE, 乾癬, 痛風などの除外)
スコア(A~Dを合計)
A: 罹患関節
大関節1ヶ所 0 * 肩、肘、股、膝、足
大関節2~10ヶ所 1  
小関節1~3ヶ所 2 * PIP,MCP,2-5MTP,Wrist
小関節4~10ヶ所 3  
11ヶ所以上(1ヶ所以上の小関節) 5 * 顎・胸鎖・肩鎖関節を含めてよい
B: 血清学的検査
RF(-)、抗CCP抗体(-) 0
いずれか低値陽性 2
いずれか高値陽性 3 * 正常上限の3倍を超える
C: 急性期反応物質
CRP正常、ESR正常 0
いずれかが異常 1
D: 症状の持続
6週未満 0
6週以上 1

多くの方が、この基準により診断に至りますが、一部の方ではまだ症状が出そろわず、その時点では診断に至らない場合もあります。このような場合でも、症状や検査の特徴が関節リウマチらしければ、”リウマチではない”とはいいきれず、”リウマチが非常に疑わしい”と考えて慎重な経過観察が必要です。状況によっては治療を開始することもあります。経過を見るうちに基準をみたす新たな所見が現れて診断に至ることもあります。

早期診断の重要性

関節リウマチは、関節の炎症が、”強く”、かつ”長く”続けばその分、関節の破壊も進行します。一度進行した関節の破壊は、その後に治療したとしても、もとのよい状態の関節には戻りがたい現実(不可逆性)があります。このような変化は発症早期(1~2年のうち)から進行しています。したがって、”早く見つけて、早く沈静化させる”方が、後の経過がずっとよくなることがわかってきました。

上記の分類基準の項目に加えて、早期の診断に有用な検査を追加することがあります。上述しましたように、症状のある関節(あるいはリウマチで炎症のおこりやすい手など)のMRIやエコー検査で、関節滑膜の炎症や骨の変化の確認が行われることがあります。

治療の主役は抗リウマチ薬である

関節リウマチの治療は、病気の活動性(腫れたり痛んだりする関節数、血液検査のCRPや血沈などの炎症値)に応じて、炎症を引き起こしている免疫状態を抑制したり調節したりする薬剤を用います。このような薬剤は複数あり、まとめて”抗リウマチ薬:DMARDS”と呼ばれます。副作用のおこりうる薬剤ですので、患者さんの合併症や既存障害などを評価して投与薬剤や量を決定します。

鎮痛薬(痛み止めの内服、湿布など)は、症状を和らげる上では有効ですが、病気を引き起こしている免疫状態を改善するものではないので、病気のコントロールを行うことは困難と考えられます。

ステロイド剤は免疫を抑制しますので、リウマチの炎症を沈静化させることに寄与します。しかし、ある程度の量を長期内服すると副作用が気になりますし、長期的にみるとステロイドのみでは関節の破壊を十分に抑制できないことから、とくに炎症の強いときに限定して使用したり、少量のステロイドを抗リウマチ薬と併用していくことが行われます。

抗リウマチ薬として、世界でもっとも多く使用され、またその実績が評価されている薬剤が、メトトレキセート(MTX: 商品名リウマトレックス、メトレート、メトトレキサート)です。週に一日または二日に、まとめて1週間分の用量を服用します。毎日の内服ではありませんので注意ください。そのほかに、サラゾスルファピリジン(商品名アザルフィジン)やブシラミン(商品名リマチルなど)、タクロリムス(商品名プログラフ)などが使用されています。

これらの治療を行っても効果が不十分な場合は、生物学的製剤の使用を検討します。生物学的製剤は、静脈注射または皮下注射の薬剤で、皮下注射の製剤には自己注射が可能なものもあります。通院する病院が遠い場合や仕事などが忙しく通院しにくい場合に、ご自身で治療を行うことができます。これらの薬剤は、免疫状態を大きく低下させるため、感染症の出現に大きな注意を払う必要があります。流行性のインフルエンザや肺炎のみならず、潜在している結核やウイルス性肝炎にも留意します。過去に結核にかかったことがある、近い家族に結核にかかった方がいる、肝炎とくにB型肝炎にかかったことがある方は、その情報を診療時にお伝えください。

