免疫疾患の解説一覧

全身性強皮症 Systemic sclerosis (SSc)

概要

皮膚や内臓諸臓器が硬化する原因不明の自己免疫疾患である。以前は、全身性進行性硬化症 Progressive systemic sclerosis (PSS)の呼称が用いられていたこともあったが、進行性の症例ばかりではなく、現在では、Systemic sclerosis (SSc)もしくは Sclerodermaの呼称が用いられる。Systemic sclerosisを和訳すると「全身性硬化症」となるため、この用語もしばしば用いられるが、現在では「全身性強皮症」の呼称が最も一般的と考えられる。「強皮症」の文字を含む疾病に「限局性強皮症(Morpheaモルフェア)」とよばれる皮膚疾患があるが、内科的に「強皮症」と言う場合は「全身性強皮症(又は全身性硬化症)」を指しMorpheaとは別疾患である。患者数は全国で41,000人あまりとされるが、この統計には多発筋炎/皮膚筋炎が含まれること、強皮症にはびまん皮膚硬化型と限局皮膚硬化型の2種の病型があり限局皮膚硬化型の患者は含まれていない可能性があること、また別疾患である限局性強皮症(Morphea)の症例が統計に組み込まれている例があるなど、実態把握が困難である。男女比は女性に多く、1:9とされている。

年余にわたって、皮膚・肺・消化管などの病変が進行していくことが多いが、この病態には血管病変、臓器(組織)の線維化、免疫異常が相互に影響していると考えられる。

病型

疾患名
全身性強皮症: Systemic sclerosis (SSc) びまん皮膚硬化型: diffuse cutaneous (dcSSc) 全身の皮膚や臓器の線維化・硬化、抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl70抗体)が検出される場合に多い
限局皮膚硬化型: limited cutaneous (lcSSc) 手指や顔面に限局した硬化、抗セントロメア抗体が検出される場合に多い
限局性強皮症: Morphea   * ここで扱う全身性強皮症に含まない

全身性強皮症は、diffuse cutaneous SSc(びまん皮膚硬化型全身性強皮症:dcSSc)とlimited cutaneous SSc(限局皮膚硬化型全身性強皮症:lcSSc)とに分類される。limited cutaneous SScを限局性強皮症と訳している書物も多くみかけられるのでMorpheaと混同しないよう注意が必要である。lcSScはMorpheaとは異なる疾患であるが、どちらも「限局」と「強皮症」の文字が入るため混同されていることがある。dcSSc とlcSScの違いは、皮膚病変の拡がりの違いであり、lcSScが手指の病変のみで内臓病変を伴わないというわけではなく、心肺病変についてはむしろlcSScの方で頻度が高いといわれている。

皮膚組織の病理像の特徴として、病期初期には真皮層に浮腫性変化が観察される(浮腫期)。進行すると、真皮層の膠原繊維束が太くなり緊密化し、いわゆる硬化局面を形成する(硬化期)。硬化期を迎えた後、硬化局面が拡大進行していく例と、一旦硬化した局面が菲薄化し、萎縮してくる例(萎縮期)とに分かれる。

スキンスコア: modified Rodnan total skin thickness score: m-Rodnan TSS

母指と示指の指先で小さくつまんだ感じ(small pinch)と、末節指腹で大きくつまみ上げた感じ(large pinch)を、0-3点、17カ所で採点(最大51点)する。採点17カ所は、手指、手背、前腕、上腕、大腿、下腿、足背(ここまで左右)と顔、前胸部、腹部。手指はPIPとMCPの間をつまむ。一つの部位で硬化に違いがある場合は最大のスコアを採用する。

スコア 皮膚硬化 小さくつまみ上げる 大きくつまみ上げる 大きくつまみ上げた時の皮膚の厚み
0 なし できる できる 厚くない
1 軽度 できる できる 厚い
2 中等度 できない できる さらに厚い
3 高度 できない できない

