大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University
Class I:微小メサンギウムループ腎炎 Minimal mesangial lupus nephritis |
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光顕で糸球体は正常(メサンギウム細胞3個以内)。 蛍光抗体法でメサンギウムに免疫沈着物が認められる。蛍光抗体法や電顕で沈着を認めない時はループス腎炎としない。 |
Class II:メサンギウム増殖性ループス腎炎 Mesangial proliferative lupus nephritis |
光顕でメサンギウムに限局した細胞増多(4個以上の核)、あるいはメサンギウムに限局した基質拡大を認め、メサンギウムに免疫沈着物がある。 上皮下あるいは内皮下沈着物が蛍光抗体法あるいは電顕で認められることがあっても光顕では認められない。 光顕で上皮下の沈着物を認める時はClass V、内皮下沈着物を認める時はClass III or IVを考慮する。 |
Class III:巣状ループス腎炎Focal lupus nephritis |
活動性あるいは非活動性、分節性あるいは全節性の管内性または菅外性の糸球体腎炎が全糸球体の50%未満に認める。 典型的には巣状の内皮下沈着物を伴い、メサンギウム変化は伴うことも伴わないこともある。 |
Class IV:びまん性ループス腎炎 Diffuse lupus nephritis |
活動性あるいは非活動性、分節性あるいは全節性の管内性または菅外性の糸球体腎炎が全糸球体の50%以上に認める。 典型的には巣状の内皮下沈着物を伴い、メサンギウム変化は伴うことも伴わないこともある。 |
Class V:膜性ループス腎炎 Membranous lupus nephritis |
光顕及び蛍光抗体法あるいは電顕で、全節性あるいは分節性の上皮下免疫複合体沈着物あるいはその結果による形態学的変化が認められる。 メサンギウム病変は伴うことも伴わないこともある。 |
Class VI:進行した硬化性ループ腎炎 Advanced sclerosing lupus nephritis |
90%以上の糸球体が全節性硬化を示し、非活動性の病変である。 この病変はClass III、IV、Vの進行した型であると思われる。 |
Class II + Class Vはなく、Class Vに分類される。
Class III or IV+Vとするときは、膜性変化が全節性かつびまん性に認められることが必要。
Modified NIH activity index | 割合(配点) |
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管内細胞増多 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
好中球/核崩壊 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
フィブリノイド壊死 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (2点)、25-50% (4点)、50%< (6点) |
硝子様沈着物 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
細胞/線維細胞性半月体 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (2点)、25-50% (4点)、50%< (6点) |
間質性腎炎 (皮質面積で間質性炎症のある面積) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
合計 | /24点 |
Modified NIH chronicity index | 割合(配点) |
全糸球体硬化スコア (全糸球体で全節性や分節性硬化糸球体) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
線維性半月体 (全糸球体で病変のある糸球体) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
尿細管萎縮 (皮質面積で尿細管萎縮のある面積) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
間質線維化 (皮質面積で間質線維化のある面積) |
0% (0点)、<25% (1点)、25-50% (2点)、50%< (3点) |
合計 | /12点 |
慢性腎臓病(CKD)は腎臓の構造または機能の異常が3ヶ月以上継続し、健康に影響を与える状態と定義され、原因、GFR (G1~5)、およびアルブミン尿(A1~3) に基づいて分類される。
1 一般管理
ループス腎炎の一般的管理 |
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ループス腎炎患者を含むSLEは、禁忌がない限り、HCQまたは同等の抗マラリア薬による治療を推奨する(1C)。 |
