大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
全身性強皮症は疾患の特徴である皮膚硬化以外にも、レイノー症状、指尖潰瘍、肺動脈性肺高血圧症、強皮症腎クリーゼ、消化管障害、間質性肺炎など様々な病態を呈する疾患で、それぞれの病態に即して薬物を選択する。
レイノー症状には経口ニフェジピン、指尖潰瘍に至るようであればPDE5阻害剤やボセンタンを使用する。保温などの物理的治療も直接的で有益。
肺動脈性肺高血圧症は労作時呼吸困難から始まり、呼吸機能検査(%DLCO低下)、心電図(右軸編位)、心エコーや右心カテーテル検査で診断する。血管拡張作用を有するPDE5阻害剤(タダラフィル)とエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン)併用が第一選択とされ、プロスタサイクリン類似体(セレキシパグ)や重症ではエポプロステノール静脈投与を検討する。
強皮症腎では短期間で血中レニン・アルドステロンの濃度上昇と血圧上昇による腎障害進展といった悪循環が発生するためACE阻害薬を直ちに開始、高用量を必要とすることもある。
逆流性食道炎にはPPI、消化管運動障害にはドンペリドンなどの運動促進薬が経験的に用いられる。
皮膚硬化に対してはMTX、MMF、RTXなどを使用するが効果は限定的なことが多い。CRP=0.6以上の炎症がある場合はTCZで改善傾向がある。
間質性肺炎は胸部HRCTで病変の広がり、呼吸機能検査で%FVCや%DLCO低下、血液検査でKL-6、SP-Dなどをモニターして進行が予測される場合、MMF、シクロホスファミド、RTX、TCZなどの免疫抑制剤と繊維化抑制剤のニンテダニブを使用する。しかし呼吸機能の進行性低下を緩やかにするくらいのデータが多い。
全身性強皮症の各種病態に対する薬物効果は不十分な事が多く、新薬の臨床試験やCAR-T細胞療法などの新しい治療が試みられている。
全身性強皮症では、レイノー現象や指尖潰瘍など血行不良を伴う症状があり、血流保持のために寒冷暴露を避けるよう指導する。日本では、冬期の部屋単位での暖房が行われるため各部屋、廊下、脱衣所などの温度差に留意し、買い物時に冷蔵冷凍食品類をなるべく素手で持たないなど指導が必要である。夏季は冷房の強く効いている場所へは寄らない。
手足などの末梢の血流不全には各種の懐炉(肘に巻く桐灰ヒエナース、桐灰巻きポカ足首用や手首用)、ヒーター手袋、外出時にはマフ(筒状に編まれた防寒具)の中にカイロを入れるなど、外部から暖める必要がある。指先などの傷は血流が悪く治りが悪いため、特に低温火傷しないよう気を付ける。
皮膚硬化から関節拘縮をきたす事があり、ストレッチを基本とするリハビリで手指の可動域を保つことも推奨されている。
全身性強皮症の8つの病態に対してMMF、ニンテダニブ、リツキシマブ(RTX)、トシリズマブ(TCZ)を使用する新しい推奨が含まれた。(証拠レベル、推奨度、同意レベル)
文献中の要約図
CCB;カルシウム拮抗剤、CYC;シクロホスファミド、ERAs;エンドセリン受容体拮抗薬、MMF;ミコフェノール酸モフェチル、MTX;メトトレキサート、PDE5i;ホスホジエステラーゼ5阻害剤、PPI;プロトンポンプ阻害剤、RTUX;リツキシマブ、TCZ;トシリズマブ
括弧内は(証拠レベル、推奨度、同意レベル)
レイノー症状 |
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1. ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬 (通常は経口ニフェジピン) を第一選択として使用する。(1a、A、8.6) 2. PDE5阻害剤(タダラフィル、シルデナフィルなど)も考慮する必要がある。(1a、A、8.6) 3. 経口療法が無効の重症では、静脈内イロプロストを検討する。(1a、A、9.0) |
ニフェジピンはレイノー症状の頻度と重症度を軽減することがRCTで示されている。PDE5阻害剤ではレイノー症状スコア、発作の頻度と持続時間の改善に有意差が見られている(本邦では保険適応なし)。エンドセリン受容体拮抗薬のレイノー症状への有効性に関しての証拠は一定せず。
指尖潰瘍 |
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1. 指尖潰瘍の治療には、PDE5阻害剤および/または静脈内イロプロストの使用を検討する。(1a、A、8.8) 2. 新規指潰瘍数の減少にはボセンタンを検討する。(1a、A、8.0) |
PDE5阻害剤(シルデナフィル50mg一日2回やタダラフィル20mg隔日投与)や静脈内イロプロスト(0.5~2ng/kg/minを3~5日連続)は指尖潰瘍の改善効果がRCTで示されている。ボセンタン(62.5mgを1日2回)はRCTで新規潰瘍を減らす効果が確認されているが、マシテンタンでの試験では否定的だった。
肺動脈性肺高血圧症 |
