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ピロリン酸カルシウム沈着症 Calcium Pyrophosphate Deposition(CPPD)

ピロリン酸カルシウム沈着症は関節軟骨や周囲組織へのピロリン酸カルシウムの沈着(Calcium pyrophosphate deposition: CPPD)を特徴とする結晶性関節炎である。尿酸結晶による関節炎を痛風と呼ぶが、CPPDによるものを偽痛風と呼ぶこともある。年齢とともに有病率が増え、膝関節に最も生じやすく、肩関節、足関節、手関節、股関節、C1/C2環軸関節などにも生じる。

CPPDを示唆する関節レントゲンによる軟骨石灰沈着症は、高齢者では 4~10%以上で見られるが、その中の一部が多彩な症状を呈する関節炎を生じる。

症状

25%は発赤、圧痛を伴う急性炎症の関節炎で、古典的な偽痛風(Pseudogout)と呼ばれる急性CPP結晶性関節炎である。

25%は慢性CPP結晶性関節炎で、以前は偽関節リウマチと呼ばれていた。対称性の多関節炎でMCP関節や手関節に生じやすく、手根管症候群、局所浮腫、手指や手関節の屈曲拘縮を呈することがある。一般に高齢ではリウマトイド因子陽性率が上がるが関節リウマチと異なりCPPDでは通常は骨びらんが見られない。

C1/C2環軸関節のクラウンデンス症候群は、臨床的には急性または亜急性の発症で炎症マーカー上昇、頭部回旋の制限、多くの場合発熱を伴う、首上部に局在する激痛を伴う。リウマチ性多発筋痛や髄膜炎は除外しておく。CT画像では横歯状後靱帯(環椎の横靱帯)の石灰沈着が特徴的。石灰沈着は典型的には線状で皮質骨より密度が低く、軸方向の像ではしばしば2本の平行線のように見える。環軸関節、翼状靱帯(大後頭孔と軸椎を繋ぐ)、軸椎歯突起の先端に隣接するパンヌスにおける石灰化も特徴的。臨床的特徴と画像的特徴の両方が存在する必要がある。

朝方のこわばりや両肩痛などのリウマチ性多発筋痛症様の特徴を呈するCPPDもある。肩関節痛に脛骨大腿骨変形性関節症、腱石灰化、足関節炎などがあるとリウマチ性多発筋痛症様症状であってもCPPDであることがある。

軟骨石灰沈着症のほぼ20%が、原発性副甲状腺機能亢進症、続発性副甲状腺機能亢進症(一般的には慢性腎不全やビタミンD欠乏症)、低Mg血症、低ホスファターゼ症、ヘモクロマトーシス、ギテルマン症候群(低K、低Mg、代謝性アルカローシスを呈する遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症)などの代謝性疾患、以前の関節手術など基礎疾患を伴う。こうした疾患を有し関節炎を呈する場合はCPPDを疑う。肥満や高血圧なども危険因子である。

症状のない単純X線で軟骨石灰化の見られる無症候性CPPDや、年齢とともに変形性関節症に軟骨石灰沈着が見られることも多いが、関節炎を呈さなければCPPDには含めない。

診断

ピロリン酸カルシウム沈着症の2023年ACR/EULAR分類基準
エントリー基準を満たし、除外基準がなく、一つ以上の十分な基準があればCPPDと分類。十分な基準が無い場合はスコアリングして56ポイント以上でCPPDと分類する。
エントリー基準 関節の痛み、腫脹、圧痛が一回以上あった(末梢関節やC1/C2軸関節のエピソード)
除外基準 関節リウマチ、痛風、乾癬性関節炎、変形性関節症などの他の疾患によって全ての症状がよりよく説明される
十分な基準 クラウンデンス症候群の存在、または腫脹や圧痛のある関節内の関節液にCPP結晶を認める
スコアリングは各項目で最もスコアの高いポイントのみ合計する。症状のある少なくとも1箇所の関節の画像検査が必要。
A 関節症状(痛み、腫れ、圧痛)が現れた年齢
60歳以下 0
60歳以上 4
B 炎症性関節炎の時間経過と症状
持続性または典型的な炎症性関節炎がない 0
持続性炎症性関節炎 9
典型的な急性関節炎の一回のエピソード 12
典型的な急性関節炎の複数のエピソード 16
C 末梢関節における炎症性関節炎の典型的なエピソードの部位
第一MTP関節 -6
典型的なエピソードがない 0
手、膝、第一MTP関節以外の関節 5
手関節 8
膝関節 9
D 関連代謝疾患
なし 0
現在あり 6
E 症状のある関節滑液からの結晶分析
2回以上の検査でCPP結晶が存在しなかった -7
1 回でCPP結晶が存在しなかった -1
未実施 0
F 画像上の手/手首OA K/Lスコア2(明らかな骨棘と、関節裂隙に狭小の可能性)以上
以下の所見がない、または手首/手の画像検査を実施していない 0
両側の橈骨手根関節のOA 2
以下のうち2つ以上:第一CMC関節OAを伴わないSTT関節OA、第二MCP関節OA、第三MCP関節OA 7
G 症状のある末梢関節における CPPD の画像証拠
US、CT、DECTではなし(CRではなし、またはCRを実施していない) -4
CRではなし (US、CT、DECTを実施していない) 0
CR、US、CT、またはDECTのいずれかに画像所見が存在する 16
H 症状に関係なく、あらゆる画像診断法で CPPD の証拠がある末梢関節の数
なし 0
1 16
2、3 23
4以上 25

関節組織の病理組織学的分析でピロリン酸カルシウム(CPP)結晶が証明され、除外基準を満たさない場合はCPPDと分類する。末期変形性関節症 (OA) における関節軟骨のCPP結晶沈着は症状がOAでよりよく説明される場合 (除外基準を満たす) はCPPDとは分類しない。

関連代謝疾患は遺伝性ヘモクロマトーシス、原発性副甲状腺機能亢進症、低Mg血症、ギテルマン症候群、低ホスファターゼ症、CPPD疾患の家族歴など。

滑液の結晶分析は偏光顕微鏡の訓練を受けた人が行う必要がある。

CPPDの画像証拠は線維軟骨または硝子軟骨の石灰化を指す。滑膜、関節包、腱の石灰化は含まない。

OA(変形性関節症)、MTP関節(中足骨趾骨間関節)、STT関節(舟状・大菱形・小菱形骨関節)、CMC関節(手根中手骨関節)、MCP関節(中手指節関節)、CR(通常のレントゲン)、US(超音波)、DECT(dual-energy CT)

治療

急性関節炎は数日で自然軽快することが多く、局所の安静や冷却などの支持療法と、痛みを軽減するためNSAIDsを対症的に用いる。NSAIDsで効果が不十分な場合はコルヒチン(0.5mg~1mg)を考慮する。化膿性関節炎の疑いが低い場合は関節内ステロイド投与、複数の関節炎や関節内投与が難しい場合は低用量ステロイド内服、MTX、ヒドロキシクロロキン(適応外)も選択肢である。

難治性の場合はMTXやアナキンラ(適応外)、トシリズマブ(適応外)などが効くことがある。

ヘモクロマトーシス、副甲状腺機能亢進症、低マグネシウム血症、低リン酸血症などの関連代謝疾患を特定して治療することも重要である。

参考文献

2024/Mar