症状

皮膚病変
皮膚の硬化 皮膚の硬化度はスキンスコア(別に掲載する)を用いる。当科では、皮膚硬度を客観的に測定できるVesmeterを開発し研究を行っている。手指の関節のしわが硬く深くなったりする。
レイノー症状 寒冷刺激や感情変化により手指の血管攣縮がおこり、色調が白色→青紫色→赤色と変化する。SLEや混合性結合組織病、シェーグレン症候群などでもしばしば観察される。色調の変化は一見してそれとわかるほどに明瞭である。
可動域制限 皮膚硬化のため可動域制限がみられる。顔面の皮膚硬化は「仮面様」となり開口障害を示す。手指関節のみならず、肘、肩関節といった大関節も可動域が減少し生活動作に支障をきたす。
皮膚の色素沈着 皮膚硬化局面では色素沈着が進行し褐色の外観を呈するようになるが、時間が経過すると褐色局面の中に色素脱失局面が散在したまだらの外観になる。
爪上皮内出血点 爪の生え際をルーペで拡大すると黒褐色の微細な点を認めることがある。上皮部分でUターンする微小血管の出血である。末梢血管の異常を示す兆候で強皮症に特異的ではない。
指末節の萎縮 指の末節は萎縮しペンシル状に先細りになる例や末節自体が短縮することがある。爪上皮は末梢側に伸び(爪上皮の延長)、きわめて短い長さの爪になることがある。
指尖部瘢痕 血行障害に伴い指尖部には中央の窪んだ痂皮や、指尖部陥凹性瘢痕が観察されることがある。(pitting scar)
消化器病変
舌小帯の短縮 舌裏面の垂直方向の靭帯である舌小帯の短縮が起こり、歯列より舌を前方に挙出できなくなる。
食道病変 壁の硬化に伴って食道収縮能を喪失する。特に下部食道は内腔が拡張し、食道造影では大根状の先細り陰影を見る。
下部消化管病変 蠕動運動が低下し、残渣の停滞、異常ガスの発生、吸収障害を起こしてくる。
肺・心臓病変
間質性肺炎 両側下肺野から進行する肺組織の線維化をみとめ、肺の伸展性が低下する。
肺高血圧症 SScでは肺動脈性肺高血圧症(PAH)、左心疾患によるPVH、間質性肺疾患によるILD-PHがある。SScのPAHでは肺の細動脈において血管内膜の細胞浸潤に乏しい線維化と内腔狭窄がおこり、血流量が低下する。右心系は肺循環を維持するために高圧で血液を押し出す必要が生じ、右心肥大、右心不全があらわれる。肺血管の攣縮は悪化要因である。
心病変 心筋の線維化に伴い拡張障害が見られやすい。心筋内の線維化の進展により伝導障害をおこすと、不整脈や脚ブロックが発生する。収縮障害や心嚢液が認められることもある。
腎病変
強皮症腎(腎クリーゼ) 小弓状動脈、小葉間動脈内膜下や糸球体の内膜の増殖と肥厚により内腔の狭窄と閉塞が発生し、腎血流量が低下することから、血清レニン活性上昇と著しい高血圧、腎機能障害があらわれることがある。2-4週間で腎不全に進行する急速な腎機能障害の経過をとる。
CREST症候群
皮下に多数の石灰沈着(calcinosis cutis)、レイノー現象(Raynaud phenomenon)、下部食道の拡張(esophageal dysmotility)、手指皮膚硬化(sclerodactyly)、毛細血管拡張症(telangiectasia)があわせてみられる場合、頭文字を組み合わせてCREST症候群と呼ばれる。

検査所見

血清学的検査では、抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体のいずれかが検出されることが多い。強皮症腎の発症者では、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体の陽性者が多いと報告されている。抗トポイソメラーゼI抗体はdcSScで検出されることが多く、抗セントロメア抗体はlcSScで検出されることが多い。その他、抗Th/To抗体、抗U3RNP抗体も本症と関連することが報告されている。抗核抗体の染色型では、微細斑紋型(discrete specked)は抗セントロメア抗体の存在を示している。

間質性肺炎は胸部CT・呼吸機能(肺活量)・KL6値、肺高血圧症は心臓超音波・心臓カテーテル・BNP値、食道病変は食道造影・内視鏡、などの検査で、診断や評価が行われる。