心血管リスク(禁煙、至適体重管理、運動などの生活習慣改善。脂質異常の管理。妊娠中の低用量アスピリン。血圧管理。)
蛋白尿とCKD進行(塩分過剰摂取を避ける。適正血圧管理。安定期では腎保護作用のあるRAASブロッカーやSGLT2阻害剤。腎毒性物質を避ける。AKIの予防。)
感染症リスク(帯状疱疹や結核の罹患歴評価。HBV、HCV、HIVウイルスの検索とHBVワクチン。ニューモシスティス肺炎予防。インフルエンザや肺炎球菌ワクチン。帯状疱疹組み換えワクチンの考慮。治療中には他の感染症に対する考慮。)
骨折(骨塩定量と骨折リスクの評価。CaとVitD補充。必要であればビスフォスフォネート製剤。)
紫外線暴露(日焼け止め。紫外線暴露を回避)
卵巣不全(性腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体リュープロレリン。精子/卵子の凍結保存。)
無計画妊娠(個々で評価と避妊法のカウンセリング)
癌(悪性腫瘍のリスク因子の評価。年齢に応じた癌スクリーニング。シクロホスファミドの生涯投与を36g未満にする)
2 クラスI/IIループス腎炎
3 クラスIII/IVループス腎炎
クラスIII/IVループス腎炎の初期治療 | ||||||||
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膜様成分の有無にかかわらず、活動性クラスIII/IVでは、初期ステロイドに加えて次のいずれかの療法を行うことを推奨する。① MMF (1B)、② 低用量静脈内シクロホスファミド (1B)、③ ベリムマブと MMFまたは低用量シクロホスファミド点滴(IVCY)のいずれか (1B)、④ 腎機能が重度に障害(eGFR≦45ml/分/1.73m2) されていない場合、MMFとカルシニューリン阻害剤(CNI) (1B)。
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ループス腎炎に対するステロイド投与量の例
用量 | 最初のパルス療法 | 2週毎の経口プレドニゾロン量mg/日 |
高用量 | mPSL0.25-0.5g/日を3日間、又はなし。 | 0.8-1.0mg/kg(max 80)、0.6-0.7mg/kg、30、25、20、15、12.5、10、7.5、7.5、5、5、25週以降は5mg未満へ。 |
中用量 | しばしばmPSL0.25-0.5g/日を最初3日間。 | 0.6-0.7mg/kg(max 50)、0.5-0.6mg/kg、20、15、12.5、10、7.5、7.5、5、5、21週以降は5mg未満へ。 |
低用量 | 通常mPSL0.25-0.5g/日を最初3日間。 | 0.5-0.6mg/kg(max 40)、0.3-0.4mg/kg、15、10、7.5、5、13週以降2.5mg、25週以降2.5mg未満へ。 |
ステロイドは免疫抑制効果と抗炎症効果があり、併用する免疫抑制剤の効果が現れるまで時間がかかるために使用される。急速進行性糸球体腎炎、中枢神経や肺障害などの重度病変がある場合、ステロイドパルスでの治療開始に一般的合意がある。ステロイドの副作用を最小にするため、最近の臨床試験は最初にステロイドパルスから開始し、より低い開始用量、経口ステロイドのより急速な漸減を行う方法が増えている。
活動性クラス III/IV ループス腎炎の初期治療におけるステロイドと併用したシクロホスファミド投与レジメ
高用量IVCY (NIHレジメ) |
0.5-1g/m2で毎月点滴を6ヶ月行う。 | 様々な人種を含む患者での有効性データ |
低用量IVCY (Euro-Lupusレジメ) |
0.5gを2週間毎に点滴を3ヶ月行う | 主にコーカシアン患者での有効性データ、いくつかはアジア人も含む |
経口 | 1-1.5mg/kg/日(最高150mg/日)で2-6ヶ月 | 様々な人種を含む患者での有効性データ |
クラスIIIおよびクラスIVループス腎炎の維持療法 |
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初期治療の完了後、維持療法でMMFを推奨する(1B)。 |
ループス腎炎での維持免疫抑制療法
低用量ステロイドに以下を追加 | |
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MMF | 高い証拠とアザチオプリンよりも低い再燃率から望ましい治療。 |
アザチオプリン | 低医療費、妊娠中でも使用できる |
MMF又はアザチオプリンにベリムマブ追加 | ベリムマブの有効性と安全性はBLISS-LN試験と延長試験で示されている。 |
カルシニューリン阻害剤とMMF | ボクロスポリンの有効性と安全性はAURORA1(52週)とAURORA2試験(2年)、タクロリムスは低用量MMFを併用したマルチターゲット療法(2年)の中国人での報告。 |
カルシニューリン阻害剤 | タクロリムスとシクロスポリンは妊娠中でも使用できる。ボクロスポリンは妊娠に関するデータ不十分。 |
ミゾリビン | 殆どが日本人での使用 |
4 クラスVループス腎炎
5 有効性と再燃
Complete response |