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1. PDE5阻害剤(タダラフィル)とエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン)併用を第一選択として考慮する。(1a、A、8.1) 2. 進行したPAH (クラスIIIとIV) は、エポプロステノール静脈投与を検討する。(1a、A、7.7) 3. 他のプロスタサイクリン類似体(セレキシパグ)またはアゴニストも検討する。(1b、B、7.7) 4. リオシグアトを検討してよい。(1b、B、8.0) 5. 抗凝固薬 (ワルファリン) 使用は推奨されない。(2a、C、8.2) |
AMBITION試験でタダラフィル40mgとアンブリセンタン10mgの併用で肺動脈性高血圧への有効性が裏付けられている。さらにセレキシパグを追加した時の死亡イベントの減少の結果もある。
強皮症腎クリーゼ |
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1. 診断後はACE 阻害薬を直ちに使用する。(4、C、8.4) 2. ステロイド治療されている場合は、強皮症腎クリーゼを検出するため定期的に血圧をモニタリングする。(3、C、7.9) |
ACE 阻害薬(カプトプリルやエナラプリル)が導入されて以来死亡率が大幅に改善されている。しかし、腎クリーゼの予防に対する推奨までには拡張されていない。プレドニゾロン30mg以上では予後不良な正常血圧の強皮症腎クリーゼが増加している。
消化管障害 |
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1. 逆流性食道炎の治療、食道潰瘍や狭窄予防にPPIを考慮する。(3、B、8.3) 2. 症状のある消化管運動障害の治療に消化管運動促進薬(ドンペリドンなど)の使用を考慮する。(1b、C、8.0) 3. 小腸細菌異常増殖症(SIBO)の治療は、抗生物質のローテーション使用を考慮する。(2b、D、7.3) |
胃食道逆流症の症状を抑え、食道合併症を予防するためにPPIが推奨されるが、長期服用後の安全性に関する証拠が不足している。SIBOの治療は、抗生物質(キノロン、アモキシシリンークラブラン酸、メトロニダゾール、ネオマイシン、ドキシサイクリンなど好気性と嫌気性最近の両方に効果)の間歇的あるいはローテーション投与は経験的投与に基づくがRCTはない。
皮膚硬化 |
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1. MTX(1B)、MMF(1B)、RTX (1A) は、皮膚線維症の治療に考慮する。(1a-b、A/B、7.6) 2. TCZは、初期の炎症性びまん皮膚硬化型全身性強皮症の皮膚線維症の治療に考慮して良い。(1b、C、7.2) |
SLS-II試験(2016 Lancet Respir Med)(n=142)では24ヶ月でmRSSがMMF(-4.9)、シクロホスファミド(-5.35)ともに改善したが、後者で白血球減少の有害事象が多かった。N=326の早期dcSSCを対象としたMTX、MMF、シクロホスファミドと免疫抑制なしの患者間では12ヶ月時点でわずかな改善が見られたが、有意差はなし。RTXの有効性報告は日本からの報告(DESIRES試験。週一回投与を4回)。
TCZは第2相と第3相試験(病歴5年未満でCRP0.6mg/dl以上、ESR1時間28以上、血小板33万/ul以上のいずれかを有し、TCZ162mg毎週投与)で有益な傾向が観察された。
間質性肺炎 |
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1. MMF (1A)、シクロホスファミド (1A)、RTX (1A) はSSc-ILD の治療に考慮する。(1a、A、8.1) 2. ニンテダニブは、単独または MMF との併用で考慮する。(1a、A、8.5) 3. TCZは強皮症間質性肺炎の治療に考慮する。(1b、B、7.8) |
SLS-II試験(2016 Lancet Respir Med)でのMMF(目標1500mgを1日2回で24月)と経口シクロホスファミド(目標2mg/kg/dayで12月その後プラセボを12月)で24月時点で%FVC改善はそれぞれ2.19%、2.88%、白血球や血小板減少の発生率はMMFで少なかった。シクロホスファミドの経口と静脈投与の比較データは不十分。
RECITAL試験(2023 Lancet Respir Med)ではRTXと静注シクロホスファミドが比較され55週目にFVC増加がそれぞれ97ml、99mlで、有害事象はRTXで少なかった。DESIRES試験でもRTXで改善効果が示された。
SENSCIS試験(2019 N Engl J Med)ではMMFとの併用でもニンテダニブ(目標150mgを1日2回)のFVC減少抑制効果が示された(ニンテダニブ -52.4ml/年、プラセボ -93.3ml/年)。
