免疫疾患の解説一覧

SLEの治療 Management of Systemic Lupus Erythematosus

2023改訂SLE患者の管理に関するEULAR推奨

HCQ、ステロイド、免疫抑制剤(MTX、MMF、AZA、シクロホスファミド)、カルシニューリン阻害剤(CyA、TAC)、および生物製剤(ベリムマブ、アニフロルマブ、RTX)の使用、治療戦略と目標、評価、併用と逐次療法、薬の漸減について意見された。HCQ は病勢と網膜毒性を考慮し、目標量5mg/kg実体重/日で全ての患者に推奨。ステロイドは疾患活動性期間の「橋渡し治療」とし、維持療法は5mg以下最小限にして可能なら中止。疾患制御とステロイドの漸減/中止を促進するため、免疫抑制剤(MTX、AZA、MMF) 、生物学的製剤 (アニフロルマブ、ベリムマブ) の迅速な開始を考慮する。臓器を脅かす疾患ではシクロホスファミドが、難治性疾患ではRTXを考慮する。活動性ループス腎炎は、ステロイド、MMFまたは低用量のIVCYを中心に、ベリムマブやTACの追加を考慮する。
HCQヒドロキシクロロキン、MTX メソトレキサート、AZA アザチオプリン、CyA シクロスポリン、TAC タクロリムス、RTX リツキシマブ、IVCY 静注シクロフォスファミド

包括的原則(文末の数字は同意レベル)
A. SLEの管理は患者と社会のコストを考慮し、患者教育と共有された意思決定による学際的な個別管理が必要だ。(9.88)
B. SLEの疾患活動性は、臓器障害の評価 (少なくとも年1回) とともに、来院ごとに(頻度は医師の裁量)検証済みの方法(SELENA-SLEDAI、SLEDAI-2K、BILAGなど)で評価する。(9.74)
C. 長期的な転帰の改善に、日焼け止め、禁煙、健康的でバランスの取れた食事、定期的な運動、骨の健康を促進する手段など非薬理学的介入が重要。(9.90)
D. 投薬は、患者の特徴、臓器障害の種類と重症度、治療関連のリスク、併存疾患、進行性の臓器障害のリスク、および患者の好みによって決定される。(10)
E. SLEの早期診断 (血清学的評価を含む)、臓器障害 (特に腎炎)の定期的スクリーニング、寛解(寛解が不可能な場合は低疾患活動性)を目指した迅速な治療の開始、治療の厳格な遵守は、再燃および再発を防ぐために不可欠で、臓器障害を軽減し、予後を改善し、生活の質を向上させる。(9.81)
推奨/提言(文中は証拠レベル/推奨グレード。文末の数字は同意レベル)
1. HCQは、禁忌でない限り全ての患者(1b/A)に、目標量5mg/kg実体重/日 (2b/B)で推奨されるが、再燃(2b/B)と網膜障害のリスクで増減させる。(9.21)

HCQは主なSLE治療薬である。5mg/kg以下だと再燃リスク2倍。腎疾患、黄斑疾患、網膜疾患、タモキシフェン使用などが網膜障害リスクなので眼科での緻密なモニターが必要。

2. ステロイドは必要に応じ臓器障害の種類と重症度によって投与(2b/C)、維持用量 ≤5 mg/日(プレドニゾン相当量)(2a/B)に減らし、可能なら中止する。中等から重症はmPSLパルス(125~1000mg/日、1~3日間)を検討する(3b/C)。(9.57)

ステロイドの使用を最小限にすることが今回の主要な議論だった。ステロイドの慢性暴露が主要な副作用のリスクであり、目標維持量が2019年版のプレドニゾン7.5mgから5mgに下げられ、ステロイドは完全中止を目指して「橋渡し療法」としての位置付けである。mPSLパルスは重症度と体重に応じた量で投与し、その後の経口ステロイドの早い減量を可能にする。

3. HCQ(単独またはステロイド併用)に反応しない、またはステロイドを長期使用が許される量未満に減らせない場合、免疫抑制剤MTX(1b/B)、AZA(2b/C)、MMF(2a/B)、生物製剤ベリムマブ(1a/A)、アニフロルマブ(1a/A)を考慮する。(9.32)

生物製剤は腎外SLEに対して承認されたが、疾患活動性を下げ、再燃やステロイド量を減らす。ベリムマブとアニフロルマブの間の直接比較はなく、今の時点では病態の選択性は示されてはいない。従来の免疫抑制剤も引き続き使用が同意された。

