免疫疾患の解説一覧

リウマチ性多発筋痛症 Polymyalgia rheumatica (PMR)

概要

1888年にBruceが”老人性リウマチ性痛風”と呼ぶ高齢者の疾患を報告した。1957年にBarberが、polymyalgia rheumatica (PMR: リウマチ性多発筋痛症)と名付けた。

発症は50歳から増加し70歳代でピークであり高齢者に多い。男女比は1対2で女性に多い。肩や腰などの四肢近位部の疼痛とこわばりを訴え、炎症(血沈、CRP上昇)を伴うがCPKなどの筋酵素は上昇しない。欧米では巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の合併が多く(PMRの20%)、共通の病因が考えられている。北欧では、年発症率 40-110人/10万人と多く、遺伝的・環境的要因が示唆されている。本邦でも稀な疾患ではない。

肩や上腕の痛みにより上肢の挙上が障害され、腰や大腿部の痛みにより起立動作の障害が生じる。関節リウマチと異なり手指の関節は炎症になりにくい。

臨床症状

後頭部~肩、上腕、腰~殿部、股関節部、大腿部に、”こわばりと痛み”、そして痛みのため可動域制限を生じる。「朝、肩や腰が痛くて服が着づらい」「夜中に肩や腰が痛くて目が覚める」「昼間も肩や腰がこわばって痛い」などが典型である。また、炎症にもとづく微熱、全身倦怠感、食欲不振がみられることがある。

頚部~頭部の血管の炎症を伴うと、頭痛(とくにこめかみ部分の浅側頭動脈の腫れと痛み)、視力障害、咬筋跛行(持続的に咬む動作であごが痛くなる)がみられることがあり、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の診断の検討が必要である。

診断

本邦の基準、Birdの基準、Chuangらの基準、Healeyの基準などが使用される。合併しうる側頭動脈炎は、側頭動脈(こめかみの部分の動脈)の怒張、触診による圧痛、脈の減弱に注意し、ACRの診断基準を参考にする。頭蓋内動脈、大動脈弓が侵されることがある。ステロイド治療によく反応し予後は良いが、眼動脈に炎症がおきると視力障害の原因になりうる。近年、超音波検査による肩峰下滑液包炎、三角筋下滑液包炎、転子滑液包炎を検出し、診断に役立てることが提唱されている。

2012 Provisional Classification Criteria for Polymyalgia Rheumatica (ACR/EULAR)

前提条件

50歳以上、両側の肩の痛み、CRPまたは血沈上昇

スコアリング
項目 加点(USなし) 加点(USあり)
朝のこわばり(45分をこえる) 2 2
殿部痛または動きの制限 1 1
RF陰性、ACPA陰性 2 2
肩と腰以外の関節症状がない 1 1
USで、肩および股関節の滑液包炎 1
USで、両側の肩の滑液包炎 1

PMRの診断基準:本邦PMR研究会1985年

項目
1. 赤沈の亢進(40mm以上)
2. 両側大腿部筋痛
3. 食欲減退、体重減少
4. 発熱(37℃以上)
5. 全身倦怠感
6. 朝のこわばり
7. 両側上腕部筋痛

PMRの診断基準:Birdらの基準(1979年)

項目
1. 両肩の疼痛、および/またはこわばり Shoulder pain and/or stiffness bilaterally
2. 2週間以内の急性発症 Onset of illness of <2weeks duration
3. 赤沈の亢進(40mm/時以上) Initial ESR >40mm/h
4. 1時以上持続する朝のこわばり Morning stiffness duration >1h
5. 65歳以上 Age >65 yr
6. 抑うつ症状および/または体重減少 Depression and/or loss of weight
7. 両側上腕部筋の圧痛 Upper arm tenderness bilaterally

側頭動脈炎の診断基準:ACR1990年

項目
1. 発症年齢: 50歳以上
2. 新たな頭痛: 初めて経験する、あるいは経験したことのない局所性頭痛
3. 側頭動脈異常: 頚動脈の動脈硬化と関係のない側頭動脈に沿った圧痛あるいは脈拍減弱
4. 赤沈値 50mm/hr以上
5. 動脈生検の異常: 単核細胞浸潤あるいは肉芽腫性炎症が著明、通常巨細胞を伴う血管炎所見