診断

全身性強皮症の診断基準:厚生労働省2010年
大基準
手指あるいは足指を超える皮膚硬化
小基準
1) 手指あるいは足指に限局する皮膚硬化
2) 手指先端の陥凹性瘢痕あるいは指腹の萎縮
3) 肺基底部の線維症(両側性)
4) 抗トポイソメラーゼ抗体(抗Scl70抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体
2013 Classification Criteria for Systemic Sclerosis(ACR/EULAR)
2013年分類基準(米国/欧州リウマチ学会)
項目 score
1. 両手指のMCP関節より近位の皮膚硬化 9
2. 手指の皮膚硬化:腫れぼったい指(2点)、PIPからMCPまでの皮膚硬化(4点)(高得点をカウント) 2または4
3. 指尖部病変:指尖部潰瘍(2点)、指尖部陥凹瘢痕(3点)(高得点をカウント) 2または3
4. 毛細血管拡張症 2
5. 爪郭部の毛細血管異常 2
6. 肺動脈性肺高血圧症、および/もしくは間質性肺疾患 2
7. レイノー現象 3
8. 抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体 3

治療

薬物治療

明らかな原因が特定されていないため各症状に対する対症療法が中心となる。SLEや皮膚筋炎などの他の膠原病と異なり、ステロイドの全身性強皮症への効果は限定的であるが皮膚硬化進行期に中等量以下で使用されることも多い。ステロイドは腎クリーゼのリスク因子となるため血圧をモニターする。免疫抑制剤ではシクロホスファミド Cyclophosphamide (CYC1mg/kg/day)内服の有効性が報告されているが、パルス療法での報告はされていない。他にシクロスポリン、タクロリムス、MMFなども選択肢の一つであるが、カルシニューリン阻害剤による腎クリーゼの発症が報告されており注意を要する。

SSc発症の4年以内に間質性肺炎が進行する例が多く、その後、進行は緩徐になる。進行が予測される例が治療適応になり、胸部HRCTによる病変の広がりや呼吸機能検査によるFVC低下やDLCO低下などをモニターして進行を予測する。CYC(経口で1~2mg/kg/day、点滴で0.4~1g/m2/1~3month)の有効性が報告され、維持療法としてアザチオプリンが報告されている。CYCは長期使用できないが安全性で優れるMMFの有効性も報告されている。食道逆流症による誤嚥が間質性肺炎を促進する可能性がありプロトンポンプ阻害剤を使用してもよい。

肺動脈性肺高血圧症については、血管内皮増殖の抑制および血管狭窄に対する対応が治療となる。血管内皮増殖に対するステロイドや免疫抑制薬の効果が期待されるが、現時点では効果は限定的である。血管拡張作用を有する薬剤として、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬などが使用される。重症例ではプロスタグランジンI2製剤静注を要するが、治療にはこれらの中から複数薬剤の併用が勧められている。

強皮症腎の進展では、血中レニン・アルドステロンの濃度上昇と血圧上昇、次いで血圧上昇による腎障害進展といった悪循環が発生することから、強皮症腎に対してはアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)を用いた強力なレニン・アルドステロン系の抑制が必要である。

物理的治療

全身性強皮症では、レイノー現象や肺高血圧症など多彩な血行不良を伴う症状があり、血流保持のために寒冷暴露を避けるよう指導する必要がある。日本では、冬期の部屋単位での暖房が行われるため各部屋、廊下、脱衣所などの温度差に留意し、買い物時に冷蔵冷凍食品類をなるべく素手で持たないなど患者指導が必要である。夏季は冷房の強く効いている場所へは、近寄らないなどの注意も必要である。手足などの末梢の血流不全には各種の懐炉や電気手袋などで外部から暖める必要がる。皮膚硬化から関節拘縮をきたす事があり、ストレッチを基本とするリハビリで手指の可動域を保つことも推奨されている。

