大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎の3疾患を不完全に混合し、血清学的に抗U1-RNP抗体単独高値を特徴とする。膠原病は、臨床的に似た症例を集めて、ひとくくりの疾患概念として、分類基準を用いて分類(診断)する。しかし、この方法でも全ての症例を典型的な疾患概念へ分類する事はできない。既存の疾患概念のいずれにも当てはまらない症例(未分化型結合組織病 Undifferentiated Connective Tissue Syndrome/Disease :UCTS/UTCD)がある一方で、複数の疾患概念に同時に満たす症例がある。複数の疾患概念を同時に完全に満たす場合を重複症候群(overlap syndrome)とし、不完全に満たす場合を混合性結合組織病 (mixed connective tissue disease :MCTD)とする。
MCTDの有病率は人口10万人あたり6~8人程度であり、男女比は 1:13~15と女性に多い。患者は40歳代が多く、推定発症年齢は30歳代とされる。本疾患を構成する3疾患と共通の成因が想定されるが、遺伝的背景が異なる可能性も示唆されている。抗U1-RNP抗体陽性の特徴として、レイノー現象、多発関節炎、肺高血圧症などがあげられる。
本疾患を構成する3疾患の症状が見られるが、いずれも軽微であることが多い。共通症状としてレイノー症状と手指のソーセージ様の腫脹を高頻度にみとめる。腫脹のためしばしば手指を握り込めなくなる(じゃんけんのグーが出来ない)。多発関節炎がしばしばみられる。他の疾患に比べて肺高血圧症の合併が高頻度(5~10%)にみられ、予後規定因子となっている。無菌性髄膜炎がみられることがある。
血液検査として、抗U1-RNP抗体が単独高値となることが特徴とされているが、全身性エリテマトーデスや全身性強皮症・皮膚筋炎に伴う自己抗体がみられることもある。その他、補体の低下や血球減少、筋酵素増加など、構成する各疾患に典型的な異常検査値が出現する場合がある。
MCTDにともなう肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症であり、肺細動脈の変化により肺動脈圧の上昇をきたす。心臓超音波検査でその存在が推定され、心臓カテーテル検査で診断される。右心不全が顕在化すれば、BNPなど心不全マーカーが上昇する。
I.共通所見 |
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II.免疫学的所見 |
抗U1-RNP抗体陽性 |
III.特徴的な臓器所見 |
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IV.混合所見 |
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I、II、IIIの各一つ以上が陽性。または、I、IIの各一つ以上が陽性、かつIVのA、B、C項より2項目以上でそれぞれ1所見以上が陽性。(難病医療費助成の臨床調査個人票は後者の基準のみ)
小児の場合はI、IIの各一つ以上が陽性、かつIVのA、B、C項より1項目以上でそれぞれ1所見以上が陽性。
予後や臓器障害と関与する疾患標識抗体(抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体、抗ARS抗体、抗MDA5抗体)が陽性の場合はMCTDの診断は慎重に行う。無菌性髄膜炎はウイルスなどによる感染性髄膜炎や薬剤性髄膜炎、腫瘍関連髄膜炎などを十分に鑑別する。
治療は本疾患を構成する3疾患の治療に準じる。ステロイド治療が基本となるが免疫抑制剤を用いる事もある。ステロイド治療に良く反応し一般的に予後は良好であるが、ステロイドに反応しにくい強皮症症状のみが残存する事がある。
膠原病性の肺高血圧症に対する免疫療法は評価が定まっていないが、ステロイドや免疫抑制薬が有効である場合が報告されている。原発性肺高血圧に準じて治療を行なう。肺高血圧を合併すると予後は不良である。
括弧内は順に、エビデンスレベル、推奨度、同意度。
MCTDの診断・評価 | |
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MCTDの診断では、共通する症状として「レイノー症状」、「指または手背の腫脹」の有無が重要。(D, A, 5.0) 特徴的な臓器障害として「肺動脈性肺高血圧症」、「無菌性髄膜炎」、「三叉神経障害」が重要。(D, A, 4.9) 臨床検査では抗U1-RNP抗体の測定を行う。(D, A, 5.0) 他疾患の疾患特異的抗体が陽性の場合は慎重に診断する。(D, A, 5.0) 生理・画像検査では心エコー、肺機能検査、胸部CT、右心カテーテル検査を行う。(D, A, 4.9) |
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肺高血圧症と重症間質性肺疾患は生命予後に影響を及ぼすため評価が重要。(D, A, 5.0) | |
重症度の評価は、現行の重症度分類を使用しても良い。(D, B, 4.7) | |
MCTD合併妊娠では早産、低体重児など胎児合併症のリスクとなりうるが、肺高血圧症などの重症臓器障害を伴わない場合は許容しても良い。(D, B, 4.4) | |
MCTDの臨床所見と治療 | |
肺高血圧症 | 選択的肺血管拡張薬を投与する。(D, A, 4.6) 治療経験豊富な施設で免疫抑制療法(ステロイドやIVCY)を行う。(D, A, 4.3) |
無菌性髄膜炎 | NSAIDsの投与は行わない。(D, D, 4.9) ステロイドを使用しても良い。(D, B, 4.8) 神経精神ループス様のびまん性中枢神経症状の合併では免疫抑制剤(大量ステロイド、経口CY、ミゾリビンなど)を使用しても良い。(D, B, 4.6) |
三叉神経障害 | ステロイドの治療反応性は低く、使用しない方が良い。(D, C, 4.2) カルバマゼピンなどの抗てんかん薬を投与しても良い。(D, B, 4.8) |
全身性エリテマトーデス様所見には、SLEの各病態に準じた治療を行う。(D, A, 4.7) | |
全身性強皮症様所見には、SScの各病態に準じた治療を行っても良い。(D, B, 4.4) | |
多発性筋炎/皮膚筋炎様所見には、PM/DMの各病態に準じた治療を行っても良い。(D, B, 4.7) | |
小児のMCTDは初発時に混合所見は乏しいことが多く、病期によって症状が加わるため、診断では成人と異なった判断を行う。(D, A, 4.2) | |
高齢者のMCTDは頻度が少なく、高齢者の特徴に留意した診断と治療を考える。(D, B, 4.6) | |
橋本病など自己免疫性甲状腺疾患の併発に注意して甲状腺機能検査をしても良い。(D, B, 4.6) | |
患者報告アウトカム(PRO)によるQOL評価をしても良い。(D, B, 4.8) |