4. 臓器や生命を脅かす疾患はIVCY(2b/C)を考慮する。難治性ではRTX(2b/C)が考慮される場合がある。(9.38)

生殖毒性のため高用量IVCYは重篤な症例のみ使用。RTXは免疫性血球減少などを除いて他の薬剤が無効な時に推奨される。IVCYとRTXの組み合わせは利点がない。いずれにも反応しない場合は、血漿交換、造血幹細胞移植、治験など他の選択肢もある。2022年に重症難治性SLE5名にCART細胞療法が有望な結果で発表されたが長期データが必要だ。

5. 活動性皮膚疾患は外用薬(ステロイド、カルシニューリン阻害剤)(2b/B)、抗マラリア薬(HCQ)(1a/A)、必要に応じて全身性ステロイド(4/C)を含める。二次療法としてMTX(1b/B)、MMF(4/C)、アニフロルマブ(1a/A)、ベリムマブ(1a/B)は考慮される。(9.35)

第一選択は外用薬、抗マラリア薬、全身性ステロイド。皮膚病変の経験のある皮膚科医とともにダプソン、レチノイド、カルシニューリン阻害剤、AZA、シクロフォスファミド、RTXなどを第2選択、第3選択として考慮できる。MTXとMMFは同様の奏効率65%。アニフロルマブとベリムマブもともに皮膚粘膜症状に有効性を示す。活動性皮膚病変指標ではアニフロルマブの効果が示された。

6. SLEによる活動性精神神経疾患は、炎症症状に対してステロイドや免疫抑制剤 (1b/A)、アテローム血栓症/抗リン脂質抗体関連症状に対しては抗血小板剤/抗凝固剤(2b/C) を考慮する。(9.68)

脊髄症や急性錯乱状態ではIVCYやRTXなどの強力な免疫抑制剤が優先される。生物製剤は臨床試験では活動性精神神経疾患を有する患者は除外されており、有効性の証拠は不足。

7. 重度の自己免疫性血小板減少症の急性期治療は、高用量ステロイド(mPSLパルスを含む)(4/C)にIVIG(4/C)追加も可能、またはRTX(2b/B)や高用量IVCY(4/C)、それに続く維持療法はRTX(2b/B)、AZA(2b/C)、MMF(2b/C)、またはシクロスポリン(4/C)を考慮する。(9.48)

血小板2~3万/mm3以下で治療適応。IVIGありなしによらずステロイドパルスやプレドニゾン0.5~0.7mg/kg/日。RTXはITPで有効性が示されている。ITPではMMFを使用すると再発が減少する。薬剤抵抗性ではトロンボポエチン受容体アゴニストや摘脾が選択肢になるが、TPOアゴニストを先に使用する。

8. 活動性増殖性ループス腎炎患者は、低用量(ユーロループス)IVCY(1a/A)、またはMMF(1a/A)とステロイド(mPSLパルスとその後減量して経口)、ベリムマブ(IVCYまたはMMF(1b/A)のいずれかと)またはカルシニューリン阻害剤(特にMMFと組み合わせたボクロスポリンまたはタクロリムス、1b/A)との併用療法を考慮する。(9.36)

低用量IVCYや、ステロイド+MMF、の標準療法にベリムマブを併用すると標準療法単独よりも再燃を55%減少させGFRが良好に維持される。カルシニューリン阻害薬にはネフローゼ状態の蛋白尿の減少効果がある。腎炎に対する治療奏功率を上げるためベリムマブやカルシニューリン阻害薬の早期併用が考慮されたが、高額医療や一部患者の過剰治療の指摘がある。アジア人の集団で高用量IVCYに対するMMFとTAC併用療法の優位性が確認されている。ステロイドは感染症などの安全上の懸念がない限り寛解導入でmPSLパルス250~1000mgを1~3日間が推奨され、その後、経口0.3~0.5mg/kg/日。原則として累積ステロイド量を減らす。

9. 腎反応後ループス腎炎の治療は少なくとも3年継続する(2b/B)。最初にMMF単独、またはベリムマブやカルシニューリン阻害剤との併用で治療を受けた患者は、これらの薬剤の投与継続(1a/A)。一方、最初にIVCY単独(1a/A)やベリムマブ併用(1a/A)で治療を受けた患者は、シクロホスファミドの代わりにMMFまたはAZAを投与する。(9.56)