全身性強皮症診療ガイドライン2016

日本皮膚科学会から全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会による診療ガイドラインが2016年に発表されている。ガイドラインは、証拠(Evidence)とともに本邦専門家の意見を取り入れてあり、ここでは推奨文章を抜粋した。全文は日皮会誌126(10) 1831-1896 2016にて閲覧可能であるため、詳細は原文を参考にされたい。

推奨の強さとエビデンスの強さ表示例
1A: 強い推奨、強い根拠に基づく
1B: 強い推奨、中程度の根拠に基づく
2C: 弱い推奨、弱い根拠に基づく
2D: 弱い推奨、とても弱い根拠に基づく
皮膚硬化
mRSSは、皮膚硬化の半定量的評価に有用であり、用いることを推奨する。 1B
皮膚硬化出現6年以内のdcSSc、数ヶ月から1年以内での急速な皮膚硬化の進行が認められる、触診にて浮腫性硬化が主体、のうち2項目以上を満たす例を治療対象とするべきと提案する。抗Scl70抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性はびまん皮膚硬化型に進展しやすい。 2D
ステロイド内服は、発症早期で進行している例においては有用であり投与を提案する。初期20~30mg/日を2~4週間その後減量し5mg/日程度で維持。 2C
ステロイドは腎クリーゼのリスク因子となるので、血圧と腎機能を慎重にモニターすることを推奨する。 1C
D-ペニシラミンはSScの皮膚硬化を改善しないと考えられ、投与しない事を提案する。 2B
シクロホスファミド(CYC)内服(1mg/kg/day)は皮膚硬化の治療の選択肢の一つとして考慮する。 2A
メトトレキサート(MTX)は皮膚硬化を改善させる傾向は認められているが、有用性は確立していない。 2D
シクロスポリン、タクロリムス、MMFを皮膚硬化に対する治療の選択肢の一つとして提案する。(いずれも本邦では保険適応はない) 2C
リツキシマブは皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応を慎重に選択しながら投与する事を提案する。 2B
IFNαは使用しないことを推奨する。 1A
イマチニブは皮膚硬化に対する有用性は明らかでなく、投与しない事を提案する。 2A
ミノサイクリンは皮膚硬化の治療として投与しないことを推奨する。 1A
造血幹細胞移植は皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択して行うことを提案する。 2A
長波紫外線療法は皮膚硬化の改善に有用である場合があり、行うことを提案する。 2C
間質性肺炎
全ての例で高解像度CTによるILDのスクリーニングを行なう。 1C
HRCTにおける線維化所見と病変あるいは病変全体の広がり、肺機能検査による努力肺活量(FVC)予測値により末期肺病変への進行リスクを予測し、治療適応を判断する。 1C
進行が予測されるSSc-ILDに対してシクロホスファミドの使用を推奨する。1年以内もしくは総投与量36g以内で経口(1~2mg/kg)や点滴(0.4~1g/m2)で使用される。 1A
SSc-ILDに対してCYC治療後の維持療法としてアザチオプリンの使用を提案するが、ファーストラインとして単独では使用しないことを提案する。 2C
SSc-ILDに対してMMFをCYCの代替療法として使用する。 2C
SSc-ILDに対してタクロリムスやシクロスポリンをファーストラインとしては使用しないことを提案する。腎クリーゼを誘発する可能性が指摘されている。 2D
SSc-ILDに対してCYCやMMFなどの免疫抑制剤に中等量以下のステロイド併用を提案するが、パルス療法を含むステロイドを単独では実施しない。 2D
SSc-ILDに対する治療としてボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタンは使用しないことを提案する。 2B
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対して少量イマチニブ(400-600mg)の使用は選択肢の一つとして提案する。 2C