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Primary efficacy renal response |
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Partial response |
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No kidney response |
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1 | 治療遵守を確認 |
2 | 可能であれば血漿薬物濃度を測定し、免疫抑制剤の適切な投与量を確保(MMF濃度をチェックや、IVCY点滴記録のチェック) |
3 | 慢性化または他の診断(血栓性微小血管症など)が懸念される場合は、生検を繰り返す |
4 | 活動性が持続する場合は、推奨されている代替治療レジメへの切り替えを検討 |
5 | 最初の治療レジメに抵抗性の患者では以下を検討する ・RTXまたは他の生物製剤の追加 ・IVCYの延長追加 ・適格な治療法が不十分と判断された場合は、臨床試験に参加 |
1 ループス腎炎と血栓性微小血管症(TMA)
ループス腎炎および血栓性微小血管症(TMA)の患者は、TMAの病因に応じて管理する。
ループス腎炎にTMA合併を疑う場合、ADAMTS13活性と抗ADAMTS13抗体を測定、抗リン脂質抗体を測定する。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)リスク評価(PLASMICスコア)し、5点以上なら測定結果を待ちながら血漿交換とステロイドを開始する。
2 ループス腎炎患者の妊娠
3 小児におけるループス腎炎の治療
4 腎不全を伴うループス患者の管理
ループス腎炎関連慢性腎臓病(CKD)は心血管疾患や二次性免疫不全のリスクを上げる。CKD進行を抑えるには免疫因子と、非免疫リスク因子の両方に対処が必要である。制御可能な非免疫性リスク因子には、主に肥満、高血圧、塩分や蛋白質を多く含む食事、糖尿病、妊娠などネフロンの過剰濾過の原因が含まれ、腎毒性物質や喫煙も腎細胞の喪失に関与する。これら管理可能なリスク因子を制御することが大切。内因性リスク因子には、未熟児出産によるネフロン量の不足、腎症の遺伝子変異、加齢、男性、腎疾患の既往など。許容される最大量のRAS阻害剤、場合によってSGLT2阻害剤併用は残存ネフロンの過負荷を軽減できる。腎不全、心血管疾患、感染症のリスクを最小限に抑える管理は有益である。
ループス腎炎関連慢性腎臓病の進行に修正可能と修正不可能なリスク因子
修正可能なリスク因子 | 管理目標 |
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塩分摂取 | NaCl <5g/日。 |
蛋白質制限 | CKD3~5では蛋白質≤0.8g/kg /日、>1.3g/kg/日を避ける。 |
健康的な食事 | 植物由来食品>動物由来食品、塩分の多い加工食品を最小限に、必要に応じてリン酸塩とカリウムの摂取を減らす。 |
身体活動 | 中程度の強度 >150分/週。 |
喫煙 | やめる。 |
糖尿病 | 1型糖尿病: HbA1c ≤7.5%、2型糖尿病: 6.5~8.5%。 |
太り過ぎ | BMIを25以下に下げる。 |
血圧 | 塩分制限とRAS阻害剤で収縮期血圧120mmHg未満に。 |
腎毒性物質 | NSAID、PPI、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤はメリットがリスクを上回る場合にのみ使用。 |
動脈硬化性心血管疾患 | 50歳以上のCKD患者におけるスタチンまたはスタチン/エゼチミブの併用。 |
妊娠 | 患者の腎機能と腎機能予備能を考慮した個々の母体と胎児のリスクについてアドバイスする。 |
修正不可能なリスク因子 | チェック |
ネフロン量 | 低出生体重または早産(妊娠36週未満)ですか? |
腎臓損傷の既往歴 | 一時的に腎機能が低下した経験はありますか? |
進行性CKD | CKDステージG3~5またはA2~3。 |
腎症遺伝子変異 | APOL1、COL4、UMOD(または既知の300を超える腎疾患遺伝子のいずれか)。 |
老いた腎臓 | 50歳以上。 |
男性の性別 | 男性は予後が悪い傾向がある。 |
ループス腎炎関連慢性腎臓病進行の非免疫機構を減弱させる薬剤
薬剤 | 適応 |
レニン・アンジオテンシン系阻害剤 | 高血圧の有無にかかわらず、タンパク尿を伴う慢性腎臓病 |
SGLT2阻害剤 | タンパク尿、肥満、2型糖尿病を伴う慢性腎臓病 |
GLP-1作動薬 | 肥満、慢性腎臓病、2型糖尿病 |
非ステロイド性ミネラルコルチコイド拮抗薬 | 慢性腎臓病および2型糖尿病 |
ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬 | レニン・アンジオテンシン系阻害薬に加えて血圧をコントロールする |
その他の利尿薬 | レニン・アンジオテンシン系阻害薬に加え、血圧コントロール、高カリウム血症コントロール |
スタチン、スタチン-エゼチミブ | 50歳以上の慢性腎臓病患者 |