初期治療の目標は2019EULAR/ERA-EDTA目標に従って腎反応をモニタリングする(尿蛋白減少が3ヶ月で25%以上、6ヶ月で50%以上、1年で0.5~0.7g/日、GFRの低下は基礎値から10%以内)。MMFとカルシニューリン阻害薬は寛解導入には良いが、長期の維持療法として投与するとカルシニューリン阻害薬の腎毒性やGFR低下と関連する。

10. 腎不全のリスクが高い患者(GFRの低下、細胞半月またはフィブリノイド壊死の組織学的存在、または重度の間質性炎症)は、mPSLパルス併用で高用量IVCY(NIHレジメン)(1a/A)が考えられる。(9.57)

腎機能障害が進行する例があるが、臨床試験ではGFR30未満(ベリムマブのBLISS試験)やGFR 45未満(ボクロスポリンのAURORA試験)では除外されておりこれらの薬剤の有効性は不明だ。こうした患者でも昔の試験データでは高用量IVCYで改善を見ている。

11. 持続的寛解を達成したら最初にステロイドを中止、その後に投薬を徐々に減らしていくことを考慮する。(9.89)

ステロイドは完全離脱に向けて徐々に漸減する。免疫抑制剤の中止に関してはループス腎炎では治療期間と中止前の寛解期間が特に重要で、中止前に少なくとも3~5年間の治療と、少なくとも2年間寛解状態にある必要がある。また、漸減を非常に徐々に行う必要がある。HCQは許容できない副作用がない限りは継続する。

12. 抗リン脂質症候群 (APS) を伴うSLEは、最初の動脈血栓イベントまたは原因不明の静脈血栓イベントの後には長期のビタミンKアンタゴニストで管理する(1b/B)。APSはないが高リスクプロファイル(2a/B)を持つSLE患者では低用量アスピリン(75~100 mg/日)を考慮する。(9.57)

SLE関連APSは原発性APSの治療に従う。ループスアンチコアグラント陽性、2種類の検査陽性、3種類の検査陽性では一次予防に低用量アスピリンを考慮する。HCQは抗血栓効果を有しSLE関連APSでは特に推奨される。3臓器以上に及ぶCAPSでは抗凝固、高用量ステロイド、血漿交換の3重の治療にIVIGを考慮。補体介在性のTMA(微小血管性溶血性貧血/血小板減少症/急性腎障害)の特徴を有するCAPSにはC5阻害抗体エクリズマブの有効性の報告がある。

13. 感染症(帯状疱疹ウイルス、ヒトパピローマウイルス、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、肺炎球菌)の予防接種、骨の健康、腎保護、心血管リスクの管理、悪性腫瘍のスクリーニングを行う(5/D)。(9.85)

感染症/敗血症の迅速な特定と管理は SLE において不可欠で、強力な免疫抑制剤 (例、高用量 ステロイド、IVCY、RTX) の投与では日和見感染症を注意深く監視する。腎保護作用のあるACE阻害剤やARBを用いて130/80mmHg以下を目指す。GFRが60~90ml/minや尿蛋白が0.5~1g/日ではSGLT-2阻害剤を考慮して良い。

非腎性SLEの治療

非腎性SLEの治療

上から下の順序は優先順位を意味するものではない(MTX、AZA、MMFは、軽度では第2選択、中等症では第1選択で同等の選択肢)。
軽症:全身症状、軽度関節炎、体表面積9%以下の皮疹。血小板数5~10万/mm3、SLEDAI≤6、BILAG Cのみ、BILAG Bが一つ以下。
中等症:中等~重度の関節炎(関節リウマチ様)、体表面積9%~18%の皮疹、血小板2~5万/mm3; 漿膜炎、SLEDAI 7~12、BILAG B症状二つ以上。
重症:主要臓器を脅かす(脳炎、脊髄炎、肺炎、腸間膜血管炎)。血小板2万/mm3未満。TTP様疾患または急性血球貪食症候群。体表面積18%以上の皮疹、SLEDAI>12、BILAG A症状が一つ以上。
重篤な疾患における第一選択療法としてのベリムマブおよびアニフロルマブの推奨は、主要臓器ではないが、皮膚、関節などの広範囲の疾患を伴う腎外 SLEを指す。重症での追加としてのアニフロルマブは、主に重篤な皮膚疾患を指す。重度の精神神経疾患患者にはアニフロルマブとベリムマブは推奨されない。