SSc-ILDに対してTNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブの有用性は明らかでない。 ND
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対してリツキシマブを使用することを提案する。 2C
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対する選択肢の一つとしてピルフェニドンを用いることを提案する。 2D
CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対する選択肢の一つとして自己末梢血造血幹細胞移植を提案するが、移植関連死が起こり得るため慎重に適応を選択する必要がある。 2A
SSc-ILDでは微小誤嚥がILDの促進因子となる可能性があり、プロトンポンプ阻害薬の使用を提案する。 2D
消化管病変
上部消化管病変の症状に対して、アルコールや喫煙を控え、食事を少量頻回にする、食後すぐ横にならない、などの生活習慣改善を行なう。 1C
嚥下障害、逆流性食道炎、腹部膨満、偽性腸閉塞などの消化管蠕動運動低下症状に対して胃腸機能調整薬(ドンペリドン、モサプリド、エリスロマイシン:1B。メトクロプラミド:2B。イトプリド、アコチアミド、トリメブチン:2C)にて治療を行なうことを推奨する。  
胃食道逆流症に対してPPI投与を行なうことを強く推奨する。 1A
上部消化管蠕動運動異常の症状に対して六君子湯での治療は選択肢の一つとして提案する。 2D
上部消化管の重症な胃食道逆流症に対して、限られた症例においてのみ、適切な術式での手術療法を選択肢の一つとして提案する。 2D
上部消化管の重症な通過障害に対して、バルーン拡張術を選択肢の一つとして提案する。 2D
上部消化管の蠕動低下や狭窄などによる通過障害に対して、空腸以降の蠕動が良好で通過障害がない場合に、空腸栄養チューブを用いた経管栄養を選択肢の一つとして提案する。 2D
腸内細菌叢異常増殖に対して、細菌の異常増殖による吸収不良がある場合には、抗菌薬を順次変更しながら投与することを推奨する。広域スペクトラムのキノロン系のノルフロキサシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシンやアモキシシリンを基本に、順次変更しながら治療する事が多い。メトロニダゾール、ゲンタマイシンなどの有効性報告もある。 1D
腸の蠕動運動低下の症状に対して水分摂取、低残渣食、成分栄養などの食事療法を提案する。 2D
腸の蠕動運動低下に対して消化管機能調整薬(ドンペリドン、メトクロプラミド、モサプリド、ジノプロストなど)での治療を推奨する。 1D
腸の蠕動運動低下に対して消化管機能改善薬が無効の症例においてオクトレオチドでの治療を提案する。 2B
腸の蠕動運動低下に対して、大建中湯での治療を選択肢の一つとして提案する。 2D
腸の蠕動運動低下に対して、パントテン酸での治療を選択肢の一つとして提案する。 2D
腸の蠕動運動低下に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する。 2D
腸管嚢腫様気腫症に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する。 2D
腸の蠕動運動低下に対して、ネオスチグミン、ベサコリンの副交感神経作用薬での治療を選択肢の一つとして提案する。 2D
重篤な下部消化管病変による通過障害に対して、限られた場合を除き、手術療法を行わないことを推奨する。 1D
重篤な下部消化管病変である蠕動運動低下による偽性イレウスや吸収障害に対して、在宅中心静脈栄養を選択肢の一つとして提案する。 2D
腎病変
SScの腎障害は、強皮症腎クリーゼ(SRC)以外もあり、薬剤性腎障害(カルシニューリン阻害剤など)、p-ANCA陽性の糸球体腎炎の報告もある。 1C
SRCの数パーセントには高血圧症を伴わない病態がある。血漿レニン活性高値などの所見を参考に診断することを推奨する。 1C
