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免疫介在性壊死性ミオパチー immune-mediated necrotizing myopathy (IMNM)

概念

重症筋障害の臨床症状と筋線維壊死を特徴とする病理所見から2003年に提唱された特発性炎症性筋疾患である。抗SRP抗体陽性、抗HMGCR抗体陽性、さらにどちらの抗体も検出されない血清反応陰性(seronegative)の3タイプが提唱されている。抗SRP抗体や抗HMGCR抗体を有する患者血清をマウスに投与すると補体依存性の筋障害をきたすことが確認されており、自己抗体依存性の補体活性化が病因と考えられ、immune-mediated necrotizing myopathy(IMNM)あるいは necrotizing autoimmune myopathy(NAM)などと呼ばれる。生検ではリンパ球浸潤に乏しい筋線維壊死を呈し、非壊死部で補体沈着が見られる。自己抗体測定や筋生検がされないと本診断名には至らず、多発性筋炎として診断されている例が多い。本邦の筋炎コホートでは特発性炎症性筋疾患460名のうち177名(38%)がIMNMと診断(抗SRP抗体陽性39%、抗HMGCR抗体陽性26%、両抗体陰性35%)された。IMNMでは筋障害が重いため、初期からステロイドと免疫抑制剤併用での加療が必要である。抗SRP抗体陽性では間質性肺炎や心臓合併症、血清反応陰性では悪性腫瘍の合併が多く、これらの合併症は予後に影響するため注意が必要である。

臨床症状と検査所見

急性~亜急性に進行する近位筋力低下が特徴で、ある時点から明らかに筋力が低下している場合は注意する。階段昇降困難、登攀性起立、ものを持ち上げにくいなどの対称性の四肢近位筋力低下、頚部筋力、特に頚部伸筋低下から首下がり症候群を呈することがある。嚥下筋、呼吸筋も侵されうる。多発性筋炎と比べて筋酵素の著明な上昇(CK値が数千あるいは1万IU/Lを超えることもある)が目立つ。特に抗SRP抗体陽性では頚部筋低下や嚥下困難を伴う重症の筋力低下が見られやすい。若年発症で慢性の経過をたどる抗SRP抗体や抗HMGCR抗体陽性例も報告され、筋ジストロフィーと暫定診断されていることもある。自己抗体に病原性があり抗体価は疾患活動性と相関する。スタチン製剤使用者の20%に筋痛などの筋症状が現れるが、多くのスタチン製剤関連ミオパチーは直接的な薬剤性筋障害で薬剤の減量や中止後に軽快する。遺伝背景を有して抗HMGCR抗体が産生されるとIMNMを発症すると考えられている。スタチンは椎茸などキノコ類、紅麹米、プアール茶など発酵食品に含まれ、これらの習慣的摂取による症例も報告されている。抗SRP抗体陽性は女性に多く遺伝背景としてHLA-DRB1:0803、1403、抗HMGCR抗体陽性も女性に多くHLA-DRB1:1101などのアレルが報告されている。抗RNP抗体、抗Ku抗体などでもIMNM様の筋線維壊死の病理像がみられることがある。

SRP(signal recognition particle)複合体は7S-RNAと6種類の蛋白から構成される細胞質RNA結合蛋白で小胞体に位置しており、抗SRP抗体は細胞質を染める。HMGCR(3-hydroxy-3-methylglutaryl-coA reductase)はコレステロール生合成過程でHMG-coAをメバロン酸に変える酵素で小胞体膜に位置しており、細胞質側の触媒領域にスタチンが結合して酵素活性を阻害する。抗SRP抗体と抗HMGCR抗体は受託測定が可能である(保険適応外)。

診断と合併症

生検による病理組織所見や自己抗体検出がなければ厚生労働省2015年診断基準では多発性筋炎と診断され、IMNMの診断には至らない。特発性炎症性筋疾患におけるIMNMの頻度を考えると、同疾患を疑った場合は抗SRP抗体と抗HMGCR抗体を積極的に測定することが大切であろう。抗体陽性で臨床症状が一致すれば診断される。抗体が陰性、抗体測定できない、あるいは不確かな結果、非典型的な臨床症状の場合などでは筋生検を行う。

筋生検でのIMNMの病理組織は筋線維の不均一な壊死像、さまざまな段階の壊死像、筋ファゴサイトーシス、再生像が見られる。リンパ球浸潤には乏しいがマクロファージが見られることがあるなどが特徴的である。また、以下のような所見も免疫介在性壊死性ミオパチーが支持される。非壊死筋線維の筋線維膜にMHC class Iの発現がさまざまな程度に見られる。補体沈着(膜侵襲複合体membrane attack complex;MAC、C5b-9)が非壊死線維の筋線維膜上に見られる。オートファジーマーカーp62が一部の筋線維で細粒状均一に染色される。線維化と脂肪組織に置換され萎縮した筋線維。NADH-tetrazolium reductase染色で筋線維が荒く染まる。血管壁の拡大。

気をつける合併症として、抗SRP抗体陽性では胸部CTで間質性肺炎が23-38%で見られる。心電図、心エコー、心MRIなどで伝導障害、不整脈、心不全、心筋炎などの心臓合併症が2-40%で見られる。抗HMGCR抗体陽性では筋外合併症に乏しい。悪性腫瘍合併率は抗SRP抗体陽性では上がらないが、抗HMGCR抗体陽性では少し高いという報告もある。血清反応陰性IMNMは悪性腫瘍の合併率が高く21%との報告がある。

治療

経口(プレドニゾロン1mg/kg/day)あるいは点滴によるステロイド投与を行うが、ステロイド単独では不十分なことが多く、治療開始1ヶ月以内の早期から免疫抑制剤を併用する。抗SRP抗体陽性ではMTX(0.3 mg/kg/week)が使用されることが多い。嚥下障害や歩行障害をきたす重症ではリツキシマブ(740 mg/m2 maximum 1 g、day 1とday 15で投与。本邦では保険適応外)による代替や併用を6ヶ月以内に検討する。さらにIVIG(2 g/kg/month 3ヶ月以上継続)もそれらに次ぐ選択肢である。抗HMGCR抗体陽性もステロイドにMTXを併用し、効果不十分では6ヶ月以内にIVIGを検討するべきとされる。抗HMGCR抗体陽性ではリツキシマブは抗SRP抗体陽性例ほど有効ではなくIVIGに次ぐ選択肢とされる。血清反応陰性例は抗HMGCR抗体陽性に準じることが推奨されている。MTX開始1ヶ月後にプレドニゾロンの漸減を開始。免疫抑制剤はMTX以外に、アザチオプリン、MMF、シクロフォスファミド、シクロスポリンなどがセカンドラインとしてあげられている。プレドニゾロンを終了あるいは最小まで減量して2年間寛解を維持した後に免疫抑制剤を減量し始めることが推奨される。

また、抗HMGCR抗体陽性での脂質異常合併に対してスタチン継続は好ましくなく、抗PCSK9抗体などの使用が考慮される。理学療法は疾患活動性には悪影響を及ぼさない。多くの場合治療は長期に及び、ステロイドや免疫抑制剤の減量で再燃することが多い。抗SRP抗体や抗HMGCR抗体陽性では2年後には4分の1で日常生活が困難になることがある。将来的には形質細胞や補体経路に対する抗体医薬など新しい治療戦略が考えられている。

参考文献

2021/Apr