ループス腎炎治療

ループス腎炎治療

上から下の順序は優先順位を意味するものではない。一般的な腎保護薬に加え、ベリムマブは常に初期療法としてMMFや低用量IVCYと組み合わせ、維持療法として MMF または AZA と組み合わせて投与。カルシニューリン阻害剤はMMFと組み合わせて投与。高用量IVCYは予後不良因子(eGFR の低下、細胞半月やフィブリノイド壊死の組織、重度間質性炎症)が存在するループス腎炎に特に推奨される。重症のループス腎炎では月毎6回のパルスの後に隔月または四半期ごとのIVCYの延長投与。RTXは特に IVCYのレジメンに失敗した再発性/難治性疾患で考慮される。

SLE治療に使用される薬の推奨用量
ステロイド 軽症~中等症:20mg/日以下で開始。
重症~臓器を脅かす病態:mPSLパルス(250~1000mg/日を1~3日)、その後経口プレドニゾロン(0.3~0.5mg/kg/日)で開始。
維持量は5mg/日以下。
ヒドロキシクロロキン
(CKDで用量調整)
目標用量5mg/kg/日(400mg/日まで)。
長期寛解状態であれば200mg/日に減量を考慮する。
MTX
(CKDで用量調整)
10~25mg/週。週一日、一回あるいは2回に分けて。
アザチオプリン
(AZA)
(CKDで用量調整)
2~3mg/kg/日。一回あるいは2回に分けて。
寛解状態であれば2mg/kg/日以下に減量を考慮する。
投与前Nudix hydrolase 15 (NUDT15)遺伝子検査でリスク評価。
ミコフェノール酸モフェチル
(MMF)
(CKDで用量調整)
重症や臓器を脅かす病態、ループス腎炎初期治療:MMF2~3g/日 1回あるいは2回に分けて。
ループス腎炎の維持療法:1~2g/日、2回に分けて。
シクロフォスファミド
(IVCY)
(CKDで用量調整)
ループス腎炎初期療法:500mg点滴0、2、4、6、8、10週で(低用量ユーロループスレジメ)。
重症や臓器を脅かす:0.75~1g/m2体表面積/月の点滴を毎月計6回半年(高用量NIHレジメ)。
シクロスポリンA
(CKDでは避ける)
1~3mg/kg/日あるいは400mg/日まで。一日2回に分けて。
タクロリムス
(CKDで用量調整)
0.05~0.1mg/kg/日 あるいは2~4mg/日。一日2回に分けて。
12時間後の血中濃度目標4~6ng/ml。
IVIG 2g/kgを2~5日間
アニフロルマブ 300mg点滴。4週間毎。
ベリムマブ 10mg/kgを0、2、4週、その後は4週毎に点滴。
または、200mg/週を毎週皮下注射。
難治性の関節症状、皮膚症状などに適応外として使用されることがある トシリズマブ、アバタセプト
JAK阻害剤(血栓症や癌のリスク因子がある場合は注意。抗リン脂質抗体症候群併存では使用しない。)
TNF阻害剤(薬剤性ループスを生じることがあり使用は稀)