SRC発症を予測する危険因子は抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性(1A)、発症4年以内のびまん皮膚硬化型、急性に皮膚硬化が進行、新規の貧血、新規の心嚢液貯留、うっ血性心不全、高用量ステロイド使用(15mg半年以上):2C  
SRCの重症度は、治療開始時の血清クレアチニン、eGFRにて評価することを推奨する。筋肉量が少ない場合では血清シスタチン値も用いる。 1C
ACE阻害薬はSRC治療に有効であり、第一選択薬として推奨する。 1C
ARBはSRCの第一選択薬としては使用しないことを提案する。 2C
ACE阻害薬にても正常血圧を維持できない場合はカルシウム拮抗薬の併用を選択肢の一つとして提案する。 2D
ACE阻害薬でのSRCの予防効果の報告はなく、予防のためには投薬しないことを推奨する。 1B
SRCは急速に腎機能が悪化して腎不全に至る例があり、その場合血液透析での治療を推奨する。 1C
SRCによる透析患者に対して、腎移植を選択肢の一つとして提案する。 2C
心臓病変
心臓の拡張障害はSScに合併する心臓病変として最も頻度が多く、約20%のSSc患者に認めるためスクリーニングを行なうことを推奨する。 1C
SScに合併する心臓病変には拡張障害の他、収縮障害、冠動脈疾患、伝導障害、心外膜炎、弁膜症(A弁、M弁)などがあり検索を行なうことを推奨する。 1C
心筋障害のスクリーニング及び重症度評価に際しては、血清学的マーカーのBNPまたはNT-proBNPの測定を提案する。 2C
SScに伴う心臓病変の検出には心臓MRI(心臓の線維化の評価)及び心筋シンチグラフィーを行なうことを提案する。 2C
Ca拮抗薬はSScに伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する。 2C
ACE阻害薬やARBはSScに伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する。 2C
SScに伴う心臓病変に特異的な治療薬はなく、原因疾患に応じた治療を行なうことを提案する。 2C
SScに伴う心外膜炎に対してはステロイド(中等量)の投与(2D)を提案する。 SScに伴うその他の心臓病変に対する免疫抑制療法の有用性は明らかではない。  
肺高血圧症(PH)
SScに合併するPHには肺動脈性肺高血圧症(PAH)、左心疾患によるPH(PVH)、間質性肺疾患によるPH(ILD-PH)がある。それぞれSScの10%、10%、2.5~3%程度である。  
lcSSc、抗セントロメア抗体、抗U1RNP抗体がPAHのリスク因子となるが、全てのSSc患者で年一回の定期的なスクリーニングを推奨する。 1C
スクリーニングに有用な検査は、身体所見(毛細血管拡張)、血清学的検査(BNPやNT-proBNP高値、尿酸値高値)、心電図(右軸偏位)、呼吸機能検査(%FVC/%DLCO高値)、心エコーが有用であり推奨される。 1C
心エコーにて三尖弁逆流速度(TRV)が3.4m/sを越える、もしくは推定右室収縮期圧(RVSP)が50mmHgを越える場合にはPHである可能性が高い(2A)ため右心カテーテルを行なうことを提案する。TRVが3.4m/s以下もしくはRVSPが50mmHg以下の場合(2B)には、その他にPHを疑わせる所見があれば右心カテーテルを行なう。  
重症のSSc-PAHには約半数で肺静脈閉塞症(PVOD)様病変を合併している可能性がある。確定診断は組織学的検査によるが、胸部CTで小葉間隔壁の肥厚、小葉中心性のすりガラス影、縦隔リンパ節腫大を認める場合に疑うことを提案する。 2C
年齢及び心係数がSSc-PAHの予後規定因子(1C)であるため、これらの因子を考慮することを推奨する。男性、限局皮膚硬化型、WHOFC III、IV度、肺血管抵抗(PVR)も予後を規定する可能性(2C)があるため考慮することを提案する。  
右心不全に対する利尿剤投与、PaO2 60mmHgを維持するための酸素療法を行なうことを提案する。 2C
SSc-PAHに対して免疫抑制療法は行なわないことを提案する。 2C
肺動脈圧が境界域(21~24mmHg)、あるいはWHOFC I度の症例に対する薬剤介入の有用性は証明されていない。  