破壊の起こった関節に対しては、手術が行われることがあります。炎症組織を除去したり、関節を固定したり、膝や股などを人工関節に置換することが行われます。

病状がよくなっているか否かの判断

日々の”痛み”、”動きにくさ”といった症状が改善し、生活に支障がでないようにすることは大きな目標です。また血液検査でのCRP値や血沈値などの炎症所見の改善も客観的な判断となります。これらを別々に評価するのではなく総合的に評価することで、より確からしい評価を行うようになりました。治療の目標は、臨床的な寛解(症状がほとんどなくなっている状態)であり、以下のすべての項目を満たすこと(アメリカリウマチ学会 Boolean基準)、もしくは各項目の和(SDAI: simplified disease activity indexという)が3.3以下(SDAIによる基準)とされています。

また、DAS28といって、主な28関節のうち痛む関節数・腫れている関節数、CRP値(または血沈値)、患者さんの総合的評価指標、医師の総合的評価指標を少し複雑な計算式にいれて、点数を出す方法もよく行われます。この数値が低いほど、疾患の活動性が抑制されていると判断します。

観察対象関節
肩関節 2
肘関節 2
手関節 2
手指(DIP除く) 20
膝関節 2
合計 28

いずれの指標を用いるにせよ、関節炎の所見がなく(痛む関節や腫れている関節がない)、炎症がなく(CRP値や血沈が低い)、患者さん自身が状態をよいと感じている(総合的評価指数が低い)、ことが組み込まれています。

SDAIやDAS28が順調に低下している場合は現行の治療が効果的であることを示し、なかなか下がらない場合はより強力な治療が必要かも知れないことを示し、低値(病気の活動性が抑制できている)が続く場合は薬剤の減量や中止が検討できるかも知れないことを示しており、このような客観的な指標を用いて、しっかり管理することが、その時の治療効果だけではなく将来的な関節や全身の予後の改善につながると考えられます。

日常的な副作用の注意

抗リウマチ薬(生物学的製剤を含む)は、副作用のありうる薬剤です。肝機能障害、腎臓障害、肺障害、血液障害、皮膚粘膜障害など、その種類も多彩です。定期的な診察でチェックするほかに、日常的に注意して頂く上での、注意点を記します。

副作用の種類 症状や検査所見
間質性肺炎 風邪をひいたわけでもないのに咳(とくに空咳)が続く。いつもは楽な動作なのに息切れがおこる。
肺炎(感染症) 風邪にしては症状が強すぎる。高熱が続く。汚い痰が妙に多い。血痰がでる。息苦しさが強い。胸が痛む。
腎臓障害 体がむくむ(まぶた、すねにでやすい)。むくみのために体重が増加する(時に数Kg以上)。検診やたまたま行った検尿で尿タンパクが強陽性(2+や3+)である。検尿で血尿(尿潜血が強陽性:2+や3+)である。
肝機能障害 検診やたまたま行った採血で、AST(GOT), ALT(GPT), γGTPが異常高値(ときに数百以上)である。黄疸(白目が黄色い)がでる。
血液障害 検診やたまたま行った採血で、WBC(白血球数)が著しく低下する。貧血(RBC(赤血球数)やHb(ヘモグロビン値)低下)が進行する。Plt(血小板数)が低下する。貧血が進行すると、ふだんは楽な動作で動悸・息切れが強い。血小板が著しく低下すると、ぶつけてもいないのに青あざができたり皮膚に点状の赤い斑点がたくさんでたり(点状出血)する。

こうした副作用には日常生活の注意で気づくことができたり、自治体・職場の健康診断や近隣のクリニックなどでの採血・検尿結果でチェックできるものもあります。

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