免疫疾患の解説一覧

悪性関節リウマチ/リウマトイド血管炎 Malignant Rheumatoid Arthritis(MRA)/ Rheumatoid Vasculitis(RV)

概要

悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis)は、1954年にBevans Mらが血管炎を伴い電撃性の経過をとった関節リウマチを報告したことに始まる。関節リウマチに皮膚潰瘍、壊疽、末梢神経障害などを伴う血管閉塞や血管炎の併発例があることから疾患概念が形成された。厚生労働省研究班改訂診断基準(1998年)では、確定した関節リウマチに1984年ScottとBaconによって定義されたrheumatoid vasculitis(リウマトイド血管炎)に加えて皮下結節、間質性肺炎、リウマトイド因子著明高値や補体低下など関節外病変や検査値異常を含めて悪性関節リウマチの診断基準が作成されている。なお、2012年国際Chapel Hillコンセンサス会議では関節リウマチに伴う血管炎の病名としてrheumatoid vasculitis(リウマトイド血管炎)が用いられ、malignant rheumatoid arthritisという疾患名は国際的には用いられていない。生物学的製剤による関節リウマチ治療の進歩と喫煙率低下から有病率は世界的に減少している。

症状

男性、関節外病変の存在、高活動性で病歴の長い関節リウマチ患者に多く、喫煙は関節リウマチのリスク因子であるが血管炎のリスクも上げる。リウマトイド因子や抗CCP抗体が高値である場合に血管炎を併発しやすく、他の小~中血管炎との鑑別として抗CCP抗体が陽性であればリウマトイド血管炎である特異度が高まり、15IU/ml以上であれば特異度98%とされる。Felty症候群(関節リウマチ+脾腫+白血球減少)ではリウマトイド血管炎になりやすい。体重減少や発熱などの全身症状(80%)を伴いやすく、局所症状は皮膚病変(90%)が特徴であり、点状出血や紫斑は下肢に見られやすく、壊死は手指や足趾の末梢に生じる。皮膚潰瘍は比較的深く足背や腓腹上部などに生じ、糖尿病での末梢潰瘍とは部位が異なることが多い。他にも網状皮斑、隆起性紅斑など多彩な皮膚病変がみられる。末梢神経障害(40%)も生じやすく、非対称性の痛みを伴う感覚神経障害や、手や足の下垂を伴う運動神経障害として多発単神経炎の症状が現れる。心病変(30%)として心外膜炎、冠動脈炎、心筋梗塞、不整脈などがある。眼病変(15%)として辺縁潰瘍性角膜炎は角膜穿孔に至ることがある。他に、糸球体腎炎などの腎病変や、胸膜炎や肺胞出血などの肺病変、消化管潰瘍、中枢神経病変などもある。リウマトイド血管炎の診断には血管炎症状とともに病理組織診断が有用で、皮膚生検や直腸生検が安全である。血管壁にIgMやC3の沈着が確認され、壊死性血管炎にはフィブリノイド変性、好中球浸潤を主体とした好中球性血管炎、血管壁に核塵を伴う白血球破砕性血管炎の像が見られる。疾患活動性は小~中血管炎の評価スコアであるThe Birmingham Vasculitis Activity Score(BVAS)の関節炎の項目を除いた改訂BVAS/RAが用いられることが多い。検査値ではリウマトイド血管炎では血清補体価低下と免疫複合体高値がみられることがあり治療とともに改善していく。

診断

悪性関節リウマチ改訂診断基準(厚生労働省研究班 1998年)
臨床症状
多発性神経炎:知覚障害、運動障害いずれを伴ってもよい。
皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽:感染や外傷によるものは含まない。
皮下結節:骨突起部、伸側表面又は関節近傍にみられる皮下結節。
上強膜炎又は虹彩炎:眼科的に確認され、他の原因によるものは含まない。
滲出性胸膜炎又は心嚢炎:感染症など、他の原因によるものは含まない。癒着のみの所見は陽性にとらない。
心筋炎:臨床所見、炎症反応、筋原性酵素、心電図、心エコーなどにより診断されたものを陽性とする。
間質性肺炎又は肺線維症理:学的所見、胸部X線、肺機能検査により確認され、病変の広がりは問わない。
臓器梗塞:血管炎による虚血、壊死に起因した腸管、心筋、肺などの臓器梗塞。
リウマトイド因子高値:2 回以上の検査でRAHA ないしRAPAテスト2,560 倍以上(RF960IY/ml以上)。
血清低補体価または血中免疫複合体陽性:2 回以上の検査で、C3、C4 などの血清補体成分の低下もしくはCH50による補体活性化の低下をみること。または、2 回以上の検査で血中免疫複合体陽性(C1q 結合能を基準とする)をみること。
組織所見

皮膚、筋、神経、その他の臓器の生検により小ないし中動脈に壊死性血管炎、肉芽腫性血管炎ないしは閉塞性内膜炎を認めること。

判定

関節リウマチ(2010年ACR/EULAR分類基準)で、上記の臨床症状3項目以上、又は臨床症状1項目以上と組織所見があるものを悪性関節リウマチと診断する。

鑑別疾患

感染症、続発性アミロイドーシス、薬剤性間質性肺炎、薬剤性血管炎、フェルティ症候群、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎などの重複に留意する。関節リウマチや悪性関節リウマチにシェーグレン症候群を合併することもある。

ScottとBaconのリウマトイド血管炎診断基準(1984年)

関節リウマチと診断されており、さらに以下の項目の一つ以上あればリウマトイド血管炎とする。

  1. 多発単神経炎、または、末梢神経障害
  2. 末梢性壊疽
  3. 発熱や体重減少などの全身症状を呈し、急性壊死性動脈炎の組織診断がある。
  4. 深い皮膚潰瘍や、胸膜炎、心膜炎、強膜炎などの活動性関節外病変を有し、典型的な指趾梗塞や組織診断による血管炎が存在する。

治療

MTXやTNF阻害剤などの生物学的製剤による関節リウマチの治療と、血管炎に対してステロイドとシクロフォスファミドなどを中心とした治療がされる。TNF阻害剤使用により関節外病変は相対リスク0.42に減少するとの報告がある。ANCA関連血管炎の治療で良好な成績を得ているリツキシマブはリウマトイド血管炎に対しても良好な結果ある(本邦ではリツキシマブは関節リウマチに保険適応はない)。トシリズマブやアバタセプトの有効例報告もある。

参考文献

2018/May