INBUILD試験(2018 N Engl J Med)で自己免疫疾患関連ILDではニンテダニブ単独とプラセボでFVC減少はそれぞれ -75.9 ml/年、-178.6ml/年。
focuSSced試験 (2020 Lancet Res Med)はTCZ第3相(病歴5年未満でCRP、ESR、血小板条件のいずれかを有し、TCZ162mg毎週投与)で副次的アウトカムとして48週で%FVC低下が有意に少なかった(TCZ:プラセボ=-0.4%:-4.6%)。
予後不良 |
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1. 進行した心肺機能障害がない場合、早期dcSScおよび予後不良の特定の患者の治療に、高強度免疫抑制(通常はシクロホスファミドを含む)に続いて自家造血幹細胞移植を考慮してよいだろう。(1a、A、7.8) |
重症の早期dcSScで予後不良では自家造血幹細胞移植(HSCT)が皮膚病変の改善と肺機能の安定化が示され、考慮されることがあるが、早期治療関連死亡リスクがあり、特に心機能低下では慎重に考慮する必要がある。
筋骨格 |
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1. MTXは、SScの筋骨格障害の治療に考慮する。(2b、D、7.8) |
ステロイド、TCZ、RTXなどの関節障害に与える質の高い証拠に欠ける。関節障害にアバタセプトの有効性が示された第2相試験がある。
日本皮膚科学会から全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会による診療ガイドラインが2016年に発表されている。ガイドラインは、証拠(Evidence)とともに本邦専門家の意見を取り入れてあり、ここでは推奨文章を抜粋した。全文は日皮会誌126(10) 1831-1896 2016にて閲覧可能であるため、詳細は原文を参考にされたい。
1A: | 強い推奨、強い根拠に基づく |
1B: | 強い推奨、中程度の根拠に基づく |
2C: | 弱い推奨、弱い根拠に基づく |
2D: | 弱い推奨、とても弱い根拠に基づく |
mRSSは、皮膚硬化の半定量的評価に有用であり、用いることを推奨する。 | 1B |
皮膚硬化出現6年以内のdcSSc、数ヶ月から1年以内での急速な皮膚硬化の進行が認められる、触診にて浮腫性硬化が主体、のうち2項目以上を満たす例を治療対象とするべきと提案する。抗Scl70抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性はびまん皮膚硬化型に進展しやすい。 | 2D |
ステロイド内服は、発症早期で進行している例においては有用であり投与を提案する。初期20~30mg/日を2~4週間その後減量し5mg/日程度で維持。 | 2C |
ステロイドは腎クリーゼのリスク因子となるので、血圧と腎機能を慎重にモニターすることを推奨する。 | 1C |
D-ペニシラミンはSScの皮膚硬化を改善しないと考えられ、投与しない事を提案する。 | 2B |
シクロホスファミド(CYC)内服(1mg/kg/day)は皮膚硬化の治療の選択肢の一つとして考慮する。 | 2A |
メトトレキサート(MTX)は皮膚硬化を改善させる傾向は認められているが、有用性は確立していない。 | 2D |
シクロスポリン、タクロリムス、MMFを皮膚硬化に対する治療の選択肢の一つとして提案する。(いずれも本邦では保険適応はない) | 2C |
リツキシマブは皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応を慎重に選択しながら投与する事を提案する。 | 2B |
IFNαは使用しないことを推奨する。 | 1A |
イマチニブは皮膚硬化に対する有用性は明らかでなく、投与しない事を提案する。 | 2A |
ミノサイクリンは皮膚硬化の治療として投与しないことを推奨する。 | 1A |
造血幹細胞移植は皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択して行うことを提案する。 | 2A |
長波紫外線療法は皮膚硬化の改善に有用である場合があり、行うことを提案する。 | 2C |
全ての例で高解像度CTによるILDのスクリーニングを行なう。 | 1C |
HRCTにおける線維化所見と病変あるいは病変全体の広がり、肺機能検査による努力肺活量(FVC)予測値により末期肺病変への進行リスクを予測し、治療適応を判断する。 | 1C |
進行が予測されるSSc-ILDに対してシクロホスファミドの使用を推奨する。1年以内もしくは総投与量36g以内で経口(1~2mg/kg)や点滴(0.4~1g/m2)で使用される。 | 1A |