鑑別

関節リウマチ:明らかな対称性の末梢関節病変(手指や足指の腫れ)、リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体、骨びらん、関節外病変などが見られることが、PMRと異なる。

RS3PE:急激に両側手指に発症し、著明な圧痕を残す浮腫を手首・手指に認める。腱滑膜炎の像を呈し、PMRの亜型との意見もある。

強直性脊椎炎:肩付近や殿部の痛みなどの症状がPMRに似るが、HLA-B27陽性、仙腸関節(腰)やアキレス腱の痛み、ぶどう膜炎の合併、などがPMRと異なる。

線維筋痛症:PMRよりもやや若年で発症し、朝方のこわばりを欠き、炎症反応も正常である。PMRでは肩や大腿部の痛みであるが、全身に圧痛点を認める。

悪性腫瘍随伴症状:PMR様の筋痛を呈することがある。PMRでプレドニンに対する反応性の悪いときは、悪性腫瘍の検索が望ましい。

治療

ステロイド治療(プレドニンで10-20mg)に良好に(すみやか、かつ効果的に)反応する。しかしステロイドの中止については、平均11ヶ月で中止できたという報告もあれば、ステロイド使用率が2年後でも8割前後残る、という報告もある。治療抵抗性の場合に、関節リウマチの治療に準じて、メトトレキサートが使用されることがある。抗TNF抗体は有効とする報告と無効とする報告がある。抗IL-6受容体抗体の効果に関しては興味深いところである。

PMRにおけるステロイドの投与・減量法の例として、プレドニン(PSL)15mg(2~4週)、12.5mg(2~3週)、10mg(4~6週)、以後1mgずつ4週ごとに減量し安定していれば中止を目指す、などが行われる。