2019改訂ループス腎炎管理に対するEULAR/ERA-EDTA推奨

包括的原則
SLEの腎病変は、罹患率と死亡率の主な原因で、高額な医療・社会的費用を要し、患者と医師の意思決定を共有した学際的なケアにより最良に管理される。
腎障害を示唆する症状や兆候に対する警戒、腎臓病理学者による組織学的評価、専門センターからの情報提供により、最適な結果が保証される。
治療目標は、患者の生存、腎機能の長期保存、病気の再燃予防、臓器障害の予防、併存疾患の管理、および病気に関連した生活の質の改善を含む。
ループス腎炎活動期は疾患活動性を制御するための初期の強力な免疫抑制療法、その後は治療反応を強化し再発を防ぐ通常は強くない長期治療からなる。
推奨/提言(文中は証拠レベル/推奨グレード、文末は同意レベル)
1. ループス腎炎が疑われる患者の検査
1.1 腎病変の証拠がある場合、特に持続性タンパク尿0.5g/24時間 (または朝の最初の排尿でUPCR 500mg/g) (2b/B)や、原因不明のGFR減少(2b/C)は腎生検を考慮する。(9.84)
1.2 腎生検は依然不可欠で、診断と予後に関する価値は他の検査で換えられない(2b/B)。(9.96)
2. 腎生検の病理学的評価
2.1 国際腎臓学会/腎病理学協会ISN/RPS 2003分類システムの使用が推奨され(2a/B)、活動性および慢性性指標(1b/A)、APS関連の血栓性病変や血管病変が追加評価される(2b/C)。(9.56)
3. 免疫抑制剤の適応
3.1 クラス IIIA または IIIA/C (±V) および IVA またはIVA/C (±V) 腎炎では、ステロイドに免疫抑制剤の併用が推奨される(1a/A)。(9.96)
3.2 純粋なクラスVで、ネフローゼ状態の場合(2b/B)やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系遮断薬の最適な使用にもかかわらず UPCRが1000 mg/gを超える場合(5/D)は、ステロイドと免疫抑制が推奨される。 (9.04)
4. 成人ループス腎炎の治療
治療目標
4.1 治療は腎機能の最適化(保存や改善)を目的とし、3か月までに少なくとも25%(2b/D)、6か月までに50%(2a/B)の蛋白尿の減少、および12か月までにUPCR目標を500~700 mg/g未満(2a/B)にする(完全な臨床反応)。(9.60)
4.2 当初のネフローゼ状態から完全な臨床反応に達するまで、さらに6~12か月かかる場合があり(2a/C)、蛋白尿が改善していれば治療をすぐに切り替える必要はない。(9.68)
初期治療
4.3 クラス III または IV (±V) のループス腎炎、MMF (目標用量: 2~3 g/日)(1a/A)または低用量IVCY (2週毎500mgを計6回) (1a/A)。ステロイド併用は、有効性/毒性比が最も優れているため推奨される。(9.84)
4.4 MMF (目標用量: 1~2 g/日)とCNI (特にTAC)併用は(1a/B)、ネフローゼ状態では代替となる。(9.32)
4.5 腎不全リスクが高い患者(GFR低下、半月体形成、フィブリノイド壊死、重度の間質性炎症)は、4.3~4.4と同様に治療するが(2b/B)、高用量IVCY (毎月0.5~0.75g/m2を6か月間投与)(1a/B)も考慮できる。 (8.88)
4.6 ステロイドの累積量を減らすには、mPSLパルス投与(総用量500~2500 mg、疾患の重症度に応じて)が推奨される(2b/C)。その後経口PSL(0.3~0.5 mg/kg/日)を最大4週間、3~6ヶ月で7.5mg/日以下まで漸減する。(9.48)
4.7 純粋なクラス V は、MMF (目標用量2~3 g/日)(2a/B)とmPSLパルス(総用量500~2500 mg、重症度に応じて) 併用(2b/C)、その後、経口PSL(20mg/日、3か月までに5mg/日以下に漸減)は、有効性/毒性比が最も優れ初期治療として推奨される。(9.28)
4.8 クラス Vの代替には、特にネフローゼ状態ではIVCY(2b/B)、カルシニューリン阻害剤単独 (特にTAC)(2b/B)やMMFとの併用(1b/B)が含まれる。(9.28)
4.9 HCQは5mg/kg/日を超えない量でGFRに合わせて調整して(3b/C)併用するべきだ(2a/B)。(9.28)
初期治療後の治療
4.10 初期治療後に改善が達成された場合、MMF (1~2g/日。特に初期治療で使用された場合) (1a/A)または AZA (2mg/kg/日。妊娠が考えられている場合) (1a/A)による免疫抑制が推奨される。疾患活動性を制御するため必要であれば低用量PSL(2.5~5mg/日)と併用する。(9.80)
4.11 少なくとも3~5年の治療で完全な臨床反応が得られた後、段階的な治療中止 (最初はステロイド、次に免疫抑制剤)を試みることができる(2b/C)。HCQは長期継続する。(9.4)