SSc-ILDに対してCYC治療後の維持療法としてアザチオプリンの使用を提案するが、ファーストラインとして単独では使用しないことを提案する。 | 2C |
SSc-ILDに対してMMFをCYCの代替療法として使用する。 | 2C |
SSc-ILDに対してタクロリムスやシクロスポリンをファーストラインとしては使用しないことを提案する。腎クリーゼを誘発する可能性が指摘されている。 | 2D |
SSc-ILDに対してCYCやMMFなどの免疫抑制剤に中等量以下のステロイド併用を提案するが、パルス療法を含むステロイドを単独では実施しない。 | 2D |
SSc-ILDに対する治療としてボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタンは使用しないことを提案する。 | 2B |
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対して少量イマチニブ(400-600mg)の使用は選択肢の一つとして提案する。 | 2C |
SSc-ILDに対してTNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブの有用性は明らかでない。 | ND |
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対してリツキシマブを使用することを提案する。 | 2C |
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対する選択肢の一つとしてピルフェニドンを用いることを提案する。 | 2D |
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対する選択肢の一つとして自己末梢血造血幹細胞移植を提案するが、移植関連死が起こり得るため慎重に適応を選択する必要がある。 | 2A |
SSc-ILDでは微小誤嚥がILDの促進因子となる可能性があり、プロトンポンプ阻害薬の使用を提案する。 | 2D |
上部消化管病変の症状に対して、アルコールや喫煙を控え、食事を少量頻回にする、食後すぐ横にならない、などの生活習慣改善を行なう。 | 1C |
嚥下障害、逆流性食道炎、腹部膨満、偽性腸閉塞などの消化管蠕動運動低下症状に対して胃腸機能調整薬(ドンペリドン、モサプリド、エリスロマイシン:1B。メトクロプラミド:2B。イトプリド、アコチアミド、トリメブチン:2C)にて治療を行なうことを推奨する。 | |
胃食道逆流症に対してPPI投与を行なうことを強く推奨する。 | 1A |
上部消化管蠕動運動異常の症状に対して六君子湯での治療は選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
上部消化管の重症な胃食道逆流症に対して、限られた症例においてのみ、適切な術式での手術療法を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
上部消化管の重症な通過障害に対して、バルーン拡張術を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
上部消化管の蠕動低下や狭窄などによる通過障害に対して、空腸以降の蠕動が良好で通過障害がない場合に、空腸栄養チューブを用いた経管栄養を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
腸内細菌叢異常増殖に対して、細菌の異常増殖による吸収不良がある場合には、抗菌薬を順次変更しながら投与することを推奨する。広域スペクトラムのキノロン系のノルフロキサシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシンやアモキシシリンを基本に、順次変更しながら治療する事が多い。メトロニダゾール、ゲンタマイシンなどの有効性報告もある。 | 1D |
腸の蠕動運動低下の症状に対して水分摂取、低残渣食、成分栄養などの食事療法を提案する。 | 2D |
腸の蠕動運動低下に対して消化管機能調整薬(ドンペリドン、メトクロプラミド、モサプリド、ジノプロストなど)での治療を推奨する。 | 1D |
腸の蠕動運動低下に対して消化管機能改善薬が無効の症例においてオクトレオチドでの治療を提案する。 | 2B |
腸の蠕動運動低下に対して、大建中湯での治療を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
腸の蠕動運動低下に対して、パントテン酸での治療を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
腸の蠕動運動低下に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
腸管嚢腫様気腫症に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
