呼吸器内科研究

次世代の気管支鏡検査を実現する基盤技術の開発

概要

気管支鏡は低侵襲に肺にアプローチできる手段であるが、残念ながら今のところ肺癌の生検・診断・治療における役割は限られており、例えば胃癌において上部消化管内視鏡が胃癌診療の中心にあることとは対照的である。その原因は、複雑に気管支が分岐する肺の構造にあり、最新の気管支鏡技術でも生検・治療用のデバイスを自在に標的病変に到達させることはできない。

本プロジェクトの目標は「肺内の任意の地点へ、確実にデバイスを到達させる技術の確立すること」である。我々は[1]従来の気管支鏡ナビよりも優れたCT画像解析技術の確立と普及 [2]気管支鏡で肺野末梢に到達する技術の新規開発 の両面で貢献したい。

CT画像解析技術について、当科の三宅らはオブリーク法という新しいCT画像解析技術を確立した。その特徴は下記の通りであり、多くの点で既存の仮想気管支鏡ナビゲーションシステムより優れている。
[1] オブリーク法は既存の仮想気管支鏡ナビゲーションよりも精密。同じCT画像データでも、オブリーク法で解析するかどうかで得られる情報の深み・正確性・妥当性が大きく異なることがある。
[2] 解析時間が短時間 1症例(3-5分)
[3] 解析の自由度が高く、距離・方角・肺動脈・気管支壁の向こう側の情報などあらゆる構造物の位置が把握できる

オブリーク法を習得した医師にとっては、VINCENT, Aquariusなどを使うことにより、通常の電子カルテが精密な気管支鏡ナビゲーションになる。あるいはOsiriXのような無料のDICOMビューアでも同様に使用できる。オブリーク法の詳細は当科HPで別途まとめている。(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-resp02.html
また、ザイオソフト社からオブリーク法を組み込んだ気管支鏡ナビゲーションシステム(ZioStation2 CT気管支ナビゲーション)が発売されている。このシステムは有償ではあるが、購入しただけでオブリーク法と同等の精密な解析が可能となるよう工夫されている。

ぜひオブリーク法をご利用下さい
オブリーク法と仮想気管支鏡ナビゲーション
論文はすでに発表済みです[1]。また、当科主催で初心者向けのハンズオンセミナーも定期的に開催しています(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-resp03.html)。その他の講習会や講演等のご依頼にも柔軟に対応させていただきます。
ご連絡先: bf@imed3.med.osaka-u.ac.jp

一方で、いかにオブリーク法で標的に至る経路が分かっても、気管支鏡はその途中まで到達できない。そこで我々はなんとか気管支鏡でさらに奥に行ける手法を確立したいと考えている。我々は独自の方法として、「検査側を上にした側臥位」において気管支が拡張し、気管支鏡を少し末梢へ到達させることができることを見出しており、現在評価を続けている。他の手法の可能性も含め、気管支鏡を肺野末梢に到達させるための検討を続けていく。

もし「肺内の任意の地点へ、確実にデバイスを到達させる技術の確立すること」が実現できれば、まるで胃癌の診断が消化管内視鏡検査で高い診断率を実現できているように、肺野末梢の肺癌も確実に気管支鏡検査で診断ができるようになるかもしれない。昨今国内でも導入が進んでいるクライオバイオプシーも、本技術と組み合わせればその価値が飛躍的に向上すると思われる。また、近未来に実現するであろう光線力学的治療や光免疫療法などと組み合わせることで、肺癌の治療の面でも大きく進歩する可能性がある。このように「肺内の任意の地点へ、確実にデバイスを到達させる技術」は、次世代の気管支鏡検査を実現する基盤となり、診断・治療の両面で大きな波及効果があるものと思われる。

[1] J Bronchology Interv Pulmonol. 2018 Oct;25(4):305-314. The Direct Oblique Method: A New Gold Standard for Bronchoscopic Navigation That is Superior to Automatic Methods.