4.12 純粋なクラス Vは、最少有効量でカルシニューリン阻害剤 (TAC) の継続、切り替え、または追加を、腎毒性リスクを考えて検討できる(2b/B)。(9.28)
非反応性/難治性疾患
4.13 治療目標を達成できない場合、治療遵守の評価や治療薬のモニタリングなど、考えられる原因の徹底的評価が推奨される(5/D)。(9.84)
4.14 活動性がある非反応性/難治性疾患の場合、治療は上記の代替初期療法の一つに切り替えるか(2b/B-C)、RTX (0日目と14日目に1000 mg) (2b/C)を投与することができる。(9.64)
5. 補助治療
5.1 ACE阻害剤またはアンジオテンシン受容体拮抗薬は、UPCR >500 mg/g または動脈性高血圧症の全患者に推奨される(5/D)。(9.84)
5.2 スタチンは脂質レベルと、系統的冠動脈リスク評価や他の検証済みツールによる推定10年心血管疾患リスクに基づいて推奨される(5/D)。(9.52)
5.3 骨保護(Ca/Vit D補給や骨吸収抑制剤)、非生ワクチン予防接種は、治療関連および疾患関連の併存症を軽減する可能性があり推奨される(5/D)。(9.68)
5.4 抗リン脂質抗体(抗リン脂質症候群分類基準に関する国際コンセンサスステートメントで明確に定義されている)陽性の場合、抗体のプロファイルに基づき、メリットと出血リスクのバランスを考え、アセチルサリチル酸(80~100mg/日)を使用してもよい(2a/C)。(8.48)
5.5 血清Alb 2.0 g/dL未満のネフローゼ症候群では抗凝固療法を考慮する(5/D)。(9.76)
5.6 ベリムマブは、ステロイド減量を促進し、腎外病変の活動性を制御し、腎外病変の再燃リスクを低下させるため追加治療として考慮される場合がある(2a/C)。(8.48)
6. ループス腎炎のモニタリングと予後
6.1 診断または再燃後の最初の2~4か月間は2~4週毎に来院、その後は治療反応に応じて計画する。腎臓、腎外病変の活動性および併存疾患のモニタリングは生涯にわたる(5/D)。(9.4)
6.2 腎炎が進行時は毎回の来院時に、体重、血圧(自宅測定含む)、推定GFR、血清Alb、蛋白尿(UPCRや24時間蓄尿)、尿中赤血球数、沈渣、末梢血球数を評価する(2b/B)。安定すれば頻度を下げる。血清C3/C4と抗dsDNA抗体(2b/C)は定期的に監視する。(9.64)
6.3 腎病変の悪化、免疫抑制剤や生物製剤(上記で定義)に無反応、再燃などでは、病理クラスの移行、慢性化と活動性指標の変化の可能性、腎予後の推測、他の病態の検索を行うため、場合によっては再度の腎生検を考慮するべきだ(2b/B)。(9.84)
7. ループス腎炎における ESKDの管理
7.1 腎臓代替治療のすべての方法は、SLE患者に使用できる(2b/B)。(9.96)
7.2 透析中のESKDにおける免疫抑制は、腎外病変による(2b/C)。(9.76)
7.3 移植は他の腎臓代替治療の選択肢よりも優先される可能性があり、腎外病変が臨床的に(理想的には血清学的にも)少なくとも6か月間活動性のない場合に検討される(2b/C)。 生体ドナーとや予防移植の方が転帰は良好。(9.84)
7.4 抗リン脂質抗体は移植腎における血管イベントのリスク増加と関連するため(2b/C)、移植準備中に測定する必要がある。(9.48)
8. 抗リン脂質症候群とループス腎炎
8.1 抗リン脂質症候群関連腎症では、HCQに加えて、抗血小板/抗凝固薬(2b/C)による治療も考慮できる。(9.68)
9. ループス腎炎と妊娠
9.1 非活動性ループス腎炎で安定した患者では妊娠計画ができる(1b/A)。最適には過去6か月間UPCR500mg/g未満、GFR >50 mL/minである必要がある(2b/C)。(9.56)
9.2 HCQ(1b/B)、プレドニゾン(3b/C)、AZA(3b/C)、カルシニューリン阻害剤(特にTAC) (3b/C)などの妊娠に適した薬剤は、妊娠中および授乳期間を通して安全な量で継続する。(9.76)
9.3 代替の免疫抑制剤で再発しないよう、MMFは妊娠計画の少なくとも3~6か月前に中止する(5/D)。(9.29)
9.4 妊娠中は子癇前症のリスクを低下させるためアセチルサリチル酸が推奨される(2b/C)。(9.64)
9.5 患者は少なくとも 4 週毎に、できれば疾患の専門知識を持つ産科医を含む学際的チームによって評価する(5/D)。(9.56)
9.6 妊娠中のループス腎炎の再燃は、重症度に応じて上記の許容可能な薬剤とミコフェノール酸(日本では未承認)の静脈内投与で治療できる(3b/C)。(9.56)
10. 小児患者の管理
10.1 小児ループス腎炎はSLE発症時により一般的で、ダメージの蓄積を伴いより重篤である。 診断、管理、モニタリングは成人と同様(3b/C)。(9.68)
10.2 成人を診察する専門医への調整された移行プログラムは、治療を確実に遵守し、長期的転帰を最適化するために不可欠だ(5/D)。(9.84)