WHOFC II度のSSc-PAHに対して、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)(1B)を使用することを推奨する。また、ベラプロスト(2D)及びその徐放剤(2C)を使用することを提案する。  
WHOFC III度のSSc-PAHに対して、ERA(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、リオシグアト、エポプロステノール静注、トレプロスティニル皮下注、イソプロスト吸入を使用することを推奨する(1B)。ベラプロスト、トレプロスティニル静注を使用することを提案する(2B)。また、これらの薬剤の初期併用療法を行うことも提案する(2A)。  
WHOFC IV度のSSc-PAHに対して、エポプロステノール静注(1A)を推奨する。ERA(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、リオシグアト、トレプロスティニル皮下注及び静注、イソプロスト吸入(2C)、これらの薬剤の初期併用療法(2A)を行うことも提案する。  
SSc-PAHの治療目標は、WHOFC I度ないしII度、心エコー上右室機能の正常化、右心カテーテルにて右房圧<8mmHg及び心係数>2.5~3.0L/min/m2、6分間歩行距離>380~440m、BNPもしくはNT-proBNP正常化を目標とすることを推奨する。 1C
ILDに伴うPH(ILD-PH)に対するPAH治療薬の使用は慎重に行うことを提案する。 2C
難治性SSc-PAHやILDに対しては肺移植の適応を評価することを提案する。 2C
イマチニブは難治性PAHに有用である場合があるが、安全性の観点から投与しないことを提案する。 2B
SSc-PAHに対するリツキシマブの有用性は現在のところ明らかでない。  
血管病変
指尖潰瘍のリスク因子として、若年発症、広範な皮膚硬化、抗トポイソメラーゼI抗体陽性などを考慮することを提案する。 2C
喫煙は血管病変の危険因子であり、その予防・改善に禁煙を推奨する。 1C
カルシウム拮抗薬はレイノー現象に対して有用であり推奨する。 1A
抗血小板薬あるいはベラプロスロナトリウムはSScのレイノー現象に有用であり推奨する。塩酸サルポグレラートは皮膚潰瘍にも有用である。 1C
アルプロスタジルはレイノー現象と指尖潰瘍に対する治療として推奨する。 1C
ACE阻害薬やARBの血管病変に対する有用性は明らかではなく、使用しないことを提案する。 2D
抗トロンビン薬は皮膚潰瘍治療に有用であり推奨する。 1C
ボセンタンを指尖潰瘍新生を予防する治療として推奨する(1A)。症例によってはレイノー現象や指尖潰瘍縮小、他の部位の潰瘍にも効果が期待できる。アンブリセンタン(2C)も既存の指尖潰瘍に対する治療の選択肢の一つとして提案する。  
PDE5阻害薬のうちシルデナフィルをレイノー現象の緩和のための治療として提案するが(2B)、適応を慎重に考慮する必要がある。症例によっては指尖潰瘍の治療にも効果が期待できる。タダラフィルやバルデナフィルも症例によってはレイノー現象の治療の選択肢の一つとして提案する(2C)。  
高圧酸素療法は皮膚潰瘍治療に有用と考えられ、治療の選択肢の一つとして提案する。 2D
皮膚潰瘍・壊疽に対して分層植皮術は有用であり推奨する。安易な切断術は行わないことを推奨する。 1D
交感神経切除術の血管病変に対する有用性が示されておらず、手術後の合併症の問題もあり、行わない事を提案する。 2D
交感神経ブロックを血管病変に対する治療として選択肢の一つとして提案する。 2D
スタチンを血管病変に対する治療として提案するが、適応を慎重に考慮する必要がある。 2B
トラフェルミン、プロスタグランジンE1軟膏、白糖・ポビドンヨード配合軟膏、ブクラデシンナトリウム軟膏は皮膚潰瘍の改善に有用であり推奨する。 1D
血管病変に対する効果が期待されている治療として、陰圧閉鎖療法(2D)、間欠的空気圧迫治療(2D)、濃厚血小板血漿(2D)、硝酸グリセリン貼付(2C)、ボツリヌス毒素(2C)あるいは血管新生療法(2D)などが報告されており、難治例では治療の選択肢の一つとして提案するが、適応を慎重に考量する必要がある。  