巨細胞動脈炎(側頭動脈炎)合併の場合は、ステロイド治療をより強力に行うことが多い。

2015年EULAR/ACRリウマチ性多発筋痛症の管理推奨
PMR管理の基本原則
A. PMRの診断を確認する安全かつ具体的なアプローチを行う。類似疾患(例、非炎症性疾患、巨細胞性動脈炎や関節リウマチなどの炎症性疾患、薬剤性、内分泌疾患、感染症、悪性腫瘍)を除外するよう臨床評価を行う。
B. PMRのすべての患者で、治療(一次、二次治療)前に以下を評価する。
  • 基本的検査一式。類似疾患を除外し、治療経過の基礎となる。リウマトイド因子、抗CCP抗体、CRP、ESR、血球、糖、クレアチニン、肝機能、骨プロファイル(Ca、ALPを含む)、尿検査。追加検査として蛋白質電気泳動、TSH、CK、Vit Dを考慮。
  • 臨床徴候、症状、他疾患の疑いに応じて類似疾患除外のため、抗核抗体、ANCA、結核検査など血清学的検査をより広く追加する。医師の裁量で胸部X線画像など追加検査を検討する。
  • 併存疾患(特に高血圧、糖尿病、耐糖能異常、心血管疾患、脂質異常症、消化性潰瘍、骨粗鬆症、特に最近の骨折、白内障または緑内障の危険因子、慢性または再発性感染症、NSAID使用、その他の薬剤およびステロイド関連副作用の危険因子)。女性はステロイド関連副作用リスクが高いという低〜中程度の質の研究がある。
  • 再燃・長期治療の予測因子は明らかでない。女性、ESR亢進 (>40 mm/1hr)、末梢関節炎が再燃・長期治療と関連する、あるいは関連を証明できない低〜中程度の質の研究もある。
C. 非典型的症状(末梢関節炎、全身症状、炎症マーカー低値、60歳未満など)、治療関連の副作用出現や高リスク、ステロイド抵抗性、再燃・長期治療などでは専門医紹介を考慮する。
D. PMRの治療は最善のケアを目指し、患者と医師の間で共有された決定に基づく。
E. 患者に応じた管理計画を立てる。初期ステロイド量と漸減は患者の見込みや好みも考慮する。
F. PMRと治療(併存疾患や疾患予測因子を含む)に関する教育と、個別運動プログラムに関するアドバイスを受けるべきだ。
G. 一次、二次治療を受けるすべてのPMR患者で、ステロイド関連副作用とリスク因子、併存疾患、他の薬剤、再燃・長期治療の危険因子などの評価をモニタリングする。ステロイド処方中は、最小限の臨床所見と検査一式を継続的に行う。受診は1年目は4~8週毎、2年目は8~12週毎、再発時、ステロイド減量や中止に応じて行う。
H. 患者にとって再燃や副作用など状態変化を知らせるため、医師、看護師、訓練を受けたヘルスケアなどからのアドバイスに迅速かつ直接アクセスできることが重要だ。
PMR患者の管理に関する具体的な推奨
1. 他の症状に関連する痛みに対するNSAIDや鎮痛剤の短期使用を除き、PMRはNSAIDの代わりにステロイド使用を強く推奨する。特定の鎮痛剤の推奨はない。
2. ステロイド使用は患者毎に効果ある最短期間に抑えることを強く推奨する。
3. 初期治療として1日当たりプレドニゾン12.5~25mgの範囲で最少有効量を条件付きで推奨する。再燃リスクが高く副作用リスクが低い患者は、この範囲内でより高い用量を考慮するが、関連する併存疾患(糖尿病、骨粗鬆症、緑内障など)やステロイド関連副作用の他のリスク因子を有する患者は、より少ない用量が好ましい。7.5mg/日以下での初期量は控え、初期量30mg/日を超えては使用しないことを条件付きで強く推奨する。
4. 疾患活動性、検査マーカー、副作用の定期的モニタリングを前提に、ステロイド漸減スケジュールの個別化を強く推奨する。漸減に関して次の原則を提案する。
  • 初期漸減: 4~8週以内に経口プレドニゾン10mg相当量まで漸減。
  • 再燃治療: 経口プレドニゾンを再燃前の量まで増やし、徐々に(4~8週以内に) 再燃が生じた量まで減らす。
  • 初期および再燃療法後に寛解に達したら漸減:寛解が維持されていると仮定し、毎日の経口プレドニゾンを4週間毎に1mgずつ漸減、または、10/7.5mg隔日などのスケジュールで1.25mgずつ、終了するまで減量する。
5. 条件付きで、経口ステロイドの代替としてメチルプレドニゾロンの筋肉注射の考慮を推奨する。経口ステロイドとメチルプレドニゾロン筋肉注射の選択は主治医裁量に任される。ある臨床試験では、初期量メチルプレドニゾロン120mgを3週間毎に筋肉注射している。
6. 低用量の範囲(プレドニゾン<5mg/日)未満で漸減する際、強い夜間痛など特殊な状況を除き、1日の経口ステロイドは分割ではなく単回投与を条件付きで推奨する。
7. 特に再燃・長期治療のリスクが高い、ステロイド関連副作用が生じやすいリスク因子、合併症、併用薬がある場合は、条件付きでステロイドに加えMTXの早期導入を考慮する。MTXは再燃、ステロイドに顕著な反応がない、ステロイド関連副作用が現れた場合に考慮する。臨床試験では経口MTX 7.5~10mg/週で使用。
8. PMR治療にTNFα阻害剤を使用しないことを強く推奨する。
9. 筋肉量と機能を維持し、転倒リスク軽減を目的とし、特に長期ステロイド投与の高齢やフレイルのPMR患者向けに個別運動プログラムの検討を条件付きで推奨する。
10. PMR患者に漢方薬ハーブ製剤のヤンヘやビキを使用しないよう強く推奨する。

疾患活動性の評価: PMR Activity Score(PMR-AS)

PMRの疾患活動性を評価し、寛解の基準が提唱されている。

PMR-AS = CRP(mg/dl) + 患者痛み評価(VAS 0-10) + 医師評価(VAS 0-10) + 朝のこわばり時間(分)x 0.1 + EUL(3-0)
* EUL: elevate the upper limbs(両肢挙上テスト): 肩より上 0点、肩まで 1点、肩より下 2点、全く不可 3点

score Activity 活動性
0 -1.5 Remission (proposal) 寛解
1.5 -7 Low 低疾患活動性
7 -17 Medium 中疾患活動性
>17 High 高疾患活動性

参考文献

2023/Oct、2014/Oct、2009/Feb