腸の蠕動運動低下に対して、ネオスチグミン、ベサコリンの副交感神経作用薬での治療を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
重篤な下部消化管病変による通過障害に対して、限られた場合を除き、手術療法を行わないことを推奨する。 | 1D |
重篤な下部消化管病変である蠕動運動低下による偽性イレウスや吸収障害に対して、在宅中心静脈栄養を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
SScの腎障害は、強皮症腎クリーゼ(SRC)以外もあり、薬剤性腎障害(カルシニューリン阻害剤など)、p-ANCA陽性の糸球体腎炎の報告もある。 | 1C |
SRCの数パーセントには高血圧症を伴わない病態がある。血漿レニン活性高値などの所見を参考に診断することを推奨する。 | 1C |
SRC発症を予測する危険因子は抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性(1A)、発症4年以内のびまん皮膚硬化型、急性に皮膚硬化が進行、新規の貧血、新規の心嚢液貯留、うっ血性心不全、高用量ステロイド使用(15mg半年以上):2C | |
SRCの重症度は、治療開始時の血清クレアチニン、eGFRにて評価することを推奨する。筋肉量が少ない場合では血清シスタチン値も用いる。 | 1C |
ACE阻害薬はSRC治療に有効であり、第一選択薬として推奨する。 | 1C |
ARBはSRCの第一選択薬としては使用しないことを提案する。 | 2C |
ACE阻害薬にても正常血圧を維持できない場合はカルシウム拮抗薬の併用を選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
ACE阻害薬でのSRCの予防効果の報告はなく、予防のためには投薬しないことを推奨する。 | 1B |
SRCは急速に腎機能が悪化して腎不全に至る例があり、その場合血液透析での治療を推奨する。 | 1C |
SRCによる透析患者に対して、腎移植を選択肢の一つとして提案する。 | 2C |
心臓の拡張障害はSScに合併する心臓病変として最も頻度が多く、約20%のSSc患者に認めるためスクリーニングを行なうことを推奨する。 | 1C |
SScに合併する心臓病変には拡張障害の他、収縮障害、冠動脈疾患、伝導障害、心外膜炎、弁膜症(A弁、M弁)などがあり検索を行なうことを推奨する。 | 1C |
心筋障害のスクリーニング及び重症度評価に際しては、血清学的マーカーのBNPまたはNT-proBNPの測定を提案する。 | 2C |
SScに伴う心臓病変の検出には心臓MRI(心臓の線維化の評価)及び心筋シンチグラフィーを行なうことを提案する。 | 2C |
Ca拮抗薬はSScに伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する。 | 2C |
ACE阻害薬やARBはSScに伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する。 | 2C |
SScに伴う心臓病変に特異的な治療薬はなく、原因疾患に応じた治療を行なうことを提案する。 | 2C |
SScに伴う心外膜炎に対してはステロイド(中等量)の投与(2D)を提案する。 SScに伴うその他の心臓病変に対する免疫抑制療法の有用性は明らかではない。 | |
SScに合併するPHには肺動脈性肺高血圧症(PAH)、左心疾患によるPH(PVH)、間質性肺疾患によるPH(ILD-PH)がある。それぞれSScの10%、10%、2.5~3%程度である。 | |
lcSSc、抗セントロメア抗体、抗U1RNP抗体がPAHのリスク因子となるが、全てのSSc患者で年一回の定期的なスクリーニングを推奨する。 | 1C |
スクリーニングに有用な検査は、身体所見(毛細血管拡張)、血清学的検査(BNPやNT-proBNP高値、尿酸値高値)、心電図(右軸偏位)、呼吸機能検査(%FVC/%DLCO高値)、心エコーが有用であり推奨される。 | 1C |
心エコーにて三尖弁逆流速度(TRV)が3.4m/sを越える、もしくは推定右室収縮期圧(RVSP)が50mmHgを越える場合にはPHである可能性が高い(2A)ため右心カテーテルを行なうことを提案する。TRVが3.4m/s以下もしくはRVSPが50mmHg以下の場合(2B)には、その他にPHを疑わせる所見があれば右心カテーテルを行なう。 | |
重症のSSc-PAHには約半数で肺静脈閉塞症(PVOD)様病変を合併している可能性がある。確定診断は組織学的検査によるが、胸部CTで小葉間隔壁の肥厚、小葉中心性のすりガラス影、縦隔リンパ節腫大を認める場合に疑うことを提案する。 | 2C |
年齢及び心係数がSSc-PAHの予後規定因子(1C)であるため、これらの因子を考慮することを推奨する。男性、限局皮膚硬化型、WHOFC III、IV度、肺血管抵抗(PVR)も予後を規定する可能性(2C)があるため考慮することを提案する。 | |