強皮症腎(腎クリーゼ)(Scleroderma renal crisis: SRC)

腎クリーゼは全身性強皮症の重篤な合併症の一つであり、高血圧を伴い急性に腎不全をきたす。びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)の12%、限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)の2%で発症との英国での報告がある。本邦では欧米より少なく5%と報告されている。正常血圧を呈する腎クリーゼが10%あるとの報告もある。溶血性貧血、血小板減少、軽度の蛋白尿や円柱を伴い、血栓性微小血管症の症状を呈することがある。全身性強皮症に対するステロイド投与、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性は腎クリーゼのリスク因子と考えられており、これらの場合は血圧と腎機能を注意深くモニターする。血圧の自己測定が推奨され、急な血圧上昇の場合には本病態を疑う必要がある。

病理

小弓状動脈、小葉間動脈内膜下や糸球体の内膜の増殖と肥厚により内腔の狭窄と閉塞を生じ、血栓性微小血管症の病理像となる。この像は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に類似する。

症状

高血圧性緊急症(頭痛、悪心、意識障害)、心不全(呼吸困難)、腎不全の症状があらわれる。

腎クリーゼを予測するリスク因子
びまん皮膚硬化型全身性強皮症
皮膚病変の急速な進行
4年未満の病期
抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
新規の貧血
心嚢液貯留やうっ血性心不全などの新規の心イベント
先行するステロイド投与
検査所見

腎障害として、蛋白尿(2.5g/日以上の高度になることはまれ)、顕微鏡的血尿(5~100/HPF)、血清クレアチニン上昇がみられる。血漿レニン活性は正常の30~40倍と著しく上昇する。自己抗体では、抗RNAポリメラーゼIII抗体がリスク因子と考えられている。破砕赤血球を伴う微小血管性溶血性貧血(60%)、網状赤血球の増加、血小板減少(50%)がみられることがある。心筋への高血圧負荷、高レニン血症、腎障害による乏尿で容量負荷を伴い、うっ血性心不全(呼吸困難、肺水腫)、心室性不整脈、心嚢液貯留などをきたすことがある。血圧が落ち着けばこうした症状は改善する。

診断

急速に進行する腎障害の鑑別として、顕微鏡的多発血管炎(炎症とMPO-ANCA陽性が特徴)、TTP(ADAMTS13活性低下)、d-ペニシラミンなどの薬剤性腎障害を鑑別する必要がある。

腎クリーゼ分類基準(Steen VD et al. 1990)
項目
1. 眼底所見KW IIIまたはIV
2. 痙攣
3. 蛋白尿
4. 血尿
5. 微小血管性溶血性貧血
6. 高窒素血症
7. 高レニン血症
腎クリーゼ分類基準(Penn H 2007)

びまん皮膚硬化型全身性強皮症、限局皮膚硬化型全身性強皮症が存在し、以下がみられる

項目
24時間を経て少なくとも2回、150/85mmHg以上の高血圧が新たに出現。
少なくとも30%以上のeGFRの低下を確認する。可能なら血清クレアチニンを繰り返し測定し確認する。

急性腎クリーゼの診断を確実にするため以下の所見があれば確からしい

微小血管性溶血性貧血(血液塗抹)
急性高血圧症に典型的な網膜症
尿中赤血球の新規出現
肺水腫の出現
乏尿あるいは無尿
腎生検による特徴的変化の確認

腎クリーゼ重症度分類(本邦強皮症調査研究班2010)
重症度 内容
0. Normal 正常
1. Mild Cr 0.9~1.2mg/dl、または、尿蛋白1+~2+
2. Moderate Cr 1.3~2.9mg/dl、または、尿蛋白3+~4+
3. Severe Cr 3mg/dl以上
4. Very severe 血液透析が必要
治療

ACE阻害剤(captoprilとenalaprilに文献が多い)を投与、増量し早期に血圧コントロールする。高血圧性脳症や乳頭浮腫をきたしている場合はACE阻害剤の増量と並行してニトロプルシドあるいはペルジピン持続点滴、利尿などでて血圧降下をはかる。安定してきたら長時間作用型のACE阻害剤へ変更し継続する。腎機能が悪化した場合、人工透析の導入も考慮される。血栓性微小血管症が重篤な場合は、血漿交換も治療選択肢となる。

腎クリーゼに対して過去には両腎摘出術が行われていたこともあったが、1979年にACE阻害剤の有効例が報告されて以来、全身性強皮症腎クリーゼの予後は大きく改善された。1990~2005年英国王立サセッックス病院の110例の報告では5年生存率59%。36%は人工透析不要だったが、23%の患者で一時的透析(透析期間1~34月、平均11月)、41%は維持透析が必要となった。

参考文献

2017/Nov