2019全身性エリテマトーデス診療ガイドライン

本邦のSLE診療の標準化を目指して、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)および日本リウマチ学会の合同で作成され南山堂から出版された。261ページからなる書籍からポイントのみ簡略したが、詳細は同書籍を参考にされたい。A~Dは証拠レベル:A (高い)、B (中)、C (低い)、D(非常に低い)、数字は合意度。

診断 ACR基準、SLICC基準を参考に臨床症候と検査所見から総合的に行う。小児は「小児SLE診療の手引き」参照。 8.8
ループス腎炎 国際腎臓学会/腎病理学会(ISN/RPS)分類Class III~Vは免疫抑制療法適応。Class III/IVは蛋白尿や腎機能障害と関連、Class Vは治療抵抗性蛋白尿が多い。Class III/IV特にClass III+V/IV+Vは予後不良。 8.8
ステロイドは生命・腎予後を改善させるが、大量・長期で副作用あり免疫抑制薬を併用し必要最少・最短で投与。 8.7
ステロイドはSLEの全般的活動性を考慮し、尿所見と腎機能を定期モニタリングして可能な限り減量。 8.7
腎炎寛解の定義は蛋白尿消失と腎機能正常が原則、長期的な正常腎機能保持のため早期寛解導入が重要。 8.4
Class III/IV寛解導入:PSL 0.5~1 mg/kg±mPSL pulse+MMF又はIVCY(A)。状況に応じ免疫抑制薬併用(C)。 8.6
Class V寛解導入:PSL 0.5 mg/kg+MMF(D)。必要に応じPSL増量(1 mg/kgまで)、IVCY、TAC(D)。 8.1
Class III/IV維持:必要最少ステロイド+MMF、場合によりAZP(B)、TAC(C)。 8.3
Class V維持:必要最少ステロイド+MMF、AZP、カルシニューリン阻害剤(C)。 8.3
腎炎合併は非合併より予後不良、SLEは心血管合併症多く降圧、脂質低下、抗血栓療法など補助療法を。HCQを考慮(C)。 8.4
NPSLE 各病型に応じて画像検査を参考に総合的に診断・活動性評価・治療効果判定。局所症状ではMRI、精神症状ではMRIと一般的な髄液検査を参考に、その他の原因を十分除外して診断・評価する 8.1
寛解導入:高用量ステロイドとIVCYを臨床症候と検査所見から総合的に判断(B)。APSに伴う脳血管障害鑑別に留意。 8.5
寛解導入へのRTXは既存治療抵抗性の場合の選択肢(C)。 8.1
維持:AZP(D)、又はMMF(D)。 8.1
皮膚症状 活動性評価にCLASI(cutaneous lupus erythematosus disease area and severity index)を使用。 7.7
診断困難例はループスバンドテスト(皮疹部や上腕内側の無皮疹部へのIgや補体の沈着)を行う(D)。 8.0
部位を考慮して適切ランク(頭部weak、体幹四肢mediumやstrong、手掌足底strongest)のステロイド外用薬(C)。 8.5
部位を考慮してTAC外用薬(C)。 8.2
重症、広範囲、高活動性はステロイド内服(D)、皮疹のみに対して長期投与せず可能なら速やかに減量中止(D)。 8.1
皮膚症状のみの治療に対して外用薬で不十分はHCQ内服(A)。 8.2
その他 関節炎:NSAIDs、少量ステロイド、HCQ、抵抗性はMTX(B)。MMF、TAC、AZPなど免疫抑制薬(D)、ベリムマブ(B)。 8.2
漿膜炎:中等~高用量ステロイド(C)、必要に応じIVCYなど免疫抑制薬併用(D)。 8.1
溶血性貧血:高用量ステロイド(C)、抵抗例は種々免疫抑制薬(AZP、IVCY、MMF)やRTX(D)。 8.2
血小板減少:ステロイドやHCQ(C)。種々免疫抑制薬(AZP、MMF、MTX、CyA、IVCY)やRTX、TPO作動薬、脾摘(D)。 8.1
血栓性微小血管症(TMA):TTP(溶血、血小板減少、ADAMTS13活性<10%)では血漿交換とステロイド(C)、TTP以外では血漿交換やステロイド(D)。必要に応じIVCYなど免疫抑制薬やRTXを考慮(D)。 8.4
間質性肺炎:急性はPSL 1 mg/kg±mPSL pulse、慢性進行性はPSL 0.5~1 mg/kg(D)。必要に応じ免疫抑制薬(IVCY、MMF)併用(D)。 8.1