右心不全に対する利尿剤投与、PaO2 60mmHgを維持するための酸素療法を行なうことを提案する。 | 2C |
SSc-PAHに対して免疫抑制療法は行なわないことを提案する。 | 2C |
肺動脈圧が境界域(21~24mmHg)、あるいはWHOFC I度の症例に対する薬剤介入の有用性は証明されていない。 | |
WHOFC II度のSSc-PAHに対して、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)(1B)を使用することを推奨する。また、ベラプロスト(2D)及びその徐放剤(2C)を使用することを提案する。 | |
WHOFC III度のSSc-PAHに対して、ERA(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、リオシグアト、エポプロステノール静注、トレプロスティニル皮下注、イソプロスト吸入を使用することを推奨する(1B)。ベラプロスト、トレプロスティニル静注を使用することを提案する(2B)。また、これらの薬剤の初期併用療法を行うことも提案する(2A)。 | |
WHOFC IV度のSSc-PAHに対して、エポプロステノール静注(1A)を推奨する。ERA(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、リオシグアト、トレプロスティニル皮下注及び静注、イソプロスト吸入(2C)、これらの薬剤の初期併用療法(2A)を行うことも提案する。 | |
SSc-PAHの治療目標は、WHOFC I度ないしII度、心エコー上右室機能の正常化、右心カテーテルにて右房圧<8mmHg及び心係数>2.5~3.0L/min/m2、6分間歩行距離>380~440m、BNPもしくはNT-proBNP正常化を目標とすることを推奨する。 | 1C |
ILDに伴うPH(ILD-PH)に対するPAH治療薬の使用は慎重に行うことを提案する。 | 2C |
難治性SSc-PAHやILDに対しては肺移植の適応を評価することを提案する。 | 2C |
イマチニブは難治性PAHに有用である場合があるが、安全性の観点から投与しないことを提案する。 | 2B |
SSc-PAHに対するリツキシマブの有用性は現在のところ明らかでない。 | |
指尖潰瘍のリスク因子として、若年発症、広範な皮膚硬化、抗トポイソメラーゼI抗体陽性などを考慮することを提案する。 | 2C |
喫煙は血管病変の危険因子であり、その予防・改善に禁煙を推奨する。 | 1C |
カルシウム拮抗薬はレイノー現象に対して有用であり推奨する。 | 1A |
抗血小板薬あるいはベラプロスロナトリウムはSScのレイノー現象に有用であり推奨する。塩酸サルポグレラートは皮膚潰瘍にも有用である。 | 1C |
アルプロスタジルはレイノー現象と指尖潰瘍に対する治療として推奨する。 | 1C |
ACE阻害薬やARBの血管病変に対する有用性は明らかではなく、使用しないことを提案する。 | 2D |
抗トロンビン薬は皮膚潰瘍治療に有用であり推奨する。 | 1C |
ボセンタンを指尖潰瘍新生を予防する治療として推奨する(1A)。症例によってはレイノー現象や指尖潰瘍縮小、他の部位の潰瘍にも効果が期待できる。アンブリセンタン(2C)も既存の指尖潰瘍に対する治療の選択肢の一つとして提案する。 | |
PDE5阻害薬のうちシルデナフィルをレイノー現象の緩和のための治療として提案するが(2B)、適応を慎重に考慮する必要がある。症例によっては指尖潰瘍の治療にも効果が期待できる。タダラフィルやバルデナフィルも症例によってはレイノー現象の治療の選択肢の一つとして提案する(2C)。 | |
高圧酸素療法は皮膚潰瘍治療に有用と考えられ、治療の選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
皮膚潰瘍・壊疽に対して分層植皮術は有用であり推奨する。安易な切断術は行わないことを推奨する。 | 1D |
交感神経切除術の血管病変に対する有用性が示されておらず、手術後の合併症の問題もあり、行わない事を提案する。 | 2D |
交感神経ブロックを血管病変に対する治療として選択肢の一つとして提案する。 | 2D |
スタチンを血管病変に対する治療として提案するが、適応を慎重に考慮する必要がある。 | 2B |
トラフェルミン、プロスタグランジンE1軟膏、白糖・ポビドンヨード配合軟膏、ブクラデシンナトリウム軟膏は皮膚潰瘍の改善に有用であり推奨する。 | 1D |
血管病変に対する効果が期待されている治療として、陰圧閉鎖療法(2D)、間欠的空気圧迫治療(2D)、濃厚血小板血漿(2D)、硝酸グリセリン貼付(2C)、ボツリヌス毒素(2C)あるいは血管新生療法(2D)などが報告されており、難治例では治療の選択肢の一つとして提案するが、適応を慎重に考量する必要がある。 |