免疫疾患の解説一覧

変形性手関節症 Hand osteoarthritis (HOA)

変形性関節症は、関節軟骨の異常に関連した疾患で、軟骨下骨、関節裂隙、関節周囲構造の変化を伴う。手関節症、膝関節症、股関節症など、部位によって臨床症状が異なるため、それぞれ分類基準が提唱されている。変形性手関節症の診断には、1990年ACR分類基準が主に使用されており、左右母指CM、第2・3DIP、PIP関節の硬性腫脹の有無を診察するが、基準項目はレントゲン所見が含まれていない。これは変形性関節症でも骨びらんが見られることがあり、正面撮影の画像では背側腹側の骨棘が不明なためである。

2009年、EULARから診断のための根拠に基づいたrecommendationが報告されている。この中では、リスク因子、好発部位、レントゲン所見をもとにして総合的に変形性手関節症の診断を行うよう推奨されている。骨びらんが存在していても注意深く見ると変形性手関節症では、骨硬化や関節面中央でびらんが見られるなど、関節リウマチでの骨びらんの所見とは少し異なる。炎症が強い場合は血液検査を行ない、関節リウマチなど他の炎症性関節疾患の鑑別が必要である。また、皮膚病変とDIP関節炎を特徴とする乾癬性関節炎などの疾患もあり、皮膚を観察することも鑑別診断に重要である。びらん性変形性手関節症の超音波検査では、びらん関節に滑膜肥厚、関節液貯留、ドップラー信号を認める。

変形性関節症は整形外科で診療されることが多いが、関節リウマチで侵されやすいPIP関節に結節を見る場合や、びらん性変形性手関節症では関節リウマチとの鑑別に注意を要するため、内科医でも知識を持っておくべきだろう。

変形性手関節症の1990年ACR分類基準(Arthritis & Rheum 1990)(感度92%、特異度98%)

1. 手の痛み、うずき、あるいはこわばり
2. 10関節(左右の母指CM、第2・3指DIPとPIP)のうち2関節以上に硬性腫脹
3. MCP関節の腫脹は2関節以下
4a. 2つ以上のDIP関節で硬性腫脹
4b. 10関節のうち1関節以上の変形

変形性手関節症の診断に対するEULAR recommendations(Ann Rheum Dis 2009)

主なリスク因子は、40歳以上、女性、家族歴、肥満、職業や趣味での手の使いすぎ、手の外傷の既往など。その他、閉経後、高い骨密度、前腕の筋力が強い(関節負荷がかかりやすい)、関節の弛緩など。
典型的症状は、使用時の痛み、ごく軽度の朝のこわばりが,、少数の関節にみられる。症状は間欠的で、DIP、PIP、母指CM、第2・3指MCPにでやすい。DIPが最も多いい。左右対称性に出現しやすい。
DIPのヘバーデン結節(Heberden nodes)、PIPのブシャール結節(Bouchard nodes)、骨棘などの変形を伴う骨腫大が特徴。ヘバーデン結節単独よりも、年齢が40歳以上、家族歴があるなど複数のリスク因子があれば診断されやすい。
関節リウマチと同様に関節の機能障害を生じる。関節機能はHAQなどを用いて注意深く評価する。
多関節型では、膝や股など他の関節での変形性関節症のリスクが高くなる。DIP病変があると、PIP病変の出現しやすさ(オッズ比)は32.0、膝病変のオッズ比は1.8となる。
変形性手関節症のなかでも、変形性IP(DIP、PIP)関節症、変形性母指基部(CM)関節症、びらん性変形性関節症はリスク因子や予後が異なる。
びらん性変形性手関節症はDIP、PIP、母指IP関節に好発し、MCPやCM関節には起きにくい。レントゲン像では、軟骨下にびらん、骨崩壊をみとめる。進行して軟骨と骨の摩耗、不安定性、骨性強直となることがある。激痛、機能障害、こわばり、軟部組織の腫脹・発赤、知覚異常などと相関するCRPの軽度上昇を示す。結節性の関節症と比べると予後が悪い。
鑑別すべき疾患は、乾癬性関節炎、関節リウマチ、痛風、ヘモクロマトーシスなど。年齢、性、症状の進行程度、こわばりの強さ、罹患関節の分布、ヘバーデン結節やブシャール結節の有無、レントゲン像、血液検査などで鑑別する。ピロリン酸カルシウム(CPPD)沈着による偽痛風とレントゲン上での鑑別は難しい。関節リウマチは骨粗鬆症を伴うが変形性関節症は骨硬化を伴う。
単純レントゲン撮影は、標準的評価法である。両手を一枚のフィルムにおさめる。関節裂隙の狭小化、骨棘形成、軟骨下の骨硬化、軟骨下の嚢胞などが特徴である。軟骨下のびらんがみられる場合がある。診断時以外の画像検査は通常は必要ない。
血液検査は、診断には必要ないが、他の疾患を鑑別するために行う。炎症症状が強い場合や、非好発部位で症状が出現する場合は、炎症性の関節炎を鑑別するために諸検査(リウマトイド因子、尿酸、関節液の検査など)を行う。

びらん性変形性手関節症(Erosive hand osteoarthritis)

変形性関節症の稀な亜型で、非びらん性の関節症より症状が重く、骨びらんを伴った変形性関節症である。ヘバーデン結節やブシャール結節を伴うこともある。びらん性変形性手関節症では突然DIPやPIP関節に疼痛と腫脹が生じる。滑膜炎を伴うが、全身性炎症反応は現れにくい。びらん性変形性手関節症のレントゲン像では骨棘や骨硬化部位がみられ、関節面の中央にびらんが見られる。指節関節の変形が進行すると指節骨が波をうったようなZ型変形やDIP関節の亜脱臼が特徴的である。

一方、本症との鑑別に重要な関節リウマチでは、PIP、MCP、CM関節、手関節などが侵されるがDIP関節は侵されにくく、強い滑膜炎のため全身性炎症反応を伴うことが多い。レントゲン上では骨粗鬆症がみられ、びらんは関節面の両辺縁に見られる。進行すればスワンネック変形やボタン穴変形が特徴的である。

特徴 びらん性変形性手関節症 関節リウマチ
朝のこわばり 1時間以内 1時間以上
DIP病変 あり なし
PIP病変 あり あり
MCP病変 まれ あり
対称性 あり/なし あり
変形 Z型変形、DIP亜脱臼 スワンネック変形、ボタン穴変形
腫脹と滑膜炎 あり あり
びらん形成部位 中央 辺縁

参考文献

2014/Dec, 2013/Mar