心筋炎:高用量ステロイド(C)、必要に応じ種々の免疫抑制薬(MMF、IVCY、AZP)併用(C)。 8.3
動脈硬化性変化:原疾患加療+喫煙・高血圧・糖尿病・脂質代謝異常など一般的リスク因子の加療。SLEは心血管イベントリスクが高く治療目標設定する(D)。 8.5
肺高血圧症:病初期のステロイドやCYを用いた免疫抑制療法(C)。必要に応じ選択的肺血管拡張薬を考慮(C)。 8.1
肺動脈塞栓症:肺動脈塞栓症の標準治療に従う。疾患活動性・APS・血管炎の有無を総合評価し追加治療を考慮(C)。 8.3
肺胞出血:mPSL pulse、必要に応じIVCY、血漿交換を併用(C)。びまん性肺胞出血は人工呼吸管理含む補助療法も(C)。 8.5
ループス腸炎:PSL 0.5~1 mg/kg(C)、必要に応じCYなど免疫抑制薬を併用(D)。 8.4
膀胱炎:高用量ステロイド(C)、不十分ではmPSL pulseや種々の免疫抑制薬を併用(D)。 8.0
妊娠 挙児希望では適切な妊娠前スクリーニングの結果に基づきカウンセリング・情報提供。リスク評価は妊娠前数ヶ月間のSLE活動性・コントロール不良、腎症・高血圧症の存在、APS合併、抗リン脂質抗体陽性。 8.3
妊娠判明したときは産科・内科で共に評価。流産、子宮内胎児死亡、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、HELLP(hemolysis、elevated liver enzymes、low platelets)症候群、前期破水など妊娠合併症と血栓症リスクが高い。APS合併例、抗リン脂質抗体陽性例では「APS合併妊娠のガイドライン」を参照。抗SSA抗体、抗SSB抗体陽性例は妊娠18週頃から超音波検査で胎児不整脈管理を行い、新生児ループス発症にも留意。 8.3
妊娠高血圧腎症とSLE増悪の鑑別は難しいが、経過と各種所見を参考に総合診断する。治療・管理は産科・内科で連携し、双方の病態の治療とモニタリングを継続、適切な時期での分娩を検討。 8.2
妊娠計画時にMMF、CY、MTX、ミゾリビンは中止し他剤へ変更(B)。妊娠中の薬物の中心はステロイド、HCQを必要に応じ使用(B)。不十分例はカルシニューリン阻害薬(TAC、CyA)、AZPを考慮(C)。妊娠中の中等~重度再燃時はmPSL pulseやIVIGも考慮。妊娠中・後期ならCYも考慮(D)。授乳中はMMF、CY、MTXは避ける(D)。 8.1
モニタリング 疾患活動性指標、既存病変の推移、新規病変の確認、血清検査を定期的に行い疾患活動性と障害度をモニタリング。 8.4
SLEは多彩な臓器障害を示し、総合指標と各臓器についての臨床的寛解を評価する。 8.4
感染症やステロイド副作用など治療薬剤の合併症も考慮する。 8.4
HCQ:皮膚症状(A)、関節症状(B)、腎症(C)を改善させる可能性あり、それらでは考慮。再発抑制に有用で新規臓器病変抑制や生命予後改善が示唆され全患者で考慮(C)。長期使用で網膜症の可能性あり定期的に眼科診察(C)。 8.2
IVCY:Class III/IV寛解導入(A)。NPSLE(C)。その他重症病態にも検討(C~D)。CY総投与量増加は重篤合併症誘発の可能性があり注意(B)。 8.5
MMF:Class III/IV寛解導入(A)、維持(B)、Class V寛解導入(C)、維持(C)。腎炎以外にも治療抵抗例やステロイド減量困難例に考慮(D)。催奇形性あり挙児可能女性に投与時は避妊指導(B)。 8.3
カルシニューリン阻害剤:Class III/IV/V寛解導入、維持(C)。治療抵抗性血球減少やステロイド減量困難で考慮(C)。 8.2
RTX:NPSLEなど難治性病態を改善する可能性がありリスクベネフィット勘案して考慮(C)。 8.1
ベリムマブ:標準治療でも中等度以上の疾患活動性で追加(A)。しかし、NPSLEや重症ループス腎炎での効果や合併症については十分な検討がない。ステロイド減量を意図して寛解維持療法としてステロイドに併用(D)。 8.1
小児 小児SLEは円板状皮疹、光線過敏症、関節炎、漿膜炎の頻度低いが成人例と差異は少ない。成人より重篤な可能性もあり、実際に臓器機能予後や生命予後は不良である。「小児SLE診療の手引き」参照。 8.1
2023/Nov